ダンジョン職員 クスタ
第7話
どうも、ダンジョンギルドへの就職をはたしました、俺クスタです。
事務員での雇用らしいです。
……えっと……ダンジョンギルドの存在ってのは噂では知ってるけどさ……
犯罪とか罪を犯した人たちしか雇われないって聞いたことがあるんだけど……
俺、ただの事務員で真面目に生きてきて、罪も犯してないんだが。
一人で考えていても仕方ない。目の前にいる悪人たちに聞いてみよう。
「それでマシュー兄妹よ。何で俺はダンジョンギルドに就職が決まっているんだ? マシュー兄に殴られた後に何があったんだ?」
俺の問いかけにビクッと身体を震わせて、土下座をしていたマシュー兄妹が、恐る恐る仁王立ちしている俺の顔を伺いながら頭を上げてきた。
「それは……クスタのためを思ってだよ。クスタ仕事なくて困ってたじゃん。」
「嘘をつくな。それなら何故あんな真似を? 俺のためにって言うなら、普通に勧誘すればいいのに……ダンジョンに連れてきて不意打ちはないだろう。」
マシュー妹は真面目そうな顔で下から見上げて話してきたけど、明らかに嘘っぽい。俺のためにやったんだと、いい話しにしてごまかそうとしているな。
「兄の方はどうなんだ? なんでこんなことをしたんだ?」
「そ、それはだな……も、もちろん、クスタのために決まってるだろ! そ、それ以外にさ、な、何があるって言うんだ?」
怪しい。いや、むしろ怪しさしか感じない。
マシュー兄は正直で嘘をつけない男だ。それが元で冒険者ギルドでもトラブルになっていたからな。俺がこうやってマシュー兄妹の顔を見ながら無言で考えている間も、マシュー兄は俺の顔をチラッと盗み見ては、俺と視線が合いそうになると焦ってすぐに顔をそらしている。
話しを聞かないところは昔っからだが、今回は俺を強引にダンジョンギルドに加入させてきたからなぁ。じっくりと理由を聞かないと納得できそうにないぞ。
俺は頭の中で整理をして、マシュー兄妹への質問を考えていた。こいつらは直感で話すタイプだからな。ある程度整理しておかないと話しが理解できなくなってしまう。
そう思いながら天井を見つめ、考え事をしていると
「おい、マシューらよ。新人連れてきたって本当か!? どんな奴なんだ?」
それは突然だった。声がしたかと思うと、俺が見ていた天井から白いモヤのようなものに包まれた頭蓋骨が天井から飛び出してきたのだ。
「おい、マシュー。そいつはどこにいるんだ? ここのダンジョンギルド気に入ってくれそうか?」
フヨフヨと浮いた骨の頭は天井からマシュー兄妹の元へと向かい、マシュー兄妹に話しかけている。
「ココ。その人だよ。」
マシュー妹がこっちを指さし、骨に話しかけた。骨の頭はマシュー兄妹からくるりと振り返り、こっちを見た。俺と目があった。
骨に目はなかった。そのかわり目のところに赤い光があった。
「おぉ!! お前か!? 俺はココって言うんだ。よろしくな。」
骨の頭はケラケラ笑いながらこっちへとフヨフヨ漂いながら近づいてきた。
「ぎぃ……」
「ん?」
「ぎゃぁぁあ!!!」
俺はチカラいっぱい叫びながら、ドアへとぶつかるように部屋から外へと出ていった。
「な、なんなんだよここ! 助けて!」
ダンジョンなんて来たこともないから、道も分からないまま、叫びながら走り続けている。
「どうした? 大丈夫か?」
誰かが声をかけてくれた。足を止めて声をかけてくれた人を見る。
「はい、実は……」
「ん? どうした?」
優しく声をかけてくれたのは
見知らぬ
ゴブリンでした。
「ぎゃぁぁあ!」
「お、おい!」
俺はゴブリンに優しく話しかけられる貴重な体験をした。たぶん、一生に一度あるかないかだろう。冒険者がよく討伐していたゴブリンだとしても、武器も防具も持たない俺では戦える訳ないじゃないか。
どれくらい走ったか分からないが、気が付くと、マシュー兄妹に連れてこられた小部屋のようだ。よし! ここまでくれば何とか道は分かりそうだ。
もう少しで街に戻れると思うと、走り疲れた体にもチカラが湧いてくる。
「……お~ぃ。クスタァ~。どこだぁ~。出てこ~い。」
少し離れた所でマシュー兄の声がする。このままだとまた捕まってしまうかもしれない。とりあえず街へと逃げ込めば何とかなるだろう。最悪、他所の街へと引っ越すことも考えないといけないかもな……
そうやって走りながら出口へと向かって考え事をしていた。
「……あ、クスタいた!」
チッ!
つい舌打ちをしてしまった。マシュー妹に見つかってしまった。しかし、もう少しでダンジョンから外に出れる。外には商人や他の冒険者もいるからな、無理やりなことは出来ないだろう。
俺は走る足を止めることなくダンジョンの外へと向かっていく。
「クスタ! ダメだ! 戻ってこい!」
「クスタ! 危険だから! ちょっと止まって!」
マシュー兄妹は必至に呼びかけているようだが、俺にとってはお前たち2人の方が危険に感じるわ!
ダンジョンの入り口から光りが差し込んでいる。眩しい光りがまるで俺を讃えてくれているようだ。俺は全速力で入り口へと向かって走っていった。
「はぁ、はぁ……やった、外だぁ!」
『許可なくダンジョン外への出国は違反です。違反者には重い罪が処せられます。』
不思議な声が頭の中に響いてきた。それとともに、眩しい光りに包まれたはずなのに、俺の視界は暗くなっていき、俺は意識を失った。
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