第15話

僕は準備を終えてダンジョンの中を歩いている。


「この階段をおりていって……おりたら目の前に森があると……」


ダンジョンマスターのサランからもらったメモを見ながら歩いていく。


……本当に洞窟のようなダンジョンの地下に森なんてあるのかなぁ?


僕は土がむき出しの階段をおりながらそんなことを考えていた。どこにも植物なんて見えないし、森があるなんて思えなかった。


「あれ? 着いたかな?」


階段が終わった。少し真っ直ぐな道があり、その先から明るい光が入ってきている。


「うーん……眩しすぎて外の様子が分からないなぁ。まぁ、とりあえず行って見ますか。」


僕は光の中へと足を踏み入れた。


「……えぇ……ここ、本当にダンジョン?」


眩しさに慣れてきて、周りの風景が分かってくると僕は少し小高い丘に登った。その景色をしっかりと見ようと思ったからだ。


まず、目の前には草原の草木が揺れている。少し先にはメモに書いてあった森が広がっている。緑がとても鮮やかで様々な緑が、多くの生命が宿る器としてその力強さを誇示している。


そして、空だ。太陽だ。上を見上げると青々とした雲ひとつない晴天と、こちらを照らしている太陽がひとつ。


「……ここって本当にダンジョン……?」


僕の知らないダンジョンがそこには広がっていた。


そんなダンジョンで呆然としていた僕は全く気づかなかった。ここはダンジョンなのに。


あの、僕を追い出したギルドの直ぐ側にあるダンジョンなのに。


「あっれ〜! まさか! そこにいるのはグズタじゃないの〜!」


「え!? あぁ! グズタだぁ! おいグズタこんなところで何してんだよぉ!」


声のしたところを見ると、そこには装備を整えた冒険者達がいた。顔にも見に覚えがある。僕は彼らの顔を見た途端に、胸が締めつけられるような感覚におちいった。


彼らはニヤニヤとした笑いを浮かべながら、こちらへと近づいてこようとする。


「なぁ〜んだ! 事務員辞めて冒険者になったのかよ! それなら声かけてくれよ! 先輩の俺様があれこれ教えてやっからよぉ!」


「そうだぜ! グズタ! 訓練つけてやっからさぁ!」


笑いながらこちらへと向かってくる冒険者。


僕には彼らが


魔物に見えた。


ニヤけた笑いが獰猛な笑いに見え、僕から全てを奪っていく悪魔のように感じた。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


僕は呼吸が苦しくなり、足が自然と後ろに一歩、踏み出していた。


「あっ!」


「アハハ……! グズタ! 何もないところで転んでやがる!」


「おいおい! そんなんで冒険者出来るのかよ! アハハ!」


バランスを崩し、丘を転げていき、僕は何かにぶつかった。


見上げると、それは僕が出てきた洞窟だった。僕はすぐに洞窟へと入った。そして後ろを振り返らずにがむしゃらに走った。


「あれ? おーいグズタ! どこいったぁ!?」


「グズタくーん! 出ておいでー!」


後ろから聞こえる声がより僕の足を動かす。

どうして気づかなかったんだろう。冒険者が現れるってことを。


心に空いた穴はふさがっていたと思っていたのに。


胸のチクチクとした痛みは階段を駆け上がり、ダンジョンギルドに戻ってからも止まらなかった。

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