第10話

目の前でマシュー兄妹が土下座している。


ついさっきみた光景だ。同じ景色な気がする。


いや、全く一緒ではないな。


土下座している二人の頭をよく見ると、二人とも大きなタンコブをつくっていた。


さらに土下座している後ろには仁王立ちして、禍々しいオーラを放っているダンジョンマスターのサランがいる。巨大で力強いオーラはダンジョンマスターの怒りを表しているように感じる。僕も気をつけていないと気絶しそうだ。


「さて、二人は彼に言うべきことがあるよね?」


サランが先ほど話していた穏やかな口調ではなく、禍々しいオーラをまとっているような言葉にトゲがあるような、マシュー兄妹を責める口調で話し出した。


いや、実際にオーラがマシュー兄妹をつついている。その度にビクッ! ビクッ!ってなってるぞ。ダンジョンマスターのサランから何かされているのかな?


「ク、クスタ。あのさ……」


「そこはクスタ様じゃない? 君たち迷惑かけたこと理解している? それとも何かな? まだお仕置きが足りなかったのかな?」


ダンジョンマスターのサランがマシュー兄の言葉をさえぎる。禍々しいオーラがマシュー兄妹を包みこんだ。 


「す、すいません! ごめんなさい! 許してください!」

「バカ兄! 何してんの!」


「いや、君も同罪だからね。」

「ごめんなさい! 許してください!」


マシュー兄を罵った妹に対してもダンジョンマスターのサランからの一言ですぐに謝罪した。兄妹が叫びながら謝罪をする。この二人がここまで従順になるなんて……


「ほら、迷惑かけた人に謝罪すべきだと思うよ。」


「「クスタ様。今回は私たちの勝手な都合でダンジョンでの雇用を決めてしまい、申し訳ありませんでしたぁ!!」」


マシュー兄妹が床に頭をつけて謝罪してきた。やっぱりこの二人のせいで僕がダンジョンで働くことになったのか……


「サラン様。僕は記憶にないんですが、雇用契約が結ばれているってことですか?」


僕の問いかけにダンジョンマスターのサランが顔をゆがめた。


「そこが今回の大きな問題点でね。本来は本人の同意が必要なんだ。しかし例外も作られていてね。今回はその例外を悪用されたんだ。」


「例外ですか……」


「そう。共通言語が話せない人かつ、生命の危機がある状態の人。そういった場合においては本人の同意は取りづらいからね。」


たしかに言葉が通じない人だと難しいな。それに命の危機にダンジョンで働く? とか言われてもそんな状況じゃないもんね……いや、待ってくれ……


「僕は言葉話せますけど……それに生命の危機って……」


ダンジョンマスターのサランの顔がさらに歪んだ。マシュー兄妹へ向けた視線がさらに厳しいものになった。この人? なら視線で人を殺せるんじゃないかな。禍々しいオーラはさらに巨大になり、マシュー兄妹へと降り注いでいる。


……マシュー兄妹が地面にめりこんでいる気がするけど無視しよう……


「こいつらはダンジョンに君を誘いだした。そして人目の少ない場所へと誘導。そこでマシュー兄が君を切りつけた。大量出血で意識が遠のいていく君。その状態だと言葉も喋れないよね? そうしてからこいつらは雇用契約の手続きを始めたんだ。さっき言っていた言葉が話せないかつ、生命の危機。両方を満たしているよね?」


たしかに……でも


「そんな簡単に例外が使えていいんですか?」


「……元々、この例外はギルドマスターの魔王様が弱った者であろうとも、言葉の話せない者であろうとも、この世界に生まれた尊い命に変わりはない。ダンジョンはそういった者の受け皿となるべきだという考えから生まれたんだ。」


魔王ってそんな考え方をするんだ。もっと悪い人? かと思っていたよ。


「……それをこいつらは……」


……善意で作られた例外を悪用しちゃったら、そりゃ怒られるよね。


すでにマシュー兄妹は地面に埋まり過ぎて姿が見えなくなった。


ご冥福をお祈りします。

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