第4話 聞いてないよ!
その後は特に問題もなく予定通りに祖父がいる古都トリアンへとたどり着いた。フラグだと思った? 残念。そのフラグは俺がへし折ってダストボックスにシュートしといたよ。超エキサイティング!
このトリアンはその昔王都であった時期もあるという由緒ある古都である。その都市を治めているのがハイデルン公爵家、すなわち母方の実家である。
都市の中央に公爵家が住んでいる立派な城があり、俺は今からそこに向かうことになる。この城に来るのもこれが最後だろう。そう思うと、せっかくなのでその最後の光景を目に焼き付けておこうかな、という気にもなった。
門から城の入り口までズラリと使用人達が並んでる。どんだけ人おんねん。馬車からチラリと目に入ったその光景にゾッとしながらも「公爵家の跡取りとかじゃなくて本当に良かった」と心から安堵した。
馬車が城の扉の前にたどり着いた。うん、とっても外に出たくないね。すでに胃がキリキリと痛んでいる。胃薬があるのなら今すぐにでも飲みたいところだ。
意を決して降りると、そこには祖父と現公爵である叔父が並んで立っている。その表情は、俺が無様に伯爵家を追い出されたのにも関わらず、別に不機嫌というわけではなかった。むしろ、久しぶりに訪れた孫を「よく来た」という表情で見ていた。
この二人は俺を追放する気はあるのだろうか? そうでなければ色々と今後の計画が狂うのだが。
どこかの魔境に面した街の冒険者ギルドに登録して冒険者となり、まずは目立たないようにそこその暮らしをする。
その後、ジョジョに冒険者ランクをそれなりに上げて、そのうちパーティーメンバーの可愛い女の子達と次々にゴールイン。ハーレムを形成する。
その後は前世の知識を活かして飲食店でも経営して、愛する嫁やその子供達と共に、膝の上に猫を乗せながら静かな余生を送る。
完璧なこの幸せ冒険者計画に水を差すようなことはしてもらいたくないのだが。
「よくぞ無事に帰ってきた。道中疲れただろう。今日のところはゆっくりと休むといい」
祖父のその言葉に従って、その日は夕食を食べるとすぐに用意された自室で休んだ。……何で俺専用の自室が用意してあるんだ? 何だか嫌な予感がしてきたぞ。俺は絶対に破滅フラグを離さない。猫のように蹴っても無駄だぞ。
翌日、朝食を済ませると「執務室に来て欲しい」とハイデルン公爵に呼び出された。どうやらそこで俺の今後の処遇が言い渡されるようだ。信じているぞ、叔父さん。このクソ雑魚ナメクジの俺に引導を渡してくれ。
「デューク、そこに座りたまえ」
「失礼します」
指定された時間に向かうと、そこにはすでに祖父の姿もあった。現役は引退して叔父に家督を譲ったとは言え、今でも国王陛下の親友として公然たる力を持っていた。そのため、敬意を込めて皆からは「閣下」と呼ばれている。要するに裏ボスのような存在である。悪魔的な意味はない、と思う。
「話は聞かせてもらったぞ、デューク。お前から何か申し開きたいことはあるかね?」
叔父は片方の眉を器用に上げながら「何かわけがあるんだろう? 言ってみなさい」とばかりにこちらを見た。
「ありません」
キッパリと言った俺を「あちゃー」と額に手を当てながら叔父が見ている。何、その反応。何でそんな顔するんですか。
「セバスからも直接聞いた。随分と好き勝手に生きてきたみたいだな」
俺は何も答えなかった。沈黙は金。黙っていれば全てを察して、俺の望んでいる言葉を言うだろう。さあ、言うがいい。「お前には愛想が尽きた。これを持ってどこへでも好きなところへ行くがいい」とな!
俺が何も言わないのを見て、はあ、と祖父は大きくため息をついた。くるか? きちゃうのか? ついに俺のために破滅フラグがきちゃうのか!
「デューク、私は一つだけ誰にでも与えることができる男爵位を持っている。それをお前にやろう」
「は?」
ナンデ、ソンナコト、イウンデスカ! 話が違う! セリフが間違ってますよ、閣下!
「どんなに出来損ないでも、私の娘が産んだ可愛い孫であることに代わりはない。伯爵家に比べると見劣りするかも知れんが、平民よりはマシだろう」
いやいやいやいや、平民の方が百倍、いや、百万倍マシですよ! やめて、誰か閣下を止めろ!
俺はセバスを見た。長い間ダメダメな俺を見てきたセバスなら、それが無謀なことだと分かるだろう。頼んだぞ、セバス。君に決めた!
俺の視線に気がついたのだろう。セバスがおもむろに口を開いた。
「お館様、デューク様だけでは不安でしょう。私もデューク様について行こうと思います」
「そうか。セバスがついてくれるか。それなら安心だな。苦労をかけてすまんな、セバス」
「苦労だなんてとんでもございません」
違うでしょセバスちゃん! 何でこうなるのっ!
閣下の言葉は絶対。俺はセバスをつれて新たに拝借したデューク・イーストン男爵としてハイデルン公爵領のすぐ隣にある男爵領へと行くことになった。
どうしてこうなった。どうしてこんなにツイてないんだ。今の俺はきっと「ダイ・ハード」のブルース・ウィリスと同じ顔をしていたことだろう。
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