第9話 トリガーハッピー!

 サンディーさんのお店をあとにして、私はゆっくりと街の中央にある大きな木を目指して移動していた。


『う~ん、なんかおかしいんだよね』


 ヒナの声に疑問の理由を探してみるも、目の前にはおかしなところなんてみあたらない。


「どうしたの?」

『ここってかなり激戦区の街だから、戦う音が聞こえてこないのが不思議でさ』

「今回は運よく、誰も来てないだけじゃない?」

『それならいいんだけど、ちょっと楽観的すぎるような……』


 そんな会話をしながら歩いていると、目の前に小さな広場が現れた。

 そして、その広場の光景に血の気が引くような感覚がした。


 目の前の小さな広場には、所狭しと大量のお墓が並んでいた。

 十個や二十個じゃきかないぐらいの、すごい量のお墓。


『あ~、やっぱりこういうことか。誰も来てないんじゃなくってみんな倒されたんだね』

「倒されたって……じゃあこの辺りにはもう誰もいないのかな?」

『いや、勝ち残ったパーティがいるはずだよ。あとは残された物資を取りに来るパーティがいてもおかしくないかな』


 言われて気が付いた。

 お墓からは、そのプレイヤーが持っていたアイテムを回収できるんだ。

 だからこそ、これだけの物資がある状況を見過ごすはずがない。

 この惨状を作り出したプレイヤーと、この物資を取るためにやってきたプレイヤー、それらが入り混じって、ここはまだまだ戦場になる可能性がある。


 そのことに気が付き、後ずさりしたとき、遠くから大量の攻撃音が聞こえてきた!

 『ドドドドド』と絶え間なく聞こえてくる魔法弾の音に瓦礫が崩れるような音が混ざって、あたり一帯に響いていく。


「こ、攻撃!? 逃げなきゃ!」

『いや、この音で近くのプレイヤーがやってくるだろうし、下手に逃げると鉢合わせするよ。それによく音を聞いてみて』

「音?」


 言われて冷静に攻撃音を聞いてみる。


「あ! 誰も打ち返してない!」

『そういうこと、理由はわからないけど一方的に攻撃してるし、シズネを狙ってるわけでもないから、うまくいけば戦わずに中央に向かえるかも』

「わかった。じゃあゆっくり移動するね」


 音は私たちと中央の大木の間から聞こえてくる。

 大木を目指すためには、このプレイヤーの目をかいくぐらないといけない。


 よし、やってやるんだから!


 そして、三階建てぐらいの高さがある建物の屋上で、魔法を打ち続ける二人組を発見した。


 西部劇に出てくるガンマンみたいな服装で、二メートルほどもありそうな大型のステッキを振るい、空中に大量の魔法陣を展開させそこから魔法弾を発射している。


「ひゃっほー! 撃ちまくれー!」

「弾幕はパワーだあああああああ!」


 見境なく魔法攻撃を続ける二人組。

 魔法弾が飛んで行く先に人影はない。それでも絶えず弾を撃ち続けていた。


「えっと……あれ、なに?」

「マスター! あれは【乱射スキャッター】の魔法です! 精密な攻撃ができない代わりに大量の弾丸を発射する魔法で、面制圧を得意としています! トリガーハッピーで病気の方が愛用してるという情報もありますね!」


 病気? え? あれって病気なの?

 でも、パルちゃんの言う通り、確かに大量の弾を打ち出している。

 周囲の建物を破壊することに意味があるのかな? それともああやって攻撃することで何か有利になることがあるとか?


『あはは、なんだか今日は変わったプレイヤーが多いね』

「ねえヒナ、攻撃にはマナがいるんだよね? あれってマナの無駄遣いじゃないの? っていうか何撃ってるの? なにもないよ」

『シズネ、あれは理屈とかそんなんじゃないんだ。弾をたくさん打ち出すロマンに取りつかれた人たちの末路だよ』


 わけがわからない!

 ただ、弾を撃ち続ける二人の魔法少女はすごく楽しそうな良い笑顔を浮かべている。

 まあ本人が楽しんでいるのなら、それでいいのかな。


 とはいえ、四方八方に打ち出された弾丸は当然、周りにいるほかのプレイヤーを呼び寄せてしまう。

 見ていると、遠くの方から弾幕プレイヤーを狙う人影がチラホラと見え隠れしていた。


「これじゃあ、こっそり抜けていくとかそんな状況じゃないよ! どこに行っても誰かに見つかっちゃう! 包囲されてるって!」

『うん、これは正直まずいかもね。どこかのパーティを速攻倒して、そこから脱出するっていうのが理想だけど……』


 いやいや、攻撃を当てたことのない私にはさすがに難しすぎるでしょ!

 っていうか、まだまともに戦ってもないんだから。


『あとは、うまく隠れて周りのパーティが壊滅するのを、待つっていうのも手かな』

「うまく隠れる……それなら、なんとかなるかも!」

「周囲に存在するパーティは、足音や視界に映ったものから、推測で十パーティです。敵の配置から考えて隠れ続けるのはオススメしませんよ!」


 慌てたように周りを飛び回るパルちゃん。

 確かに普通に隠れただけじゃ、この状況ではどこかのパーティに見つかってしまう。

 なら、やるべきことは一つだけ!!


「よし、やってみる!」


 そして私は【乱射スキャッター】の魔法を使うパーティから離れるのではなく、あえて突っ込んでいった。


『ってシズネ! そっちはダメだって! まわりのパーティから集中砲火くらうよ!』

「大丈夫! 考えがあるから!」


 近くに目立つ光があれば、その周囲は影になる。

 あえて目立つ人たちの近くへ行くことで、視線はすべて人気者へと向けられる!


「これぞ、灯台下暗し! クラスで弱気な私が見つけた生存戦略! この状況なら使えるはず!!」

『何その悲しい技!』

「マスター……」


 あれ? なんかあきれられてる? しかもパルちゃんにまで……。

 でも、これならこの状況を打開できるはず!

 私は迷わず走り、【乱射スキャッター】パーティがいる建物の、二階部分へと滑り込んでいった。


『うわ~、本当に攻撃が飛んでこないね』

「ふふん、予想通り! ちなみに一階だと瓦礫が落ちてきたり、近くに寄ってきたほかのパーティに見つかるかもしれないから、二階に潜んでみました!」


 ヒナとパルちゃんの呆れ声を無視して、私はそのまま十分ほど息をひそめ続けるのだった。


◆◆◆◆◆


 攻撃の音が止まってからさらに五分後。そろ~り、そろ~りと建物から顔を出すと、周囲には大量のお墓が転がっていた。

 あれだけいた、ほかのパーティの姿は見当たらない。


 勝ち残った人たちも、アイテムの物色を終えてどこかに行ったってことかな?


『作戦がうまくいったのはよかったけど、初心者っぽくない戦い方だよね』

「初心者プレイヤーの基本的な行動は、突撃するか臆病になりすぎてほかのパーティに倒されるかですからね。マスターは少々異常かと」

「そんなこと言われても、これが私の戦い方なんだから別にいいでしょ。それに勝ち残るゲームってことは、戦う必要なんてないんだから」

『それはそうなんだけどさ』

「じゃあ急いで、木のところまでいくね!」

『え? アイテム回収していかないの?』

「だって、ほかのパーティが来るかもしれないし。まずはヒナの復活が最優先!」


 そしてそそくさと逃げるようにして、その場をあとにするのだった。

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