第14話 逃走と作戦会議

「回復のアイテムはマナと体力を五つほどでいいよ」

「うん、カードはどうすればいい?」

「本当ならお気に入りのカード二種類を二枚か三枚ずつ持のがオススメだけど、シズネはまだ全部の武器ためしてないしね。【複射マルチシュート】とあとは好きそうなやつを持っていけばいいんじゃないかな」

「じゃあ……【狙撃アーチャー】のカードにする! 近づかなくていいなんて私向けだしね!」


 周りのお墓から集めたアイテムを見つめながら、これから持っていくアイテムを選んでいく。ヒナのアドバイスをもとに、持っていくものをアイテム収納用のポーチに詰め込んだら準備オッケー!


「それじゃあ次の戦闘エリアもわかったことだし、そろそろ移動しよっか」


 持てるだけの物資と、好きな装備。これで戦闘準備は完璧だ!

 こうして装備が潤沢になると、サンディーさんにもらった装備だけでは心もとない、という言葉の意味がわかってくる。


 そして、忘れ物はないかなとあたりを見渡した時、ふと岩陰に隠れている金色に光るお墓を見つけた。


「あ、まだ見てないのがあったんだ。ちょっと見てくるねー」

「わかったー」


 そしてお墓を調べると、見たことのない特殊アイテムが見つかった。


「マジカル鍋の蓋? なにこのヘンテコなアイテム?」

「あぁ、それはネタ枠のアイテムだね」

「ネタ枠?」

「うん、面白いけど使い道がないってこと。相手の魔法攻撃を一度だけ防いでくれるんだけど、防御範囲は狭いし一回しか防げないから、ほとんどだれも使わないんだよ」


 確かに、蓋自体かなり小さいし、これで攻撃をしっかりと受け止めるのはかなり難しそうだ。


「持って行ってもいい? 【狙撃アーチャー】のカードを一枚減らしてさ」

「いいけど、あんまり期待しないほうがいいよ」

「うん、わかった」


 身を守るアイテムなんていくらあってもいいんだし、使ってみよう!

 そんな思いで、手持ちアイテムを整理すると私たちは戦闘エリアに向けて歩き始めるのだった。


 ――その瞬間、光が私の頭をかすめていった。


「え?」

「シズネ! 隠れて!」


 ヒナに引っ張られて岩陰へと身を隠す。

 何が起きたの?

 さっきまで自分がいた場所に目を向けると、魔法の矢が突き刺さっていた。

 私が移動を開始しようと歩き始めていなければ、間違いなく魔法の矢は私の頭に刺さっていたと思う。


「魔法発射の音も魔法陣の光も見えなった! 千メートル以上先からの超遠距離攻撃!」


 ヒナが冷静に状況を分析していく。


「せ、千メートル!? そんなところから狙うってすごいね」

「いや、この距離で正確に頭を狙ってくるっていうのは正直うまいを超えてるよ。いくらシズネが止まっていたとはいえね」

「それって、もしかして――」


「うん、出会っちゃったかも。チーターに」


 少し前にヒナが言っていたチーター。

 名前は確かチトセだったっけ?

 ズルをしてゲームに勝つ人たちのことって聞いたけど、こういうことだったんだ。

 でも、それじゃあどうやって勝てばいいんだろう。


「この状況から相手を倒すのはたぶん無理だね。こっちからは遠すぎて相手の姿も見えないし」

「そうだよね……でも、それじゃあどうやってチーターの人は私たちのこと見つけたんだろ?」

「マップハックって呼ばれるチートだね。敵がどこにいるのか常にマップに表示されるようにするチート行為のこと」

「何それ!? どこにどれくらいの人がいるのか、わかってるってこと?」


 常にマップに映るって、なにそれズルイ!


「うん。この辺りの生き残りが私たちだけになったから、倒しに来たんじゃないかな?」

「倒しに来たって……ど、どうするの?」

「今は急いで逃げるしかないね。距離を詰められたらヤバそうだし」


 そしてヒナは【飛行フライ】のカードをセットして飛び出す準備をする。


「でも、逃げられないんじゃないの? 攻撃が全部当たるんでしょ?」

「いや、この距離なら大丈夫。たぶん偏差撃ちはできないタイプのチートだと思うから」

「偏差撃ち?」

「右に移動してる敵に攻撃を当てようと思った時に、今敵がいる場所より少し右に攻撃するよね?」

「うん」

「それが偏差撃ち。相手の移動と魔法弾の速度を計算して攻撃することね」

「あー、なるほど」


 言われてみると自然とやっていることだった。

 移動中の敵に攻撃するのに、今敵がいる場所へ攻撃をしたら、攻撃が相手に届く前に敵は移動して攻撃がはずれてしまう。


「で、今敵にいるチーターはこの偏差撃ちができないチートを使ってると思うんだ。ホラ、さっきシズネが立ち止まってるところを狙ってきたでしょ? 偏差撃ちができるならわざわざあのタイミングまで待ったりしないから」


 私がお墓のアイテムを確認して、マジカル鍋の蓋を手に入れた瞬間。

 たしかにあの瞬間は立ち止まっていた。


「じゃあ移動していれば当てられないってこと?」

「そういうこと。かなり距離があるみたいだしね。ただ魔法の弾速は私たちの移動よりかなり早いから、もっと近づかれるとこの手は使えないんだよ。だから早く逃げよう!」

「わかった!」


 あれだけ戦闘大好きなヒナが迷わずに逃げを選んだってことは、それだけ勝ち目がないってことなんだと思う。まあ怖いし戦わずに済むのなら私は嬉しいけどね。

 そして私たちは急いでこの場所を離れることにした。


◆◆◆◆◆


 ズドン! と背後の岩に魔法の矢が突き刺さる。


「ひぇっ!?」


 かれこれ何十発もこんなことを繰り返しているけど、いまだにチーターは私たちを狙ってきていた。

 移動さえしていれば当たらないというヒナの言葉は本当で、かすり傷一つついてはいないけど、やっぱり攻撃が飛んでき続ける状況っていうのは心臓に悪い。


「これっていつまで逃げればいいの?」

『もう少し行けば地形的に狙われない場所に行けるから、それまでの辛抱だよ!


 離れて空を飛ぶヒナからの音声に、もう少しと気合を入れなおす。

 二人で固まって移動すると、ヒナを狙った攻撃が私に当たる可能性があるからと、少し距離を置いて移動中だった。


 私たちが目指しているのは、小さな丘の向こう側だ。

 そこまでいけば、チーターと私たちの間に丘を挟むことになるから、いくらチートを使っていても攻撃を当てることはできなくなる。

 ヒナの予想ではチーターはほかのチームを狙うから、しばらくは安全になるということだった。


 そして私たちは、ようやくの思いで丘まで到着した!


「よかった。これでもう大丈夫だよね?」

「たぶんね。念のためマナの回復はしっかりしてて」

「うん、わかった」


 マナ回復の宝石をパリンと砕く。


「じゃあそこの町でちょっと作戦会議。ほかのパーティに見つからないように建物の中にはいるよ」


 そして私たちはすぐ側にあった町へと向かった。

 田舎町といった見た目で、小さな平屋に井戸。薄汚れた馬小屋といった、少し前にいた商業都市マイノルとはかなり違う雰囲気の場所だった。

 私たちはその町にある一軒の家にお邪魔すると、そこで作戦会議を始めることにした。

「とりあえず、戦闘エリアの確認からしよっか」


 そしてヒナがマップを開く。

 そこには、次の戦闘エリア外になる場所が赤く表示されていた。


「うわぁ、すっごい片寄ってるね」

「うん、でもこれはラッキーだったかな」


 大陸の南側が真っ赤に染まっている。

 この様子なら、私たちがいる北側は大丈夫そうかな。


「じゃあ、あとはこの後の方針か……。とりあえずチーターとは戦わない。それでいい?」

「うん! っていうか私は誰とも戦いたくないんだけどね」

「あはは、頑張って戦わないと上手くなれないよ」

「そうだけど……」


 そしてヒナがマップに印をつける。それはマップ南側にある街だった。


「攻撃された方向と距離から、たぶんチーターはこのあたりにいるかな」

「それって戦闘エリア外だよね? ってことは移動するってこと?」

「うん。戦闘エリアギリギリは乱戦になりやすいし、そこで倒されてくれるのが一番嬉しい可能性」

「一番嫌な可能性は?」

「周りのプレイヤーを全員倒して生き残ること、かな。人数が減ればチーターとぶつかる可能性が上がるからね」

「確かに……」


 できることならぶつかりたくない相手……。

 本当にほかのだれかに倒されてくれればいいのに。


「ってわけだから、仕方ないけど潜伏しよっか。下手に動いてほかの魔法少女と戦ってる時に、チーターから狙われると最悪だからさ」

「うん、了解!」

「はぁ~、潜伏って私の性格に合わないんだけどなぁ」

「ふふ、ヒナは敵を見つけたら突っ込んでいくもんね」


 ヒナが私みたいに敵から隠れたり、逃げたりしているところは想像できないかな。


「えぇ、そんな風に思われてたの?、私だって攻めるルートとか敵の誘導とかいろいろ考えながら攻撃してるんだよ」


 確かに普通に攻めただけで、敵パーティをあれだけなぎ倒せるとは思えない。

 私にはわからないたくさんのことを、ヒナは考えてるんだと思う。


「シズネは隠れるの上手だよね? 私が倒されてるときの動きはすごかったよ」

「うん、こういう戦い方のほうが私にはあってるのかも」


 こうしてみると、私とヒナの戦い方はバラバラだ。

 でも、不思議と嫌な気分はしない。というか、自分じゃできない魔法少女らしい戦い方は見ていて素直に楽しかった。


「じゃあ時間もあることだし、ゆっくりとお喋りでもしてよっか。チーターと戦うことになったときのために、いろいろ教えときたいしね」

「うん」


 そして私たちは二人で顔を寄せ合い、おしゃべりに興じるのだった。

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