第10話 ちょ、まてよ!

 王都に到着すると、俺達はすぐにハイデルン公爵家が所有するタウンハウスへ向かった。そこで俺は煌びやかな王子様のお召し物に着替え、祖父である閣下に連れられて王城へと向かった。

 たどり着いた城はまさに物語のシンデレラが住んでいたかのような立派なお城だった。白い壁に、青く尖った尖塔がいくつも天に向かって伸びていた。何だか夢の国に訪れたかのようなこの浮き足立った感覚は、俺をアミューズメントパークに訪れたただの一般客へと変貌させた。


 カメラがあったら撮影してインスタグラムに投稿するのに。この世界にカメラとインスタグラムがないのが恨めしい。コスプレ中なので、自撮りしてもインスタ映えしそうである。

 そんなことを思いつつも、待ち受けた使用人達に連れられて待合室へと案内された。


「さすがは私の孫だな。普通なら緊張のあまり顔色が悪くなるものなのだがな」


 ハッハッハと上機嫌で笑う閣下。どうやら俺のことを肝の据わった大物と見ているようである。こちらはただの観光客気分なだけなのに。

 座っている高級ソファーも、目の前の意匠の凝ったテーブルも、まるで夢のようであり現実味が全く無い。

 

 待合室に入って早々、国王陛下からのお呼び出しがかかった。思った以上に早かったな。もしかして、国王陛下は暇なのかな? 平和そうだもんな、この国。


 待合室から出て、国王陛下が待っているという謁見の間へと向かっていると、その道中で気になる単語が耳に入った。


「いつになったら国王陛下との謁見が許されるのですか。もう三日も前から待っているのですよ」


 怒気を孕んだその声にチラリと目を向けると、どこかの貴族が城の使用人に詰め寄っていた。かなり立派な服装をしており、それなりに地位が高そうである。

 

「申し訳ございません。あと五十人ほど待っておりますので……」


 どうやら国王陛下はとても忙しいようである。謁見待ちが五十人。パネェ。謁見の順番が来たときに国王陛下を待たせるわけにもいかないし、終わるまで城で缶詰めになるしかないのだろう。謁見するだけでも大変だな。


 ん? あれれ~おかしいぞ~? 何で俺達は到着してすぐに謁見の順番になったのかな~? 考えたくもないが「閣下の権力は伊達じゃない!」ということか。国王陛下とは幼馴染みだという噂もあることだし、きっと親友補正が効いているのだろう。パネェ。

 

 使用人に案内されて謁見の間に入った。当然国王陛下はまだ来てはおらず、正面の玉座はもぬけの殻である。しかし、国王陛下の座る玉座の隣に一回り小さい玉座があることに気がついた。


 これがデフォルトの状態なのだろうか。隣の席には王妃様が座るのかな? 爵位を拝命するだけなのに、王妃様も出張ってくるのか。

 フッと沸いた疑問に首を傾げていると「国王陛下のおなり」と声がかかった。俺は慌てて隣に跪いている閣下の真似をして頭を下げ声がかかるのを待った。


 サラサラと絹が静かに擦れるような音がする。それも、俺が予想した通り二人分の服の音だ。事前の閣下の話から、爵位をもらうときには国王陛下以外にも誰かいるのだろうとは思っていたが、まさか王妃様だとは思わなかった。

 確か巷の噂では、王妃様は病弱で人前に姿を現すことはほとんど無いと言う話だったはずなのだが。まさか人に姿を見せられぬ、獣のような体をしてるわけじゃないよね? 顔を上げてベラみたいなのがいたらどうしよう。ビビるわ~、きっと。


「二人とも、面を上げよ」

「ハッ」


 返事の声が重なり、同時に顔を上げた。頼む、俺の幻想であってくれ!


「あ!」


 喜びに満ちた若い女性の声が広い謁見の間に響いた。

 

「え?」


 国王陛下の隣には満面の笑みを湛えた、あの日出会った子爵令嬢がいた。

 えっと、国王陛下の隣に座っているということは、まさか……。

 王女殿下はスススッと俺の隣に並んで跪き、国王陛下を見据えた。


「お父様、私はこの方と結婚致しますわ」

「そうか。二人の結婚を認めよう」


 ちょ、まてよ! 展開、早すぎない!? 慌てて閣下を見ると、ウンウンと頷いている。

 これはあれか。すでに了承済みか。さては閣下、見ているなッ! 


 閣下はあの時の出来事を「思い出のルビー」から知ったのだろう。そして俺が助けたご令嬢が王女殿下であることに気がついた。そのため、国王陛下と共謀してこの場に王女殿下を呼んだのだろう。そしてどのような反応をするのかをニヤニヤしながら見ていたのだろう。趣味悪っ!


 一方の王女殿下は、名前も告げずに去った俺のことを「白馬の王子様フィルター」によって「私の本物の王子様」として認識したようである。

 それに見たまえ、この私の姿を。どう見ても白馬の王子様です。本当にありがとうございました。


 何でなん? 何でこんなに平凡な日常からどんどんと遠ざかって行ってしまうん?

 俺の隣で笑顔を向ける美しい姫君。その目は大きくて丸く、青い瞳が夜空に浮かぶ星々のように輝いていた。

 ……でもちょっと幼いような気がするんですけど。体の膨らみ具合を見た感じ、十歳くらいかな? 可愛いことは可愛いんだけど、欲情するかと言えば……しないこともないかな。ち、違う! 俺はロリコンじゃない! 断じて! 男の面子が立ってなどいないぞ!

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