第20話

「クスタ君〜。」


「ハイハイ。」


「クスタ君、こっちも〜。」


「ハイハイ。」


ここ最近、僕は忙しい日々を過ごしている。でも、僕が人気なんじゃないんだ。



僕が持っている鉢、『触るなキケン!』の木が大人気なんだ。


訳あって僕がこの木を管理することになってしばらくたった。


今では僕の仕事の一つだ。


僕が木を持って受付に行くと、対応していた事務員はホッとした顔を見せる。


反対に対応してもらっていた魔物は「……ちっ」と舌打ちをしながら受付から離れていく。


「助かったよクスタ君。ありがとう。」


「いえいえ。ケガは無かったですか?」


「大丈夫だよ。相手も職員に手を出すとギルドが利用できなくなるって知ってるからね。文句だけ言って帰っていくよ。しつこい時にはクスタ君を呼べばいいから。楽になったよぉ。」


笑顔で話してくれるので、こちらも助けになって良かったと返す。木も葉っぱを揺らし、喜んでいるようだ。


この木にはどうやら感情があることが分かった。機嫌のいい時は葉っぱを揺らし、機嫌の悪い時には萎れるように葉っぱを垂らす。


何で分かったかと言うと


『触るなキケン!』の木を受付に置いていたら……まぁ、皆がさわるさわる。


そのたびに寄生され、ギルドに来る魔物たちが頭やら肩やら色んなところから木を生やしていた。


生活に影響はないみたいだったが、木が生えた魔物を冒険者が見つけると、恐怖だろうなぁと他人の心配をしていた。


最初は触れられることで新たな分身? が生まれるのを喜んでいたが、葉っぱを千切る魔物や、噛みつく魔物などなど。次第に木は段々と萎れていった。


あまりにも木を生やした魔物が増えたため、ダンジョンマスターのサランにより『触るなキケン!』のプラカードから『触るバカは金減らす!』へと変更された。


プラカードを変更されてからは木は葉っぱを青々とさせ、風もないのに揺れていた。


ダンジョンマスターのサランが言うには


「色んな魔物たちに触られたことで自我が芽生えたんじゃない?」


とのこと。後、何故か僕には寄生しないようで、それについてもダンジョンマスターのサランが言うには


「水をくれる人だからじゃない?」


とのこと。


まぁ、身体に影響がないんだったらいいかなと思うことにした。


そのせいで、受付で困った事態が起こるたびに僕が鉢を持って移動していくようになったんだ。


「おーい、クスタ君、こっちもお願い。」


「はーい。」


あぁ、忙しい忙しい。


僕に持たれている木は今日も機嫌よく揺れていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る