第17話
クスタ君は翌朝から仕事を再開している。
私としてはもう少し休んでからでも構わないと思っていたんだがクスタ君の希望もあったので、仕事に従事してもらっている。
「……クスタ君はテキパキと動いているな。」
「マスター、彼は大丈夫なんですかね……」
クスタ君が仕事している姿を覗き見していたら、近くを通りかかった別の事務員に話しかけられた。彼もまたクスタ君を心配している魔物だ。
「……そうだね……今は頭を空っぽにできるのが仕事しかないのかもしれないね。」
「そうですか……」
「他のことでもリフレッシュできればいいんだけど……まぁ、今は無理して体を壊さないように注意してあげて。」
「了解しました。他の連中にも言っておきます。」
そう言って私は自分の部屋へと戻っていき、ソファーに座り背中を預ける。
「さて……と……」
私はテーブルに置いた紅茶を飲みながら、分厚い資料を読み続ける。先日起きた事件に対しての報告書だ。
「……やっぱり他のダンジョンでも似たようなケースは出てくるか……」
私は目を疲れを取るために目頭を抑える。
ダンジョンマスター会議において、緊急事案として提議した今回の事件。当初は私のダンジョンだけの問題と鼻で笑っていたダンジョンマスターも多かったが、調査の結果ほとんどのダンジョンで似たようなケースが見つかった。
「これを作戦ととるか、偶々ととるか……だな。」
この報告書を受けて開催される次回の会議は荒れそうだ。
「そうだな……」
私はベルを鳴らし、ギルド職員を呼ぶ。
「マスター、お呼びですか。」
ドアをノックしてギルド職員が入ってくる。
「すまないね。森の魔物だけれど、予定が変わったからここに連れてきてくれるかな。」
「……いいんですか?」
「本当は彼に見つけて欲しかったけど、事情が事情だしね。別の方法を考えてみるよ。とりあえず、手元に置いておきたいから回収してきてくれる?」
「了解しました。人手を出しておきます。」
「うん、ありがとう。」
そう言って事務員は部屋から出ていった。
「彼にはダンジョンの良さを体験してもらいたかったけど残念だったなぁ。彼の真面目な仕事っぷりは助かっているから彼がダンジョンに残りたいって言ってくれる何かいい方法がないかなぁ。」
私は報告書から目を離し、天井を見上げて考える。
たまには面倒なことから目を背けることも大事だ。彼が笑って仕事をしてくれることを考える。うん、楽しいことを考えるのは必要だ。
皆が笑って過ごせるダンジョンになるにはどうしたら……
紅茶の香りを楽しみながら、あれこれ想像を膨らましている。ついつい口元がニヤけてしまう。
これが私がダンジョンマスターをしていて楽しくやりがいを感じる時間だ。
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