第14話 ラブレターフロム王都

 デューク様とお別れをしてからほんの数時間しか経っておりませんのに、もう恋しくてたまりませんわ。こんなに早く手紙を書いてしまった私を、デューク様はお嫌いになってしまわないでしょうか? 私、それだけが心配ですわ。

 あのあと私はデューク様が座っていた席に座り、同じ景色を眺めましたの。何だかデューク様のお膝の上に乗っているような気がして、あの椅子は当分あの場所から動かさないことに致しましたわ。

 領地に戻ってしまわれたら、デューク様は私のことはすぐに忘れてしまうのでしょうか? それとも、いつも心のどこかに置いて下さるのでしょうか? デューク様の心がどこかの誰かに盗まれないか、とても心配です。

 でも、安心なさって! 私は必ずデューク様の心を盗み返してみせますわ。


 あなたの最高のパートナー 怪盗クィーン ローザ



 ……どうしよう。何だかとってもどうしよう。


「セバス、正直に答えてくれ。王女殿下は何歳なんだ?」

「は? 王女殿下は十三歳でございますよ。まさか、ご存じない?」

「い、いや知ってるし! 確認しただけだし!」


 十三歳!? 十歳くらいだと思っていたが、まさかあと二年で成人だとは思わなかった。それにしては随分と幼児体型……いや、若く見えたなー。

 この世界の住人は発育がかなり良く、特に女性は男性よりも早い印象があった。それなのに……もしや、王女殿下は妖精の血を引いているのでは? それならあのまな板のような胸も理解できるな。


「デューク様、何か失礼なことを考えておりませんか?」

「ま、まさかそんなことナイヨー。それよりも返事を書くから紙とペンを用意してくれないか?」

「かしこまりました」


 セバスはすぐに紙とペンを準備してくれた。筆不精とは言ったものの、初めてもらったラブレターに返事を書かないのはさすがにないな。そのくらいのことは、前世でラブレターを書いたことも、もらったこともない俺でも分かる。えーっと、

 


 拝啓

 日々ご多忙の折、皆様にはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

 さて、先日の登城の際は大変お世話になりました。礼儀作法の知識が乏しい私を――



 完成したラブレターをセバスに確認してもらったら、その場で無言で破り捨てられた。なんでや。

 セバス曰く「デューク様は分かってない」だそうである。その後みっちりと分からせてもらったので、何とか及第点をもらうことができた。しかし、毎回あんな歯が浮くようなお世辞を書き連ねなければならないのか。ラブレターのやり取りも大変だな。



 その後は四十を過ぎたオッサンの腹のようにブクブクと膨れあがった領民達のために、せっせと領地の有り余っている土地を魔法で開墾する日々が続いた。

 もちろん開墾だけではない。水路もたくさん作り、幅も広げたため、今では主要な水上交通網となっている。それに連れてため池も幾度となく拡張工事を行った。

 そのため今では湖となり、新しい観光名所となっている。ちなみにそこで採れるのが、例の特産品のなまこである。どこから来た。

 

 そのかいあってか、作物の収穫量は劇的にアップした。それに伴い俺の懐も大いに潤い始めた。が、しかし。残念ながらこの世界には娯楽と呼べるものはほとんどなく、さらにこんな田舎町では言うまでもなかった。

 

 だからと言ってタンスにお金をしまい込んでいても仕方がない。そこで俺は町の発展のために惜しみなく男爵家のお金を使うことにした。

 急激に発展したために不足していた家を、金の力によって呼び寄せたドワーフ族の建築家集団「ダンシング・カーペンターズ」に建ててもらい、格安で領民達に提供した。もちろん彼らの仕事はそれだけではない。既存の家もリフォームという形で作り直してもらった。そちらはもちろん無料だ。費用は全部イーストン男爵家が出した。


 他にも道路の整備、馬車や船などの輸送システムの構築、治安の強化、害獣対策など多岐にわたって出資した。始めに俺の計画を聞いたセバスとバジーリオは苦言を呈したが「イーストン男爵家に入ってくる金は俺のもの。俺の金はみんなのもの」というビューティフルジャイアニズムを押し通した。


 その結果、イーストン男爵領の建物は次々と立派なものへと生まれ変わっていった。未だに茅葺き屋根を残し、牛舎のような状態を保っているのはイーストン男爵家の屋敷だけである。

 

 俺は「風情があって良いじゃないか」と思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかったらしい。領民達は俺が一向に屋敷を改築しないことに業を煮やすと、あろうことか勝手に敷地内に新しい屋敷を建て始めた。


 そこにダンシング・カーペンターズが加わり、最終的には領民全員が参加するという一大プロジェクトになっていた。どうやら彼らはこの改築作業に娯楽要素を見つけたらしい。どんだけ娯楽に飢えているんだよ。

 

 最終的に出来上がったものは、屋敷と言うよりかはどう見ても砦だった。彼ら曰く「お姫様を迎えるにはこれくらいは必要」とのことである。何だか良く分からないが、俺達が結婚する方向で進んでいることだけは理解した。

 俺は領民達に「非常時はここに避難するように」と口を酸っぱくして言い聞かせた。この砦が避難場所として有効活用されるのであれば、ここに住むのもやぶさかでない。でもちょっと、広すぎるんじゃないかな? 新たに雇い入れなければならない使用人の数を考えると、今から頭が痛い。

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