女子高生とドラゴン

 それは任務のために訪れた町に入ってすぐの事だった。駅前はほどほどに栄えており、高いビルも立ち並び人通りも多い。異常なんてものは一目でわかるわけでもないのだが、いったんは平和そのもの光景が広がっていて佐倉琴音さくらことね安心する。

 しかし、すぐに見つけてしまったのだ。少し駅から離れた住宅街にあった公園の中。普通の人には気づくことが出来ない、結界が張られているのに気が付いた。

 結界と呼んでいるのはそれっぽいからだと雑な説明を聞いたことがある。

 世界が不安定な存在になったときに発生する空間。

 個人的には結界よりまゆに近い状態だと思っている。自らをかたどることを忘れ境界線と言う殻を失った世界がかろうじて自分を保つために切り離した空間。その中は現実と空想と虚像がドロドロの状態で世界自身が何になろうかと必死になって思案している。だからこれは繭なのだと感じる。

 そしてその繭に人が介入することでそれはより複雑なものへと変化する。

 琴音が繭の中に入るとそこは夕焼け色に染まった普通の公園に見えた。たったひとつだけ異質な存在を除けば。

 人の想像力とはすなわち創造力だ。人との進歩は想像と創造が担っていたと言ってもおかしくはないと聞いたことがある。それはそうなのだろうとは理解している。

 そしてそれが繭の中では世界へのアプローチとして大きな意味を持つ。だからそこにありえない存在であるドラゴンがいたとしてもちっともおかしくなんてないのだ。

 仕組みとしては理解していても目の前のドラゴンとその炎の息吹。そしてそれを防いでいる女子高生の姿。それが人の想像力の賜物たまものだといわれても信じられなかった。それが自分が同種の力を持っていると知っていてもだ。

 自分の力とは違いが大きすぎる。これも想像力のベクトルの違いだ。

 そして女子高生は懸命に炎の息吹を防いで入るものの、あれでは長くは持たない。助けなくてはいけないと距離を詰めるために走り出す。

 使いなれた手つきでベルトに付けられたホルダーからゲーム機を取り出す。旧式のそれはディスクを脱着するためのexitボタンがあり、勢いよくそれを押した。

 カシャッ。そんな音とともに飛び出したディスクが宙に舞う。目当てのディスクをホルダーから取り出すと空になったゲーム機に差し込む。そうしてから宙を舞っていたディスクをホルダーに戻した。

 パシャ。空いていた取り出し口を勢いよく閉じると目の前に掲げる。そうしなくてはならない訳ではない。気分の問題だ。あとはイメージする。自分が得意なこのゲームを。格闘ゲームのキャラクターを。2丁拳銃を持ち、時を止めることができるチートとすら呼ばれる最強のキャラクターの存在を。

 派手な音楽とともにゲームのオープニングが始まる。それに呼応するようにゲーム機は光を帯びていく。その光は次第に大きくなり人の形をなしていく。《ティムタ・ロンゾ》それが彼の名だ。彼は私の意思に従って動いてくれる。2丁拳銃を構えると唯一攻撃が通りそうな瞳へと狙いを定めると引き金を引いた。

 軽めの発砲音の後、火を吹き続けるドラゴンの瞳へと着弾する。表現しようのない悲鳴をあげながらドラゴンがのけぞる。攻撃は効くようだ。相性は悪いとは思うがなんとかなるだうか。

 女子高生が困惑した顔でコチラを見ていた。

「大丈夫。私は味方よ。良ければその剣でアイツを倒すの手伝ってくれないかしら?」

 女子高生はさらに驚いた様子でその手に握られた剣をまじまじと見つめる。

「えっ、なんで……私はいったい?」

 その様子だと白銀に輝くその鎧も気づいていないのかもしれない。先程までセーラー服だったそれは、ライトノベルのファンタジーに出てくる姫騎士が来ていそうな美しい装飾の鎧へと変化していた。左手には学生鞄が変化した盾。右手には剣が握られている。

「あなたはファンタジーが好きなの?」

 その言葉に女子高生は更に戸惑った様だった。

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