第19話

ダンジョンに行って冒険者と出会った嫌な記憶は、無口なゴーレムさんの対応や受付業務、裏方の仕事をこなしていくうちに思い出すことが減っていった。


そんなある日のこと。


「ただいま〜。」


「サラン様、おかえりなさい。」


用事があると言って外出していたダンジョンマスターのサランが外出から戻ってきた。


「クスタ君。お土産〜。」


受付をしていた僕のところにダンジョンマスターのサランが寄ってきて、カウンターに何かを置いた。


コトッ。


「……木ですか?」


「そう。木だよ。」


小さな鉢に入っていた木は細い幹に枝も2本しか伸びていない。背丈や葉っぱも小さくこじんまりとしている印象だ。


僕が手を伸ばそうとすると


「これがダンジョンの森にいた魔物だよ。」


ダンジョンマスターのサランが言ってきた。


「え!? 植物じゃなくて魔物なんですか?」


僕は指を引っ込めてダンジョンマスターのサランと木に視線を送る。


「そうだよ。しかも他の魔物に寄生する木だからね〜気をつけてね。」


そう言ってダンジョンマスターのサランは自室に戻ろうとする。いや、待って待って。


「サラン様、この木はどうしたら? それにこんなところに置いといて大丈夫なんですか?」


「大丈夫、大丈夫。躾はきちんとしたし。そのままそこに置いといて。あ、水やりはクスタ君にお願いするよ。」


僕の顔を見ながら話を一方的にしたダンジョンマスターのサランはギルドマスターの部屋に入っていった。


「……えぇ〜……」


寄生する木を置いていかれて、僕の気持ちは不安でいっぱいだ。寄生するってどのように寄生するのか。何も分からないのに水やりの仕事を押し付けられた。


「躾したって……木と話せるのか?」


それにしても無口なゴーレム、冒険者、この木……何も悪いことしていないのに……呪われているのだろうか。


お祈りでもして欲しいと思うが、ダンジョンから出られないことを思い出し、ついついため息がこぼれてしまった。


木は風もなく葉っぱを揺らしていた。


とりあえず僕は……


『お触り禁止!! 寄生されます!』


と書いたプラカードを木の鉢に立てかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る