物語の力
「あなたはファンタジーが好きなの?」
突然現れたお姉さんは訳のわからないそんな質問に柿下澪は非常に混乱した。
ドラゴンが目の前にいて、火を吹いて自分は死んだんだと思って走馬灯まで見ていたのに学生鞄であったはずのものが盾と変化して防いでいるし、気づいたらドラゴンが苦しみだして変な男の人を連れたお姉さんが現れるし。その変な格好をした筋肉隆々のお兄さんは宙に浮いてる気がするし。
ツッコミたいことで頭がいっぱいいっぱいだ。
それに質問の意図もわからない。確かにファンタジーは好きだと思うけど目の前のドラゴンを見てワクワクなんてしなかったし、今おかれているこの状況も訳がわからないままだし、現実がファンタジーなのかファンタジーの世界に来てしまったのかもわからない。これが夢なのだと言われたらそれを信じたい気持ちだ。
もしかして夢なのかと自分のほっぺをつねろうとして両手がふさがっていることに気が付く。この剣あんまり重くないな。なんてことすら思い始める。
そんな風に頭のなかをぐるぐると思考が渦巻いていると、片眼を潰されたドラゴンがコチラをにらんできた。そりゃ当然なのだ。お姉さんがドラゴンに向かって何かをしたのだから。
「えっ、あっ、ヤバいんじゃぁ……」
その声にお姉さんは冷静にドラゴンを確認していた。
「お願いロンゾ……時間を止めて」
へ?
時間を止めるなんてそんな話……。
「ロンゾ……全弾撃ち抜きなさい」
えっ?なんでドラゴンの顔が横にあってドラゴンはコチラを見失っているように見えた。見失ったのは澪も一緒だ。
時間が跳んだみたいにドラゴンの位置が……いや、澪たちの位置が変わっていた。
パスッ、パスッ。と軽い発砲音が立て続けにドラゴンを襲う。しかし、硬い皮膚に阻まれてドラゴンの反応も小さい。
「やっぱり硬いみたい。あなたはそれを振れる?出来ればお願いしたいのだけれど」
お姉さんは澪の右手にある剣を視線で指すとそんな風にお願いしてくる。
「振ったことなんてないです……」
剣道部でもなく、運動は苦手。でもお姉さんは笑顔で微笑み返してくる。
「大丈夫。技術は必要ないの。必要なのはイメージ。あなたが好きなそのお話のイメージ。そのイメージにあなたの感情を乗せてみて」
イメージに感情を乗せる?今、心にあるのは不安だ。恐ろしくあり、こんな状況に少しだけワクワクしている。
そう、このファンタジーの主人公もいつだって不安だったのかもしれない。自分の力を信じきれず、人の期待に応えて冒険を続けるのだ。そして、その恋心に気が付かないままに騎士を失ってしまう。それでも姫は剣を握りしめて立ち上がった。
騎士の願いを無駄にしないために。その魂を自らの力に変えて。
そうやって剣を振るっていた。そうだ。こんな風に……。
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