第4話 パルちゃんとルール説明

「はい、到着! 周りに敵はいないし、ここならのんびりゲームの説明ができるかな」


 降り立った場所は壊れた家のそばだった。

 周りには似たような家が並んでおり、住む人がいなくなり廃れていった住宅街というイメージだ。

 地面に降り立った瞬間、背中の羽は消えてしまい、私の手には魔法のステッキが握られていた。


「それで、ここで何するの?」

「そうだね、じゃあまずはこのMKDの基本的なゲーム性から説明しよっか」


 そして、どこから取り出したのか眼鏡を装備する日奈。


「まず、MKDはバトルロワイヤルゲームって呼ばれるジャンルだよ。このゲームジャンルはわかる?」

「バトルロワイヤルってことは、戦って生き残るってことだよね?」

「うん、正解。このMAPには今千人のキャラクターがいて、その中で生き残るのが目的だよ!」

「せ、千人!」


 ゲーム開始時に大勢の落下していく人をみたけど、あれって千人もいたの!?


「うん。今回は二人チームのモードだから五百ペアってこと」

「ゲ、ゲームって多くても五人ぐらいで遊ぶものじゃないの?」

「古いゲームはそうだけど、今はネットで世界中の人と遊べるからね。たぶん海外のプレイヤーもたくさんいると思うよ」

「い、いんたーなしょなるだ……」


 あまりこれまでゲームに触れてこなかった結果、私の知らないところでゲームはすごい進化を遂げているみたいだった。

 っていうか、海外の人って言葉が通じない……。私英語なんてしゃべれないよ


「も、もしかして日奈は英語喋れるの?」

「英語? 喋れないけどまあなんとかなるって」

「なんとかっていわれても……」


 確かにコミュ力高そうな日奈は何とかなるかもしれないけど、私にはハードル高すぎだよ!

 日本人相手でもうまくしゃべれないのに。


「それより、念のために注意しておくけど、私を苗字で呼んじゃダメだからね」

「へ? なんで?」


 私の返答にあきれたような表情が返ってきた。


「えっとね、なんていえばいいかな……インターネット上ではむやみに名前とか個人情報は出しちゃダメだし聞くのもダメ。ネットモラルってやつ」

「ねっともらる……日奈って呼ぶのはいいの?」

「うんオッケー。ゲームの名前とリアルの名前が同じだからね。ただ文字で書くときはカタカナでヒナね」

「わかった。ヒナだね」


 こういうのをネットモラルっていうのかな?

 正直結構難しいよね。


「それで、さっきの話だけど英語が喋れなくて困ったときはエモート機能を使えばいいよ」

「エモート?」

「説明するより見たほうが早いかな。『エモート一番開始』って言ってみて」

「エモート一番開始」


 すると、かってに体が動き始めた。

 くるん! とスカートを翻しながらきれいな一回転を決めると、両手の人差し指をほっぺに当てる。

「オッケーマジカル☆」


 満面の笑顔で私がそう言っていた。

 っていうか何よコレ!


「かわいい、かわいい! やっぱり一番エモートはいいよねぇ」

「いやいや、何なのコレ! かってに体が動いたんだけど!」

「それがエモート機能って言って、決まった動きとセリフが出るの。海外の人とコミュニケーションするときは、それを使えば英語を使えなくてもなんとかなるよ」

「それ以前に恥ずかしすぎるって!」

「あはは、慣れだよ慣れ」


 うぅ……慣れる気がしない。


「じゃあそろそろ、本格的なゲームの遊び方の説明をしよっかな。『ナビゲート起動』って言ってみて」

「……ほ、ほんとに大丈夫?」


 また何か変なことが起きる気がする。


「今度は大丈夫だから」

「じゃあ、ナビゲート起動」


 すると、手に持ったステッキから丸い光が飛び出した。

 光は形を変えていき、かわいいウサギの姿になる。


「おぉ~、初回プレイの初心者さんですね! いや~憂いですな~。おっとすいません。私はナビゲートキャラクターのパルトと申しますです! 親しみを込めてパルちゃん、パーちゃん、パルっちなどなど、お好きなように呼んでください!!

「な、なんかめちゃくちゃテンション高いのが出てきたんだけど!?」


 なんなのこのウサギ! ステッキから飛び出してきたウサギをジーっと見つめる。マスコットキャラクターのような愛らしいフォルムは良い。

 魔法少女に相棒はつきものだから。

 でも、このハイテンションはなんだろう。


 チラッとヒナのほうへ目をやると、ヒナはなんだかあきれたように笑っていた。


「言いたいことはわかるけど、もう少し喋ってあげて」


 ヒナに言われてウサギに向き直る。


「えっと……パルトさん?」

「親しみを込めてパルちゃん、パーちゃん、パルっちなどなど、お好きなように読んでください!」

「パルトちゃん?」

「親しみを込めてパルちゃん、パーちゃん、パルっちなどなど、お好きなように読んでください!」


 これは呼ばないと先に進まないやつなの!?。


「えっと、パルちゃん」

「はい! よろしくおねがいします!」


 するとヒナが、パルちゃんのことを説明してくれた。


「これがナビゲート用キャラクターのパルト。ゲームルールの説明からプレイのアドバイスまでいろいろ手助けしてくれるよ」

「ハイ! 私パルトはマスターのお供です! わからないことからゲームのアドバイス、恋愛相談までなんなりとご質問ください!」


 確かにいろいろ教えてくれるというのなら、ゲームを始めたばかりの私にはすごく頼もしい存在だけど、このハイテンションはどうにかならないのかな……。


「プレイヤーの言葉から色々学習した結果、こんな性格になっちゃったんだよね」

「何をどう学んだらこうなるの!?」

「私にもさっぱり。まあ有能なのにはかわりないからさ」


 せわしなく私の周りを飛び回り続ける姿からは、あまり有能な感じはしないけど、しかたないか。


「えっと、このゲームのルールを教えてほしいんだけど、いいかな?」

「もちろんですよマスター! このゲームではマップ内にランダムに配置されているカードを拾い戦います」

「カード?」


 マップに落ちているといわれ、あたりを探してみるもそれらしい物は見つからない。


「基本的にカードは建造物の中にありますよ」

「ちょっと待ってて、実物をとってくる!」


 そしてヒナは一番近くの壊れた家へと走っていくと、一枚のカードを手に持ってすぐに戻ってきた。


「ありがとうございます。これは【単射シングルシュート】のカードですね。取り回しがよく狭い場所での戦闘に向いてますよ。試しに使ってみましょう! マスター【単射シングルシュート】セットと言ってステッキにカードを添えてみてください」

「えっと、【単射シングルシュート】セット!」


 すると手に持ったカードがステッキへと吸い込まれていく。そしてステッキが一度輝くと扱いやすい短いステッキへと姿を変えた。


「セット成功です。あとはステッキを振ると攻撃できますよ! 試しに何かに向かって『えいっ!』と振ってみてください」

「何かに向かってか……」


 壊れた家をこれ以上壊すのは気が引けるし、どこに撃てば……。

 そう思っていると、ヒナと目が合った。

 

「………………えいっ!」


 光の玉がステッキから飛びだしヒナに向かって飛んでいく。

 私の視線から攻撃を予想していたのか、ヒナは紙一重でその光を回避していた


「ってバカ! なんで私に攻撃するのさ!」

「いや、つい……」

「マスター。攻撃は味方にもダメージを与えるので、気を付けてくださいね」

「ご、ごめんね」


 パルちゃんにまで怒られてしまった。

 でも、これは楽しいかも! 私が夢見た魔法少女みたいに魔法で戦える!


「攻撃用のカードはほかにもたくさんあるので、自分の好きなものをみつけてくださいね!」

「じゃあいろいろな場所を探して、カードを集めながら戦っていくゲームってことでいいのかな?」

「はい! ちなみに攻撃用以外のカードも存在するので、また見つけた際に説明させてもらいます!」

「空を飛ぶカードとか、魔法のシールドを出すカードとかいろいろあるよ」


 そういわれると俄然やる気になってくる!

 胸がドキドキと高鳴ってわくわくしているのが自分でもわかった。


「ゲームの勝利条件は生き残ること。最後に生き残ったパーティが優勝です! 私がナビゲートするので一緒に優勝目指して頑張っていきましょー!」

「おー!」


 テンションが高くて少しうざかったパルちゃんの声も気にならないぐらいには、私のテンションも上がっているみたいだ。

 よし、優勝を目指すならさっそく動き始めないとね!


「じゃあさ、まずはこのあたりの家を順番に探してみようよ!」

「いいよ、じゃあさっそく――」


 その瞬間、ヒナの言葉を遮るように突然近くの壊れた家から、爆発音が響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る