第16話 side伯爵家Ⅱ(飛ばしても全然OK!)

 一方その頃――。

 トーデンダル伯爵家は領地運営に失敗していた。例のウッドタートルによって、領地を流れていた川の水量が激減し周辺の作物は枯れ果てた。他の領地では少しでも雨水を溜めようとため池を作ったり、井戸を掘ったりしていたのだが、トーデンダル伯爵家では下からの声は吸い上げあられず、たまに上がって来た陳情書も全く相手にしなかった。

 トーデンダル伯爵領は急激に寂れて行った。耐えきれずに別の領地へと逃げ出すものも出始めていたが、それを報告するような人員はすでにいなかった。


「トーデンダル伯爵様、周辺の領主から討伐の協力要請が来ております」

「何の協力要請だ?」

「はい。現在川が涸れている原因となっているウッドタートルの討伐依頼の協力要請です」

「そのウッドタートルは私の領地にはいないのだろう?」

「そうですが……」

「なら、その要請に従う必要はない」


 トーデンダル伯爵はその協力要請を断った。それを聞いた周辺の領主達は激怒した。領主ばかりではない。川が涸れ、危機的な状況に陥っているトーデンダル伯爵領の領民も、何も対策をしないトーデンダル伯爵に激怒した。

 こうして領民達の心は次第にトーデンダル伯爵家から離れて行った。

 

 そして遂に、領民の反乱が起こった。蜂起した領民は領都へ向かって声を上げながら進行した。それをトーデンダル伯爵は武力で鎮圧した。

 ほぼ無抵抗の領民を武装した兵士達が蹂躙した。反乱に加わった領民は這う這うの体で逃げ帰った。

 この騒動によってトーデンダル伯爵家の評判は地に落ちた。そして、国内で反乱を起こした責任を問われ「まともに領地の運営ができない」として、国王陛下から正式に子爵位への格下げの通知が届いたのであった。


「くそう! どうしてだ。どうしてこうなった!」


 国王陛下からの手紙を破り捨てた。


「私が一体何をしたと言うのだ」


 トーデンダル子爵にはそれが分からなかった。そしてさらに、驚くべき話が彼の耳に飛び込んでいた。

 デュークが王女殿下の婚約者になったという話である。息子のアルフォンスを使って王女殿下との政略結婚を狙っていた子爵にとっては痛恨の痛手だった。逆転のチャンスが潰されてしまったのだ。


「あいつ、いつの間に男爵になっていたのだ。まさか、公爵家の仕業か! さすが汚いな公爵家。だが何でも思い通りに行くと思うなよ」


 そうだ、落ち着いて考えろ。デュークに手紙を出して、あいつが子爵家に戻って来るようにするんだ。身分はこちらの方が上だ。何とでもなるだろう。それに、あいつも田舎の男爵家よりも、子爵家の方が良いに決まっている。

 そうだ、始めからあいつを追い出す必要などなかったのだ。手元に置いて管理しておけば良かったのだ。

 そうと決めたトーデンダル子爵はさっそく手紙をデュークに送りつけた。


 返ってきた手紙には「今更戻るつもりはありませんし、廃嫡となったことを取り消すつもりもありません」とだけ書いてあった。


「あいつめ、親を何だと思っているんだ! こうなれば強引にでも連れ戻すしかないな」

「お言葉ですが旦那様、先日イーストン男爵からイーストン子爵へと爵位が上がっておりますので、家格は同格。手を出せばこちらにもそれ相応の痛手が返ってきます。それにあちらには王家と公爵家の後ろ盾があります。まず勝ち目はないでしょう」

「何だと! 貴様、私に意見をするつもりか!」


 怒り狂ったトーデンダル子爵は意見したその者を殴り飛ばした。

 

 翌日、長年にわたり子爵家を支えていたその男は去って行った。こうしてトーデンダル子爵家にはどこの馬の骨とも知れない人員達が残された。その者達は皆、甘い汁を吸うだけのイエスマンの集団だった。

 子爵家は転がる石のように落ちぶれて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る