第16話

あれからダンジョンギルドへと戻った僕は、周りの事務員が心配するほどの顔色だったようだ。大丈夫ですと言ったんだけど、見かねた事務員がダンジョンマスターのサランに伝え、ダンジョンマスターのサランは僕をマスターの部屋に連行した。


「……なるほど。それで君はここに戻ってきたんだね。」


ソファーに座り、つまりながらぽつぽつと話す僕の話をひと通り聞いたダンジョンマスターのサランはソファーの背もたれに背中を預け、天井を見上げた。


ダンジョンマスターの部屋に沈黙が訪れる。


しばらくの静寂から、ダンジョンマスターのサランは背もたれから体を離し、前かがみになりながら僕に問いかけてきた。


「それで……クスタ君はこれからどうしたいんだい?」


「……どうとは?」


「これからの君の人生さ。今回のようなことは、クスタ君がギルドと関わらない仕事をしたとしても何処かで出会うかもしれない。」


「そうですね……」


「そのたびに……逃げるのかい?」


逃げる……その言葉に僕は胸をひっかき回された。逃げたくて逃げたんじゃない。言葉を発したくても混ぜこぜになった感情がフタとなって言葉にならない。


「……」


「いや、すまない。クスタ君を責めてるつもりはないんだ。クスタ君にはクスタ君の人生があるからね。だけど」


「……だけど?」


「クスタ君と私は何かの縁で関わることになった。偶然かもしれないし運命かもしれない。」


「運命……ですか。」


運命……僕がこんな気持ちになるのも運命なのか?


ダンジョンマスターのサランは大げさに両手を広げて話す。


「そうさ。クスタ君が仕事を辞めさせられてなければ。私がダンジョンマスターをしていなければ。この時期でなければ。私達は出会うことなんて無かったんだよ。」


「……そうですね。」


「だからさ。私にはチカラがある。ダンジョン限定だけどね。そして、困っている仲間がいる。助けない理由はないね。」


そう言って茶目っ気たっぷりにウインクをしてくる。


「仲間ですか……期間限定なのに。」


「そんな些細なこと関係ないね。困っている人がいるならできる範囲で助ける。これは魔王様の理念なんだ。」


「理念……ですか?」


「そう。助けることは善。助けてもらうことも善。しかし、甘えることは悪。自分の足で立ってこそ自由を謳歌せよってね。」


「……助けてもらうことも善。」


「そうさ。だからこそクスタ君に問いたい。クスタ君はこれからどうやって生きていくんだい?」


「僕は……」


「……まぁ、今すぐに結論を出さなくていいよ。時間はある。ただし。」


「ただし?」


「ダンジョンにいる内に決めてほしい。そうじゃないと僕が格好良く助けられないからね。」


そう言ってダンジョンマスターのサランはウインクをしてくる。


「……」


僕は……僕は……


「さぁ、今日はゆっくりと休みなさい。また明日顔を見せてくれたらいいよ。」


そう言ってダンジョンマスターのサランは僕をソファーから立たせ、部屋に戻るように促した。


「……分かりました。失礼します。」


僕の心はモヤモヤしたままだ。それでもダンジョンマスターのサランの言葉が頭の中を何度も流れている。

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