第11話 激戦の始まり

 敵がいるところに向かう! と決めてサンディーさんのお店を後にした私たちは、まっすぐ街の外へとやってきていた。


「敵を倒しに行くなら、街の中を探した方がいいんじゃないの?」

「いや、戦闘エリア外からくる敵を待ち伏せしたほうがいいと思うんだ」

「戦闘エリア?」

「あ、そっか。まだその説明をしてなかったっけ」


 そしてヒナが【マップ起動】と発言すると、ステッキから小さなコンパスが飛び出してきた。

 そしてコンパスから飛び出した光は空間に大陸の絵を映しだす。


「わぁ、空に絵をかいてるみたい! なにこれ?」

「マップだよ。私たちのいる場所がココね」


 映し出された大陸には、各所にマップの名前が記載されていて、地域によってマップの色が変わっていた。


「この赤いところは火山地帯。水色は雪原で茶色は砂漠で黒っぽいところは汚染地帯」


 大陸の四方はいわゆる特殊環境になっているみたいで、それ以外の場所は緑色で表示されていた。

 私たちが今いるのはマップ北にある【商業都市マイノル】のすぐ側。少し西側に移動すれば、砂漠地帯が見えてくることになる。

 そして、マップが外周側から円を描くようにうっすらと赤く点滅していた。

 これは、なんだろう?


「この部分が戦闘エリア外で、点滅が終わって完全に赤くなると、その場所にいるだけでダメージを受けちゃうんだ」

「な、なにそれ怖くない?」


 その場所にいるだけでダメージって、どういう状況!?


「この広いマップで最後の一人になるまで戦うんだから、こうして戦闘エリアを縮めていかないと、敵を見つけられなくなっちゃうでしょ」

「なるほど……ってことは、この円はどんどん小さくなっていくの?」

「うん、そゆこと」


 まだ私たちがいる場所は戦闘エリア内の場所だけど、時間がたてばここもダメになるということだ。


「シズネだったらさ、今自分のいる場所が戦闘エリア外になりそうだったら、どうする?」

「そりゃ、まっすぐ戦闘エリアの方に向かうよ。ダメージ受けたくないもん」

「そうそう、ほとんどのプレイヤーはそうするの。つまり、戦闘エリアぎりぎりならどんどん敵がやってくるってわけ。これを狙わない手はないでしょ」

「な、なんかズルい!」

「ズルくないってば、戦略だよ!」


 そして、ヒナがマップをじっくりと観察し、戦闘範囲外にある砂漠エリアから逃げ延びてきた人たちを狙うという作戦になった。


「でも、結構遠いね」

「だから、補助魔法があるんだよ。【飛行フライ】セット!」

「あ、そっか。よーし!」


 私のステッキにはずっと前から【飛行フライ】の魔法がセットされている。 ヒナはサンディーさんからもらったカードがある。これで移動も楽々というわけだった。

 そして私たちは、二人で空へと飛びあがっていった。


◆◆◆◆◆


「うん! ここでいいんじゃないかな」


 砂漠地帯と草原地帯の境目にある丘の上。

 私たちは絶好の待ち伏せポイントへとやってきていた。


 マップを拡大してみてみると、ちょうど私たちのいる丘を境に、戦闘エリアとエリア外が分かれている。

 戦闘エリアに入ろうとすれば私たちからの攻撃をうけるし、私たちからの攻撃を受けないためにその場でとどまれば、戦闘エリア外のダメージを受けるという、なんとも有利な場所だ。


「ね、ねえ、本当に戦うの? 私うまくできないよ?」


 二人一組のルールということは、相手だって二人いるはずだ。

 私が足を引っ張ってヒナが二対一の状態になれば、勝つのは難しいと思う。

 それなら、いっそ隠れて相手が少なくなるのを待ったほうがいいと思うんだけど……。

 というか、怖いから隠れていたい!


「なんとかなるよ。それにシズネならやれるって! あれだけたくさん敵がいる中で私のことを復活させてくれたんだからさ」

「か、買い被りすぎだよ……」

「それに、嫌だって言っても、もう敵は来ちゃったしね」


 ヒナが指さした先には、砂漠エリアから走ってこっちに向かってくる二人の魔法少女がいた。

 向こうはまだ私たちに気が付いていないみたいで、まっすぐこっちに向かって走ってきている。


 なんだろう、地面を走る魔法少女……イメージと違う!

 【飛行フライ】のカードは手放さないでいようと心に誓った。


「シズネ、【複射マルチシュート】のカードをセットして。それならたぶん当てられるから」

「わかった」


 いわれた通りに【複射マルチシュート】をセットする。

 ステッキの形が変わっていき、私の身長と同じぐらいのサイズのものへと変化した。


「マスター! 【複射マルチシュート】は一度の攻撃で複数の魔法弾を相手に発射します。初心者の間は相手を狙って魔法弾を発射するのは難しいですが、これなら比較的当てやすいですよ」


 戦うのは怖いけど、ヒナが言う通りもう後戻りはできない。

 それなら頑張って戦わないと!

 ヒナが倒されちゃったときは、何もできずに見ているだけだった。

 今度はちゃんと私も戦って、足を引っ張らないようにしなくちゃ!


「あと、シズネはこの丘から絶対降りちゃダメだよ」

「降りちゃダメ? どうして?」

「高いところっていうのは、打ち合いのときすっごく有利なんだ。相手の動きを確認しやすいし、下から撃ちあげるより、上から撃ちおろすほうが当てやすいからね」

「そっか……うん、わかった」

「オッケー。基本的には私が突っ込むから、隙を見て援護射撃よろしく!」


 そしてヒナは【狙撃アーチャー】のカードをセットする。

 ステッキが弓へと変わり、魔法弾の代わりに魔法の矢を構えていた。


「わぁ、かっこいい!」

「マスター! 【狙撃アーチャー】のカードは遠距離攻撃用です! 弓をつがえることで視覚補助が発動し、敵を狙いやすくなりますよ!」

「不意打ちは最高火力で! 攻撃したら突っ込むから、あとはよろしくね!」


 そして、ヒュンという音と同時に、魔法の矢が放たれた。

 飛んで行った矢は、魔法少女の足へと命中する。

 でも、それだけでは倒しきれなかったようで、相手はすぐに臨戦態勢を整えていった。

「やっぱりこの魔法苦手だなぁ。まあ当たっただけよしとするか!」


 そしてヒナはガケから飛び降りた。


「って、大丈夫なの? 落ちてけがしたりしない?」

「大丈夫ですよ! 魔法少女は一定以上の高さから飛び降りる際、魔法の翼でゆっくり降下しますから!」


 パルちゃんの言う通り、ヒナの背中に魔法の翼が生え砂漠エリアへと降り立った。


「よーし、シズネにかっこいい所みせないとだし、暴れるよ~!」

 

 そしてヒナが敵二人に向かって突っ込んでいった。

 砂漠エリアにあるサボテンや大き目の岩を障害物にしつつ、相手の攻撃を回避しながらみるみるうちに敵に接近していく。


「な、なんで突っ込むの!? 危ないでしょ!?」

「相手に回復する時間を与えないためですね。回復されてしまうと、不意打ちで手に入れた有利がなくなりますから」


 そしてヒナは、いつの間にかセットしていた【複射マルチシュート】を地面に向けて発射した。

 砂漠の砂が舞い上がり、ヒナの姿を隠してしまう。

 私からもヒナの姿が見えなくなり、砂煙の向こうから何度か魔法の光が瞬いた後――。


『シズネ! 二時の方向!!』


 ヒナからの通信が響き、言われた場所を見ると魔法陣が浮かび上がっていた。


「マスター! 【転移テレポート】の魔法です!!」


 ヒナの攻撃から逃げるために転移した敵がいる! それだけわかればやることは一つだ!

 狙いを定めてめいっぱい、ステッキを振りかぶる。


「シュート!!」


 掛け声と同時にステッキを振り下ろすと、周囲から複数の魔法弾が発射された。

 そして魔法陣の場所へと表れた魔法少女に、見事攻撃が命中したのだった。


「敵魔法少女及び、敵部隊の殲滅を確認! マスター、初勝利ですよ!」


 パルちゃんの声に、胸がドクンと高鳴った。

 魔法を使って戦えた! 今の私、魔法少女みたいだった! 


『グッジョブ! 決まったね!』

「あれ? でも相手って二人いたんだよね? もう一人はどこいったの?」

『それなら私が倒したよ』


 砂煙が収まると、ヒナのいる場所にはお墓ができていた。

 私が援護したのは本当に最後の最後だけだった。基本的にはヒナが二対一の状況で戦っていたし、私の援護がなくても相手を一人倒して、もう一人が逃げだす状況までもっていっていたんだ。


「もしかしてヒナって、めちゃくちゃ強かったりするのかな?」

「マスター。気になるのなら、ヒナさんのランクを調べますか?」

「ランク?」

「ゲーム内のモードで、実力によってランク分けを行うランク戦というモードがあります。ヒナさんのランクがわかれば、おおまかな強さはわかると思いますよ」

「そんなことできるの?」

「フレンドであれば、相手のランクを調べることは可能です」


 それは確かに気になる。

 でも、なんだかのぞき見みたいで悪い気もするし……。


『シズネ! 次が来たよ!!』


 いわれてあたりを見渡すと、私たちに向かって一直線に近づいてくる人影があった。

 私たちの戦闘が終わったことで、疲弊したところを狙ってきているんだ!


『さて、暴れるよ! ここからどんどん敵がやってくるだろうしね!』

「ど、どんどん来るの!?」

『私たちみたいにエリア外の敵を狙うプレイヤー、エリアに入ろうとするプレイヤー、偶然近くにいたプレイヤー。こういう人たちが今の戦闘の音を聞いて近づいてくるから、今からここは激戦区だよ!』

「うげぇ~」

『さあて、盛り上がってきた! これぞ魔法少女って感じだよね!』

「私が思っていた魔法少女は、こんなのじゃないってば!」


 そんな私の嘆きは届くことなく、複数のパーティが参戦する戦闘が始まった。

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