第13話 男爵領はお祭り騒ぎ
あれから数日が経ち、俺はようやく自分の領地へと戻ってきた。イーストン男爵領よ、私は帰ってきた!
だがしかし、何やら村、いや、町の様子がおかしい。何だか俺が出かけたときよりも明らかに人口が増えているし、賑やかになっているような気がする。町には多くの出店が出店しており、そこかしこの家々には横断幕が掲げられていた。なになに……?
『祝い イーストン男爵様 王女殿下とのご婚約 おめでとうございます!』
いや、待って。俺、今帰ってきたばっかりだからね。一体誰がこの情報を持ち込んだんだ? さては閣下だな。謀ったな、閣下ー!
「お帰りなさいませ、デューク様。王女殿下とのご婚約、おめでとうございます。我ら一同、心よりお喜び申し上げます。え? 誰に聞いたのかですか? 数日前に公爵家より早馬が参りまして、わざわざ知らせて下さったのですよ。それで我々一同、こうやって準備して、今や遅しとデューク様をお待ちしていたのです」
うん。やっぱりやはりか。本当は隠し通したかったのだが、こうなってしまったものはしょうが無い。婚約破棄されたときにプークスクスと後ろ指を指されるかも知れないが、それも仕方ないか。良い夢見させてもらった、と領民に笑ってもらえれば御の字だ。
大体、男爵家に嫁ぐお姫様など、前代未聞だろう。せめて、伯爵くらいの身分が必要だ。今の俺では到底釣り合わない。あと二段階くらい変身しなければならないのだ。爵位を一つ上げるだけでも大変なのにそれが二階級昇進しなければならない。
この世界では殉職しても二階級上がるというシステムはないのでまず不可能だろう。何かヤバそうな魔物や魔族を倒したりしない限りは。
「デューク様、町のみんながお待ちしております。疲れているところ、誠に申し訳ありませんが、町を一回りしていただけませんでしょうか?」
「分かったよ、セバス。案内を頼む」
こんな片田舎で娯楽と言えば、このような祝い事ぐらいしかないのだろう。領民達の娯楽のためにも、今日のところは大目に見るとしよう。
だが町に繰り出してみると、領民の歓迎っぷりはマジ半端なかった。お陰で夕食一回分を無料で済ませることができた。本当にありがたい。領民達はこぞって「お姫様がいつ来ても恥ずかしくないような領地にします!」と大変意気込んでいた。
どうしてすでに王女殿下が領地に来る予定になっているのか。それを小一時間ほど問い詰めたい。こんな片田舎に本物のお姫様が来たがるわけがなかろう。
そんなことを考えていると、一人の領民が目を輝かせて近づいてきた。
「領主様、村に特産品をこしらえましょう!」
特産品ってこしらえるものなのか? 長い時間をかけてその土地に根付いた物がその土地の特産品になるんじゃないかな。そんな取りあえず用意しましたよ的なもので許されるのか?
それよりも、ここ最近の急激な発展により、この領地が村なのか町なのか分からなくなっている領民がいるみたいである。町の基準は分からないが、早いとこ正式に町として周知徹底させた方が良いかも知れない。
「実は私に良い考えがあるんですよ。これです、これを見て下さい!」
どこぞの司令官のようなことを言い出した村人A。すでに失敗するフラグしか感じないのだが……。
「何これ? なまこ?」
「さすがは領主様! よくご存じで。この可愛らしいフォルム、ペットとして人気が出ること間違いなしですよ」
その顔は自信に満ちあふれていた。何だか否定するのは申し訳ないような気がする。なので、せっかくなので採用することにした。どこでなまこを捕まえて来たかは知らないが、珍しい生き物には違いないだろう。
こうして俺は行く先々で揉みくちゃにされながらその日の職務を全うした。明日から暫くの間はお休みをもらう予定である。
王都に行く前は怒濤の開拓工事を行って、王都では国王陛下と閣下によるドッキリが成功し、王女殿下からもう逃げられなさそう。
このままでは心労で倒れてしまう。ここは休みしかない。一年ほど休むしかないな。
しかし、そんな平和な日は長くは続かなかったどころか、一日たりとも訪れなかった。なんてこった。
「おはようございます。デューク様。デューク様が王女殿下の婚約者となったことが周辺の村々にも伝わったみたいで、移住者が殺到しております。急ぎ食堂までお願いします」
あああああ……。次の日の朝、自室の粗末なベッドの上でゴロゴロしているとセバスのお呼びがかかった。俺が今住んでいる家には執務室などない。話し合いは常に食堂で行われるのだ。何故なら食堂のテーブルは大きくて広いから。
セバスに促されて渋々食堂に行くと、朝食と大量の書類が「おはようございます」を告げていた。休日初日は、朝食を口に掻き込みながら書類に目を通すという、まるで仕事ができないサラリーマンのような状態でスタートしたのであった。
もちろんその後も休日は訪れなかった。ずっとずっとね、年中無休なんだ。何故なら私は男爵という役員なのだから。
ブラック企業も顔負けの職場環境、と思いきや、さすがに夜は寝かせてくれた。そこだけがホワイトだった。
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