第13話 新たなる敵
「もう、ダメ……」
「うん、私も結構疲れた」
私たちは草原の上で、二人して大の字になって寝転がっていた。
爆弾魔パーティとの戦闘で行われた自爆攻撃。ヒナがとっさに飛んできて私を押し飛ばしたことで、ダメージが軽減され生き残ることはできたけど、二人とも瀕死の状態になってしまった。
そして、そんな私たちを倒そうと群がってくる大量の魔法少女たち。
あの爆弾魔パーティはかなり強くて、遠くで様子見をしていた人たちが弱った私たちを倒そうと一斉に群がってきたのだった。
ヒナのおかげで全員を返り討ちにすることはできたけど、正直何度もゲームオーバーになりかけた。
「なんだか私、人の汚い一面を見た気がする……」
「あはは、気持ちはわかるよ」
いや、ホント魔法少女ってすごくハードだね……。
「でもさすがにこれで、このあたりのパーティはもういないんじゃないかな。えっと残りパーティは……」
そしてヒナはステッキからマップを表示する。マップ画面ではゲーム内で生き残っているパーティ数が確認できるらしい。
ただ、なぜかそこでヒナが眉をひそめ、少し難しそうな顔になった。
「どうかしたの?」
「え? あ、いや、別になんでもないって。それより残り二百人しかいないから接敵の頻度は減ってくるはずだよ」
「二百かぁ。千人からずいぶん減ったね」
「初めのうちは乱戦になりやすいから人も減りやすいんだ。でもこのあたりからは、人が減るスピードは下がるはずだよ」
そこまで言うと、ヒナは起き上がった。
「さあ! お待ちかねのアイテム回収! これぞバトロワゲーの醍醐味! あさるぞ~!!」
「あ、あはは。ほんと元気だね。私はまだこの惨状に立ち直れそうにないよ」
体を起こして周りを見てみる。
ホラーでしょ! と叫びたくなるほどに、この場所にはお墓が乱立していた。
私たちが倒した相手以外にも、私たちを他のパーティに倒させないように立ち回っていた人や、またまたその人たちを狙う人と、カオスな戦場の名残がそこにある。
「ほんと、どうしてこんなことに……」
「まあまあ、終わったことだからさ! それにきっとシズネのほうが私よりもテンションあがると思うよ。え~っと、あったあった! ほらあのお墓調べてみて」
言われたお墓を見てみると、うっすらと金色に光っていた。
なにあれ? 周りをゆっくりと見回してみると、ほかにもいくつか同じようなものがある。
そして重い体を持ち上げて、お墓を調べてみると見たことのないアイテムが目に入った。
「マジカルバルーン?」
「お、いいね!」
首を傾げながらそのアイテムを回収してみる。
◆◆◆◆◆
「あはははは! すごいすっごーい!」
悔しいことに、ヒナの言う通り私のほうがテンション高く、さっきまで戦場だったこの場所で遊びまわっていた。
「もっと高く飛べるかな? えーい!」
びょーん、と空に飛びあがっていく。
これはマジカルバルーンの効果。体にかかる重力が小さくなったように高く飛べてゆっくりと落ちてくる。
なんだかふわふわしたその感覚がクセになりそうだった。
「いいですねマスター! 無垢な笑顔は魔法少女の特権です!」
興奮気味のパルちゃん。
やっぱりパルちゃんの考えは何かに毒されてる気がするけど、まあ今は気にしなくてもいいや。
「それは特殊枠のアイテムだよ。結構レアアイテムだから見つけるのは大変なんだけど、これだけプレイヤーのお墓があればいくつか手に入ると思ったんだ」
「レアアイテム! すごいね、マナ消費もないし!」
「特殊枠のアイテムは基本マナ消費なしだし、面白いものが多いんだよ。ほら、こっちにあるフォレストスーツなんてこうだよ」
ヒナがお墓を調べたと思ったら、ボン! と煙が出て次の瞬間草になった。
いや、文字通り草の塊の見た目になってしまった!
「あははは、すごいすごい。見分けつかないね」
「移動するとバレるし、攻撃すると元の姿に戻っちゃうけどね」
言いながら他のお墓を探しにヒナが移動する。
私から見ると、草の塊が移動しているようですごい違和感だ。
「ちなみにどれも一度使うとなくなっちゃうから気を付けてね。っていっても、見たことないアイテムを実戦で使うのは難しいし、今回は割り切っていろいろ触ってみるといいよ」
「わかった。えっと、次のは……ユニコーンの卵だって!」
「おぉ、すごくいいアイテムだよ! 取り出して手で温めてみて」
言われた通り、手にとって温めてみる。
すると、すぐに中から小さなユニコーンが産まれ、みるみるうちに成長していった。
そして私が乗れるくらいの大きさになると、その背にまたがった。
「いっけー!」
掛け声と同時にユニコーンが空へと飛びあがる!
【
「次の戦闘エリアがわかるまでは移動もし辛いし、もうしばらく遊んでいこっか」
「うん!」
そしてまだまだある、金色に輝くお墓巡りはしばらく続くのだった。
◆◆◆◆
「これは……やっぱりいるかな」
私が空に絵を描く魔法のペンで遊んでいると、なんだかヒナが難しい顔でそんなことをつぶやいた。
私は特殊アイテムの性能チェック。ヒナはこの後の作戦を立てるためマップを見ているときの出来事だ。
「何がいるの?」
「それは……しょうがないか、隠せるものでもないしね。シズネもこれ見てみてよ」
ヒナの表示しているマップをのぞき込むと、そこには人の名前が並んでいた。
「キルログっていって、誰が誰を倒したっていう情報がリアルタイムで流れてくる機能なんだけどさ、この名前見て」
「チトセ? わぁ、すっごくたくさん倒してる」
ヒナが示したチトセというプレイヤーが、すごいスピードで敵を倒し続けていた。
数秒ごとに一人、また一人とどんどんログが更新されていく。
「うわぁ、すっごく上手な人だね!」
「いや、このペースは異常だよ。全部ヘッドショットで倒してるしね」
ヘッドショット。魔法の攻撃は相手の頭に当たればダメージが上がるらしい。
つまり、この人の攻撃はすべて敵の頭にあたっているということだ。
「さっき残り部隊数を確認したときに、部隊の数が少なすぎるからもしかしてと思ったんだけど……これはチーターだね」
「チーター?」
「うん。あんまり初プレイのシズネにこういう話はしたくなかったんだけど、ズルをしてゲームで勝つ人って意味だよ。例えば攻撃が絶対相手の頭に当たるようになる、とかね」
攻撃が全部頭に……確かにそれはずるい! 私なんて【
「でもそんなの、ゲームを作ってる人が怒るんじゃないの?」
「もちろんですマスター! 制作者や運営が全力で排除に奮闘しています!」
そういったパルちゃんの声は、いつもより強い口調だった。
「ですが、すべてを規制することは難しいのが現実です……本当に申し訳ありませんですよ」
落ち込んだ声のパルちゃん。やっぱりゲームを作っている人たちは許していないんだ。 それでも取り締まれないのが現実らしい。
「ど、どうするの? チーターって人に狙われたら勝てないよね?」
「う~ん……今はまだ出会っていないし、どこかで倒されるのを期待するしかないかな。ただ、最悪直接戦うことになるかもしれないよ」
「そ、そんな……」
まだゲームに慣れてきただけの私なんかじゃ、絶対勝てっこないよ……。
「……」
ヒナは何かを考えこむようにうつむいた。なんだか悔しそうなつらそうな顔に見える。
負けるのが嫌? チーターが許せない? どっちもあるのかもしれないけど……それだけじゃないようにも見えてくる。
「とりあえず、今は考えてもしかたないよ。それよりそろそろ、持っていくアイテムを決めよっか」
「うん!」
じっとしてても変わらない! 出会うかもわからないチーターにおびえるよりも、今は前を向いて歩いて行こう。
そして、私たちは準備を始めるのだった。
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