第17話 お誕生日会への招待状

 国王陛下からの不幸の手紙(子爵への昇格の知らせ)が届いて以降、俺には休みが来なかった。いや、その前からも俺には休みはなかったのだが。クスン。


「今日から毎日畑を作ろうぜ」


 というセバスとバジーリオの進言によってひたすら土と戯れていた。こんなブラック企業、今日限りでやめてやらぁ! と言えれば良かったのだが、退職届を出す相手が自分だったこともあり、どうしようもなかった。

 

 子爵になった俺の元には現在進行形で近くに住んでいた民達が救いを求めるかのように押し寄せていた。その中にはどうやら元トーデンダル伯爵領の領民もいくらか含まれているそうである。あ、今じゃトーデンダル子爵様でしたっけ? プークスクス。ざまぁないぜ!

 思わずニヤリとしていたところにセバスがやってきた。


「お楽しみのところ申し訳ありませんが、デューク様に王女殿下よりお手紙が届いております」

「そうか。いつもありがとう。セバス」


 いえいえ、と言って後ろに下がるセバス。俺の右腕のセバスはデスクの上に手紙とペーパーナイフが乗せてあるお盆を置いた。

 

 領民達の魔改造によって砦となった我がイーストン子爵家には、当然のことながら立派な執務室が設けられた。

 見たまえ、この執務室の中を。壁に設置してある本棚はがらんどうであり、机と椅子以外には何もない。

 この世界では本は貴重品だった。おそらく町中の本をかき集めてもこの部屋の本棚はがらんどうのままだろう。どうしよう。フィギュアでも飾るか? それともダミー本でも置いとくか?


 そんなことを考えながら、王女殿下であるローザから定期的に届く手紙を開封した。するとパラリと一枚の入場券のようなものが落ちた。


 ん? なんぞこれ? なになに……た、誕生日会の招待状!? もうすぐローザの誕生日なのか!? し、しまった! 完全に忘れていた、というよりか、ローザの誕生日が近いことを初めて知った。どうしよう。領民に大盤振る舞いしているから、お金がないぞ。これは困った。


「俺からのプレゼントだよ、ハニー」


 とか言ってキスしたらぶん殴られるかな? それともここは怪盗らしく、どこからか盗み出すか?


「デューク様、どうかなされましたか? 何だか不謹慎なことを考えているかのような顔をしていらっしゃるようにお見受けするのですが」


 鋭いな、セバス。ここは頼れる俺の右腕に相談するしかないな。


「セバス、コイツを見てくれ。コイツをどう思う?」

「凄く……困りましたな」

「そうなんだよ。どうしよう……」


 二人して考え込んだ。この町の特産品の「なまこ」でもプレゼントするか? 結構可愛いからいけるかも知れない。


「デューク様、これは閣下に相談するのが一番かと思われます。お洋服も閣下にお借りしなければならないでしょうから」

「分かった。任せたぞ、セバス」

「かしこまりました」


 面倒くさいことは全てセバスにお任せだ。頑張れセバス。このイーストン子爵領の中ではお前がナンバーワンだ!


 ほどなくしてセバスが話をつけてくれたようで「誕生日会に合わせてハイデルン公爵家を訪れるように」との手紙が祖父である閣下からやってきた。



 こうして俺とセバスは左腕のバジーリオに子爵領の運営を全て任せて公爵家へとやってきた。何度も思うんだけど、もう俺、要らないんじゃないかな?


「よく来たな、デューク。遠慮はしなくていいぞ」


 にこやかな表情で迎えてくれたのは俺の叔父のハイデルン公爵だった。上機嫌なのは俺が早くも子爵に成り上がったからだろうか。それとも、例の宝石の鑑定が順調に進んでいるからだろうか。

 それほど待つこともなく、閣下が部屋へとやって来た。


「デューク、随分と派手にやっているようだな」


 こちらもニコニコとしており上機嫌だ。


「本日は不躾な申し出をしてしまって、申し訳ありません」

「なんのなんの。子爵になってからまだまだ日が浅い。物資が整うまでは今しばらくかかるだろう。お前はハイデルン公爵家の立派な血縁者なのだから、何一つ遠慮は要らんよ」「ありがとうございます」


 そうして俺はこれまでの武勇伝の数々を話した。セバスからの手紙で全て知っていると思っていたのだが、やはり俺の口から直接聞きたかったようで、とても楽しそうに孫の話を聞いてくれた。


「トーデンダル伯爵、いや子爵から手紙がきたそうだな?」


 ニヤニヤしながら祖父が聞いてきた。当然、祖父も俺に手紙が来たことを知っているのだろう。


「ええ、来ましたが「今更帰るつもりはない」と突っぱねておきましたよ」


 ハッハッハと大笑いする祖父とハイデルン公爵。ご満悦のようである。だがすぐに顔を引き締めた。


「例の宝石については今も調査中だ。すでにかなりのことが明るみに出ている。全てが解明される日も近いだろう。もうしばらく待っていてくれ」

「もちろんですよ」


 お母様の敵討ちをしたいわけではないが、許せない気持ちでいることも事実だった。

 真犯人が分かったとき、俺は我慢していられるだろうか? 命を粗末にする奴なんか、ぶっ殺してやる! と言って、殴りかかったりしないだろうか?

 

 祖父達は新しい衣装と共に王女殿下へのプレゼントも用意してくれていた。至れり尽くせりである。開けて確認するのは失礼だと思い、お礼を言って受け取った。二人が選んだプレゼントだ。万が一はないだろう。

 これまでの人生で母親以外の女性に何かをプレゼントしたことはなかった。プレイボーイである百戦錬磨の二人に選んでもらえたことはとても僥倖だった。ヨッシャラッキー!

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