第8話 サンディーのアイテムショップ
「よし、到着!」
荒野を匍匐前進で移動すること三十分。ようやく目的地の大きな街の外壁へと到着していた。
「ここは『商業都市マイノル』です。内部は商業地区、居住区、魔法工学区に分かれており、この大陸で三番目に大きな街ですね!」
「これで三番なの!?」
かなり大きな街だと思ったけど、三番目らしい。たしかにゲームが始まって空から落ちてくるときに、お城がある巨大都市とかあった気がする。
「大陸で一番大きな街は、王城がある『王都グリモ』、続いて『魔法都市プレザード』ですね」
『千人が同時にゲームしてるんだから、これくらい広くないと周りがプレイヤーだらけになっちゃうんだよ』
「そうだけど、やっぱりすごいね」
いまだに千人が同時にゲームをしているという実感がわいてこない。
「それでさ、これどうやって中に入ればいいのかな?」
「マスター。街には二つの門があるので、そちらから侵入が可能です」
「門か……ちょっと怖くない?」
『うん、かなり危険なポイントだよ。門番なんて言われて嫌われるプレイスタイルがあって、街の出入り口を通るプレイヤーを奇襲する人たちが多いから』
「やっぱりそうだよね」
みんなが通る場所が決まっているのなら、そこで待っていれば敵を倒せる! そこまで難しい話じゃない。
ましてや、門なんていう狭い場所を通るプレイヤーがいたら、狙い撃ちにされるのは当然だと思う。
『ってわけだからシズネ、飛んで入っちゃおう!』
「やっぱりそうなるよね」
「いいですね、マスター! 街の空を優雅に飛ぶのは魔法少女ポイント高めです! 決めポーズをとってもらえれば、かわいいスクリーンショットをお撮りしますよ!」
「スクリーン……しょっと……」
『えっと、記念撮影だね。パルちゃん、ヒナには難しい言葉禁止で!』
「魔法少女は機械に疎いもの。了解しました! 気を付けます!」
「いや、大丈夫だから! 覚えるから!」
そして【
ちなみに、【
「うわぁ、かわいい街!」
【
町の中央には大きくて立派な木が生えており、そこから円状に様々なお店が広がっている。
そして中央の大きな道の先には、巨大なお屋敷があった。
こんな状況じゃなかったら、ゆっくり街を散策してみたかったなぁ。
「そういえば、復活の魔法陣ってどれくらいの大きさなの?」
「民家の一室に収まる程度のサイズなので、上空からの発見は困難です。近くまでいけば魔法の発光や音で発見は容易ですよ!」
パルちゃんの言葉を聞いて、私はとりあえず最寄りの建物へと入っていった。
ここからは徒歩で探したほうがいいかな?
街ということで建物がたくさんある。
魔法陣を探すためだけでなく、突然の奇襲に合わないためにも目立たないように移動したほうがいい。
「そうだ、パルちゃん。やっぱり服についたドロとか汚れを落としてもらえないかな? かわいい街の中だと泥だらけのままのほうが逆に目立っちゃいそうで……」
「わっかりましたぁ! いや~、やっぱり魔法少女はかわいくないと!」
そして全身が光に包まれると、次の瞬間には服がきれいな状態になり、私は目立たないよう建物の中を中心に探索を開始した。
「えっと、お邪魔しまーす」
『ゲームでそれ言う人、初めて見たよ』
「べ、別にいいでしょ」
そしてゆっくりと建物の中に入っていくと、そこは小さな商店のようだった。
棚に並べられたカードや宝石たち。
そして中央のカウンターには一人のプレイヤーがいた。
「え?」
一人のプレイヤーがいた。
「て、敵!?」
「いらっしゃいませー!」
慌ててステッキを構える!
まともに狙えない私だけど威嚇にはなる!
そうして必死に臨戦態勢をとる私に、なんとものんきな声で店主が話しかけてきた。
「サンディーのアイテムショップへようこそ。私は店長のサンディーです。戦闘の意思はないのでのんびりしていってください」
「へ?」
戦うゲームなのに戦わないの? アイテムショップ? なにそれ?
混乱する私にボイスチャットからヒナの声が届いてくる。
『おぉ~、珍しいね。シズネ、その人なら大丈夫だよ』
「大丈夫?」
「あら、お仲間は倒されてしまったのですか?」
あ、そっか。ヒナと普通に喋ってたけど、相手にはヒナの声が聞こえてないのか。
「そうですけど……あの、あなたは襲ってこないんですか?」
「はい。私は店員ですからね。こうやってゲーム内でお客さんとお喋りできれば満足なんです」
「えっと、相手を倒すゲームなのに?」
「はい!」
「か、変わった遊び方もあるんですね……」
ニコっと笑うサンディーさん。嘘をついているようには見えないけど、本当に信じていいのかな?
「ふふっ。まだ信用できませんか? そうですね、ではそちらの体力の宝石をプレゼントします」
棚にならべられた宝石を指さすサンディーさん。
「体力の宝石?」
『HPを回復する宝石だよ。ほら、視界の左上に青と赤のバーがあるでしょ。青がマナで赤が体力』
「え、コレって体力だったんだ」
たしかに、襲われてからずっとゲージが減ったままだったけど、これ結構あぶなかったんじゃない?。
ゲージの量は残り2割ほど、本当にあと少しで倒されてたんだね。
ちなみにマナの方はアイテムを使わなくても、時間経過でゆっくり回復するみたいで、森との戦闘からこの町へ来る間に回復していた。
「ふふ、初心者さんですね? 大丈夫ですよ、私は本当に戦うつもりはありません。こうしていろいろな人とお話するのが目的ですから」
「か、変わってますね」
「はい。ゲームの遊び方は人それぞれ。これが私の遊び方なんです。ただ、よければ少しお話に付き合ってもらえると嬉しいです」
棚にならんだ体力の宝石を頂いて軽く握ると、パリンと音をたてて砕け散り、代わりに赤いバーがゆっくりと時間をかけて回復していく。
「宝石ありがとうございます。でも、お話っていっても私、そんなに面白いお話なんてできませんよ」
「いいんですよ。お友達との世間話だと思ってのんびりしてください」
うぅ……友達との世間話って普通に難易度高いんですが……。
『シズネには難易度高そうだよね~』
う、うるさい!
心の中で反論しつつ、とりあえず勧められた椅子に腰かける。
「じゃ、じゃあゲームを始めてから、ここまでのお話でいいですか?」
「わぁ、いいですね。ぜひお聞かせください」
◆◆◆◆◆
「うふふ、初プレイでお友達が倒されてしまうなんて、災難でしたね」
「そ、そうなんです! しかもずっと追いかけられて、ひどい目にあいましたよ!」
話始めてすぐにわかったことがある。サンディーさんめちゃくちゃ聞き上手だ!
普通の人に比べてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ喋るのが苦手な私だけど、サンディーさんが相手なら次々話ができる。
本人の温かい雰囲気もあるんだと思うけど、たぶんこういうのに慣れてるんじゃないかな?
って、リアルのことを調べたりするのはダメなんだよね……。
「じゃあそんなシズネちゃんにいいこと教えてあげますよ」
「いいこと?」
「仲間の復活ポイントの情報です。街の中央にある大きな木は見ましたか?」
「はい! 【
「その木の根元に復活地点がありましたよ」
「ほ、ほんとですか!?」
「本当です。お店を開く場所を探しているときに見つけたんです。でも開けた場所にあるからプレイヤーの攻撃には十分注意してくださいね」
今から時間をかけて探そうとしていた、復活地点を教えてくれるなんて!
この広い街を、どこにいるかわからない敵におびえながら探すのは大変だろうなぁと思っていただけに、この情報はすごくありがたかった。
「初プレイのシズネちゃんには、もう一つだけサービスしちゃいましょうか。仲間のヒナちゃんを蘇生してここに戻ってこられたら、お店のアイテムをプレゼントしますよ」
「いいんですか?」
「ふふ、本当は私のことを無視して持って行ってもいいんですけどね」
確かにお金の概念がないし、プレイヤーによってはサンディーさんを倒してお店のアイテムをもっていくのかもしれない。
でも、話をして打ち解けたサンディーさんから奪うというのは気が引けるし、もらえるというのならそれはすごくうれしい申し出だった。
「わかりました! 私がんばってヒナのこと復活させてみますね! それでここに戻ってきます」
「応援してますね。それで今度は三人でお話しましょう」
「はい!」
そして私はサンディーさんのお店を後にするのだった。
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