42――依頼

「えーっと……何かの冗談ですか?」


皇帝の言葉に思わず聞き返す?

どう考えても、冗談としか思えない内容だったからだ。


帝国のトップが俺を伴侶にとか……どう考えてもありえないだろう。


「いいえ、至って本気よ」


彼女はまじめな表情で俺の問いを否定する。

その顔は至って真剣そのもので、冗談を言っている顔には見えない。

まさか本気の本気で、彼女は言っているのだろうか?


「端的に言えば、貴方の持つ異世界人としての力を血筋に取り込みたいの」


「異世界人の力……ですか」


俺の場合だと、宝玉を合成する能力だ。


この力は一代だけじゃなく、遺伝として残るって事か……そうでないのなら、俺を伴侶として血筋に取り込む意味は無いだろう。

利用するだけなら、一々結婚などせず報酬で釣ればいいだけだからな。


「ええ。力は遺伝する。その強力な力を、私は帝国に取り込みたいのよ」


彼女が俺を婿にと言う理由は、まあ分かった。

分かったが……

それ、俺になんかメリットある?


いや、凄い美人と結婚できるのは大きなメリットとも言えなくはないが……


とは言え、俺は顔だけで相手を選ぶほど軽薄な人間ではない。

それに、皇帝の伴侶とか死ぬ程疲れそうだ。

出来ればごめん被りたい。


「えーっと、お話は分かりました。けど俺と陛下とでは立場が全く釣り合わないので、そのお話はちょっと」


適当に理由を付けて断っておく。

まあこれも別に嘘は言ってはいない。

皇帝が一般人――転生者なので厳密には一般人とは言わないかもしれないが――と結婚など、周りから強い反発が出るのは目に見えている。


「それなら心配ないわ。シタイネン王家の血筋で、厄災を討った英雄となれば周りも反対はしないでしょう」


「厄災を討った英雄?」


「その剣を手にしている以上、貴方にはこれから帝国内で発生するであろう厄災を討伐して貰う事になるわ」


皇帝の言葉に、俺は眉根を顰める。

彼女の口振りから、少数での厄災討伐を求めている事が伺えたからだ。

大軍勢で討伐するなら、誰が止めを刺したかなど些細な事でしかない。

そうなると、俺が英雄と呼ばれる事は無いだろう。


「期待されている様で申し訳ないのですが……正直、特殊な剣があっても俺が厄災を倒せるかはかなり怪しいです。大軍勢で当たるのが正解ではないかと」


幻獣から依頼されているので戦う方向で動いてはいるが、少数で倒せとか無茶を押し付けられても困る。

言っちゃなんだが、俺はヤバくなれば迷わずトンズラする予定だ。

悪いけど、よその国の為に自分の命を投げ出す気は更々無かった。


「可能な限りそれは避けたいのよ。さっきも言ったけど、情勢が宜しくないの。厄災を倒したら城が無くなってる。そんな状況が普通に起こり得る状態なの。だから――力を貸して頂戴」


彼女は深く腰を折り、俺に向かって頭を下げた。


「――っ!?」


俺はそんな彼女を見て、固まる。

それは俺だけじゃない。

護衛の人達も、ちらっと背後を見るとアイレンさんも目を見開いて固まっていた。


国のトップである王が頭を下げる等、普通は有ってはならない。

何故なら、王は国の象徴である。

その王が頭を下げると言う事は、国自体が頭を下げるのに等しいだからだ。


にも拘らず、彼女は俺に頭を下げた。

それはそれだけ、帝国の窮状が良くない事を示している証拠だ。


「貴方の力でこの国を救ってほしい。そして、私の伴侶となって貰いたい」


「え、えーっと……伴侶はともかく、厄災に関しては一応出来るだけ頑張って見ます」


流石にここまでされると、無下に断る気にはなれない。

とは言え、任せて下さいとまでは流石に言えなかった。

出来るだけ努力すると言う事で、勘弁して貰おう。


「ありがとう。感謝するわ。まあ結婚の事は、討伐後にでも話し合いましょう」


皇帝の中で、結婚は確定事項の様だった。

仮に結婚する事になっても、それは政略結婚に近い物だ。

彼女だって好き好んで俺と結婚する訳では無いだろうに、国の為に自分の人生を捧げるその姿勢は素直に凄いと思う。


自分の欲望にかまけて、馬鹿みたいに大量に妾を囲んでいる誰かさんに爪の垢でも飲ませてやりたい所だ。


「陛下、一つお願いがあります。もし厄災討伐に成功したら、報酬を頂きたいのですが」


「帝国一の美女以外に?」


皇帝が俺の肩に手を置き、軽く首を傾げる。

帝国一の美女というのは、彼女自身の事を差しているのだろう。


実際凄い美人だとは思うが、自分でそれを言うか?


まあそんな事はどうでもいい。

そもそも俺がこの国に来たのには、理由がある。


「はい。闇の使徒なる者達の情報を、可能な限り頂きたいのです」


闇の使徒。

奴らを滅ぼす為の手がかりを求め、俺はこの国にへとやって来ている。

その情報は喉から手が出るほど欲しい物だ。


厄災を頑張って倒せたら、その位の褒美を望んでも罰は当たらないだろう。


「闇の使徒……何か事情でもあるのかしら?」


「ええ、まあ」


俺は今一緒に行動している仲間の村が奴らに襲われた事。

そしてその脅威を何とかするために、この国へとやって来た事を彼女に伝える。

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