第7話 シズネの生存戦略
できるだけ、音を出さないよう慎重に進んでいく。
当面の目標はヒナを復活させること。その方法は倒された人のお墓から入手できる、ソウルリングをマップのどこかにある魔法陣へと持っていくことらしい。
そしてその魔法陣はヒナ曰く、大きな街にあるということだった。
「でも、その魔法陣が街にあるとは限らないんじゃないの?」
『まあ絶対とは言わないけど、たぶん大丈夫だよ。経験則だけどね』
「経験則って……ホントに大丈夫?」
『平気だって。味方の復活なんてこと、ゲーム的に考えて簡単にできないようにするでしょ。だから人の多い場所が復活場所に選ばれやすいの』
「ゲーム的とか言われても、わかんないよ」
そんなわけで、現在街へ向かって森を進んでいる最中だった、
森の中で視界が悪いこともあって、さっき狙ってきた魔法少女たちからの追撃はなくなっていたが、まだ近くにいると思う。
その証拠に、時々どこからか会話をするような声が聞こえてきていた。
『でもシズネ、その移動はなんとかなんないの?』
「いや、これが一番目立たないんだって!」
そういわれる移動方法。匍匐前進。
だって、周りには敵がいるんだよ! 見つかりにくい移動は基本でしょ!
「大丈夫! 洋服屋で店員さんに見つからない動き方はマスターしてるから!」
「なにその無駄な能力!?」
無駄とは失礼な! コミュ力高めの店員さんに勧められるまま断り切れずに、私にはかわいすぎる洋服を買ってしまった経験から、必死で勉強したというのに……。
それに、さっき泥まみれになった魔法少女衣装も立って歩くよりは、こうして地面に近い場所にいるほうが目立たないですむ。
私が夢見た魔法少女とは、すこ~しだけ違う気もするけど。
「マスター! 前方で足音ですよ! 気を付けてください!」
パルちゃんの声に動きを止めて、耳を澄ましてみる。
「この森でしばらく潜伏していくか?」
「そうですね。近くで戦闘が起これば漁夫の利狙いで突っ込む感じでいきましょう!!」
作戦を立てている二人は、そのままそこに座り込み待機するみたいだった。
『チャンスじゃんシズネ! いっきに二人とも倒しちゃおうよ!』
「いやいや、私をヒナと一緒にしないでよ! 無理だって!」
私を逃がすためとはいえ【
でも、私には無理でしょ!
まだ、まともに戦ったこともないんだから。
「ですがマスター、このままだとヒナさんの復活を行えません。どうしますか?」
「えっと、何か都合のいい魔法とかないよね?」
「ヒナさんのお墓から回収した【
「さっきから追ってきてる二人組が許してくれないか」
う~ん、どうしよう。
理想は私の存在がバレずに相手が移動してくれること。
いっそ、目の前の魔法少女たちと追ってきている魔法少女が戦ってくれれば、私はうまく逃げられるんだけど……。
あ、そっか、二人が戦えばいいのか。
「ちょっとやってみたいことがあるんだけど、試してもいいかな?」
「おー! やっちゃえやっちゃえ! シズネの戦い楽しみにしてるよ」
「そんな大層なことしないってば」
◆◆◆◆◆
「ふー……よし!」
息をついて準備をする。うまくいけば逃げ切れるし、失敗すれば倒される。
でも、始めたからには後に引き返せない! 気持ちを引き締めないと!
「【
ステッキが短く取り回しのいいものになる。
そのステッキを振りかぶって、思いっきり空に向けて振りぬいた!
「いっけぇ~~!」
魔法弾が上空に向かって打ちあがる。
そこにいるのは、さっきから私を探している魔法少女。
【
「うわぁ、狙って撃つのってこんなに難しいの……」
『こればっかりは慣れと練習しかないんだよね。今度教えたげるから今はあきらめたほうがいいよ』
とはいえ、今回の狙いは相手を倒すことじゃない。別にこの攻撃があたらなくても問題はない!
そして狙い通り相手からの反撃が始まった。絶え間なく打ち出される魔法弾。
森の木々が邪魔をして、私のところへと届く攻撃はあまり多くない。
ただ、木々が倒され土煙が舞うことで、戦闘の派手さだけはかなりのものだった。
「よし! 狙い通り!」
ダメ押しで回りの木々に向かって魔法弾を打ち出し、乱戦感を演出する。
ここまですれば、やってくるはず!
街へと向かう方向から追加で一組の魔法少女がやってきた。
森で潜伏し、漁夫の利を狙うと言っていた魔法少女だ。
漁夫の利を狙うのに、これだけ派手に戦闘している状況を放置するはずがない!
そしてタイミングを見計らい、私は魔法弾を追ってきている魔法少女と、漁夫の利を狙う魔法少女の中間へと打ち出した。
私の攻撃を目で追った二組の魔法少女は――お互いのことを認識した。
「よし! 作戦成功! 【
補助魔法の【
怖いけど、がんばれ私!
「マスター! 木々にぶつかるとダメージを受けます! 気を付けてくださいね!」
「うん! いっけーーーーー! 【
足元に魔法の羽が表れて、グンッ! と体が加速していく。
みるみるうちに目の前に迫ってくる木々を交わしながら、マナが尽きるまで戦闘域から脱出をはかったのだった。
◆◆◆◆◆
『ナイスプレイ! 今の動きはすごかったよ!!』
興奮気味なヒナがそんな感想を言ってくれた。
「はい! マスター! 素晴らしかったです」
「そ、そうかな?」
こうして手放しに褒められると、さすがにちょっと恥ずかしい。
なんともむず痒い気持ちになりながら、遠くの森へと視線を向ける。
私がつい先ほどまでいた森では、まぶしい光が何度も瞬いている。総力戦という言葉がふさわしい様子だった。
たぶん、さっきの二組以外にも戦いの音を聞いて参戦してきた魔法少女たちで、混沌と化しているんだと思う。
本当にあそこにいなくてよかった……。
ちなみに私は、森を出た先にある荒野の高台から、文字通り高見の見物中だ。
『勝てない相手同士を戦わせるって、結構難しい戦術だし、なによりさっきゲームを始めたばっかりとは思えないぐらい上手だったよ!』
ヒナの声は音声しか聞こえてこないけど、なんだかピョンピョンと飛び跳ねているように言葉が揺れている。
こうして喜んでもらえるのなら、やってみたかいがあったというものだ!
『でも、よくあんな作戦思いついたね。もしかしてシズネってバトロワゲーの配信動画とか見てたりするの?』
「はいしんどうが?」
『えっと……インターネットで配信されてる……いや、インターネットっていうのはね……』
「さすがに知ってるよ! コンピューターの、その、世界? のことでしょ」
『ごめんね、シズネに機械の話しちゃって……』
「あやまらないで!」
まあ機械音痴なのは認めよう。
「とにかく、そういうのは見てないって。授業中に先生から当てられそうな空気になって、それを避けるために、似たようなことをしたことがあったの」
『うわ~、シズネってなんかネクラだよね』
「ネクラじゃないって、気が弱いだけ!」
そう気が弱いだけ!
「マスターはネクラ。登録しました!」
「登録しないで!」
『でも、それであのピンチを切り抜けられたんだからスゴイよ。シズネならきっと、バトロワゲー上手になれる!』
上手になれる……。私があこがれた魔法少女とは違うけど、私らしい戦い方で生き残っていけるのかもしれない。
うん! ちょっと自信がついたかも!
「私やってみる! ヒナを復活させて、このゲームで勝てるように私なりの戦い方で!」
『名付けてシズネの生存戦略ってところかな! やっちゃえやっちゃえ!』
「私もできる限りサポートさせていただきますね! マスター!」
「よーし、じゃあ街に向けて出発だよ!」
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