第8話

「……うぅ……。はっ!」


俺は勢いよく起き上がった。起き上がった勢いで、俺にかけられていた布団がバサッと床に落ちた。


「ここは……たしかダンジョンの外に出たはず……もしかして街に戻ったのか?」


「残念。ここは街ではなくて、ダンジョンの中だよ。」


声が聞こえた方を振り向くと、部屋の入り口に一人の男性が立っていた。白衣のようなものを着ている。お医者さんだろうか。


「あ、すいません助けていただいて。ここは……ダンジョン? 街の医院ではないのですか?」


「あぁ。ここはダンジョンの中にある医院だよ。体調は大丈夫かい?」


「あ、はい。もう大丈夫です。ありがとうございました。」


「……それならいいけど。もう少ししたらマシュー兄妹を迎えに寄越すから、それまでゆっくりしててね。」


そう言うと、白衣を着た男性はどこかへと向かっていった。


「……そうだった。俺はダンジョンの外へと出ようとしていたんだった。」


あの時の記憶が少しずつよみがえってきた。あの時、俺は外に出たはずだった。そしたら、何か声が聞こえて意識を失ったんだった。


「……どうしよう……」


このままマシュー兄妹が来るのを待っていると俺は二度とこのダンジョンから外に出られないのじゃないか。そう思った俺は部屋を見渡した。ベッドから離れたところに窓が開いている。俺は窓から外を眺めた。どうやら1階の部屋だったようだ。俺はすぐに行動を起こした。


スタッ。


窓から飛び出し、地面へと着地した。土の地面だから、しばらくは裸足でも我慢できるだろう。どうやら医院の裏手に出られたようだ。狭い道が続いている。見つからないように俺はその狭い道を走りだした。


裏路地のような少し薄暗くて狭い道が続いている。時折すれ違うのは魔物ばかりだ。勢いよく走っていると、魔物はこっちを驚いた顔で見てくるが、追っかけてくることはない。目が合うとしつこく狙われると冒険者ギルドでは聞いていたが、今は追われることもなく逃げ切れている幸運に感謝しないと。


「ここもか。」


また行き止まりだ。さっきから裏路地から抜け出せていない。時間ばかりが過ぎていき、焦りがつのる。裏路地を走って逃げ切る予定だったが、仕方ない。大きい道に出てダンジョンの外へと向かうしかない。


「マシュー兄妹に会いませんように。魔物に追われませんように。」


そう願いながら、俺は明るくて人らしきものが歩いている道に向かって走り出した。そして俺は広い道に出ることができた。とても広い道には店が立ち並んでいた。


「へい、いらっしゃいお客さん。今日は何にしましょ?」


「そうねぇ~。じゃがいもと玉ねぎいただけるかしら。」


「あいよ! 今日は特別にバナナをプレゼントさせてもらうよ。」


「あら、本当!? 嬉しいわぁ。」


まるで昭和のような光景と会話だった。色々な店が立ち並ぶなか、八百屋だろうか、野菜が並んでいるのを選ぶ主婦と店員さんの会話だ。


それが魔物でなければ。


「ま、魔物が買い物してる?」


俺が今、見ているものは、冒険者ギルドで聞いていたのとはかけ離れたものだった。


「ば、ばかやろ~!」


「え?」


呆然としていた俺の耳元に大きな声が響いてきた。何事だろうとそちらをみると、

大きな茶色い塊が俺めがけて迫ってきているところだった。何もできることはなかった。俺は勢いよく吹っ飛ばされた。


『一日にダンジョン内で二度目の死亡を確認。解析します……1度目、2度目ともに逃走中による死亡と判明。死亡理由の聞き取りが必要です。ダンジョンマスターの元へと転送いたします。』


また、声がどこからともなく聞こえてきた。


そして俺はまた意識を失った。




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