【第二章】覚醒 ニ.繋がり
『彼』は涙を拭う。
「あれ?」
自分でも、なんで泣いているかが分からなかった。両親がいることなんて知らなかったし、ましてこの街に自分の家があるなんて……。これは本当の事なんだろうか。
「いきなりすぎて本当かどうか分からないよ。そもそもなんで村長がそんな事知ってるの?」
確かに、ただの小さな村の長がそんな事を知っているのはおかしい。隣にいたライリーも不思議がっていた。
「こうなってしまっては全てを話さなければならないな」
村長はそう言うと、今にも崩れそうな木製の椅子に、ゆっくりと腰掛けた。
「わたしは元々このメルダリアシティの住人でな。そして君の両親とも知り合いだった」
ここから『彼』の真実が、少し明らかになっていく。
「君はここで産まれ、両親からたくさん愛情を注がれた。だが、私も詳しくは分からないが、ある時君を託された。どこか違う場所に行って育ててほしいと」
村長は『彼』の経緯を話す。村長も全てを知っているわけではないらしい。
「そして私は君を連れ、あの村へといったのだ。君の両親が亡くなったのを知ったのは、その少し後になる」
村長は、所々はぐらかしながら話している様子だったが、『彼』にとっては、とても大きな財産となった。この街が故郷という事より、自分に両親がいたことがとても嬉しかった。村長はさらに付け加えて話す。
「そういえば、君の両親と別れる直前、こんな事も言っていた。『もしまたこの街に来るような事があるとしたら……家の地下へ行ってみてくれ』と」
三人が考え込む。先程家の中をある程度見て回ったが、地下へと続くような階段は無かったからだ。
「確かにそう言ったの?」
『彼』が疑いの目で村長を見る。
「ああ。とても真剣な顔で話していたから間違いない」
また三人が考え込む……。その時、ふと『彼』はある事に気付く。
「ねえ。この家こんなにボロボロなのに、そこにある本棚だけやけに綺麗じゃない?」
確かに埃はかぶっているが、ほとんどどこも壊れていない本棚で、しかも本が綺麗に整頓されている。そして一冊の赤い本が床に落ちていた。おもむろに『彼』はその本を本棚の空いている所に入れたーー。
機械音……いや、歯車が回っているような音が家中に響き渡る。そしてゆっくりと本棚が横に動いた。三人が揃って口を開けたまま驚く。そこに地下へと続く階段が現れたのだ。
「……あなたの両親何者?」
ライリーが感心したような、呆れたような声で聞く。
「きっとその答えが地下にあるのかも」
三人は地下へと降りて行く。
地下には、さっきの本棚にあった本とは比べ物にならない程の量の分厚い本が散らばっていた。そして壁には、何やら細かく書かれた地図と、数枚の写真が貼ってある。すると村長は、おもむろに2枚の写真を剥がした。
「これが君の両親だ」
手渡された写真には、髭のはやした短髪の男性と、髪の長い優しい顔の女性が写っていた。
「これが僕の両親……」
『彼』はまた泣きそうになるが、なんとか堪えた。
「ふうん。あなた、お母さん似なのね」
ライリーが若干茶化しにかかるが、その言葉もまた『彼』にとっては嬉しかった。
いろいろな種類の本があったが、どれも難しい内容で、すれたり破れたりしている箇所もあった。『彼』の両親は一体何を見せたかったのか。ただ『彼』に両親が写っている写真を見せたかったのかだけなのか、それともまだ見つけていない何かがあるのか……。
急に三人が飛び跳ねるほど驚く。上から爆発音がした。遠くではない、この家だ。爆発の振動で埃が舞う。と同時に一冊の薄っぺらい本が『彼』の目の前に落ちた。表紙を見てみると『彼』は驚いた。
「え?」
その本を手に取り、一ページ目を開いた瞬間、上の方で声がした。
「この家のどこかにいるぞ。探せ!」
やつらだ。政府の連中が追ってきたのだ。逃げなければ……。そう思ったのはもう遅かった。政府の一人が地下へとやってきた。
「いたぞ! お前ら動くなよ」
緊張がはしる……。するとライリーが相手の隙をつき動いた。そうだ。ライリーなら能力があるから大丈夫だ。そう思って安心し切っていた。
1発の銃声が鳴る。それは目の前の政府の者からではなく、階段の上にいたもう一人の方からだった。それと同時にライリーがゆっくり倒れていく。まるで時間がゆっくり進んでいるかのように。
「そんな……」
『彼』が倒れたライリーの元に駆け寄ると、床には腹から出た血が広がっていた。ライリーの意識が薄くなっていくーー。
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