40――謁見
ガノッサ帝国。
100年前、シタイネン王国内で発生した厄災を倒した勇者が起こした国だ。
その初代皇帝であるゴウマ・ガノッサは、30年程で息子に帝位を譲り、それ以降の消息は不明と言われている。
彼が残した最後の言葉は「皇帝飽きた。卒業するから後は頑張れ」だと伝えられており、隣国であるシタイネン王国が王家の人間を放逐する際に卒業と言う言葉を用いるのは、ゴウマ・ガノッサの最後の言葉を引用した為だと言われている。
「くれぐれも、皇帝陛下に粗相のない様にお願いします。下手したら、冗談抜きで私達全員の首が飛びかますから」
此処は皇帝の住まう居城――ではなく、アイレンさんの勤務する役場だ。
どうやらここと本部の研究室には、転移装置の様な物があるらしく――シタイネンにはない技術だ――それを使って皇帝は移動して来るそうだ。
わざわざ俺に会うためだけに。
「絶対合わないと不味いですか?」
たまたま研究本部に立ち寄っていた皇帝がアイレンさんの報告を耳にし、俺に興味を持ったらしいのだが……正直勘弁して欲しい所だった。
元王族とはいえ、俺は最低限の教育しか施されていないのだ。
粗相せず、完璧にふるまう自信なんてまるでない。
「カオスさんに会いに来られる訳ですから……」
ですよねー。
まあしょうがない。
下手を打っても、まあ転移で逃げればいいさ。
……指名手配されそうではあるけど。
「はい……はい……」
壁にかかった電話の様な物が鳴る。
見た目同様、内線機能のあるマジックアイテム様だ。
その受話器部分をアイレンさんが手に取って、返事を返していた。
此処にいると、本当に現代社会にいる様な気になってしまう。
「皇帝陛下がお越しになられたそうです。向かいましょう」
「はい」
アイレンさんに連れられ、研究施設から出て階段を上がっていく。
因みに剣は置いてきた。
簡易な物とは言え、流石に皇帝との謁見で武器を持って行くわけには行かないからな。
って、あれ?
右手に感触が?
見ると、置いて来た筈の業魔の剣が俺の手に納まっていた。
どうゆう事?
「あの、すいませんアイレンさん」
「はい?なんでしょう?って、ええ!?」
呼び止められ、振り返ったアイレンさんは俺の手にある剣を見て驚く。
彼女も俺が剣を置いて来てたのを見ているのだから、当然だ。
「なんか、気づいたら手の中に納まってました」
「カオスさん以外に触れず、しかも離れると自動で戻って来る機能ですか。凄い機能ですが、帯剣して陛下に会うと言うのは……まあ考えても仕方ありません。剣に関しては着いてから判断を仰ぎましょう」
彼女は小さく溜息を吐くと、また歩き出す。
階段を登りきると、北方向とは反対の通路に進む。
やがて俺達は大きな扉の前に辿り着いた。
その扉の前には、物々しい鎧を着た兵士らしき人物が二名立っている。
扉の上には会議と刻印されていた。
普段は会議室に使われているのだろう。
「陛下に呼ばれ、カオス・マックスを連れて参りました」
緊張しているのか、アイレンさんの声は少し裏返った感じになっている。
だが兵士達はそんな彼女の様子よりも、俺の手にしている剣に視線がくぎ付けだった。
ま、そりゃそうだ。
「その剣は何だ」
兵士はじろりと俺を睨み付ける。
鎧の隙間から見える筋肉はよく発達しており、そのいかつい顔つきは歴戦の戦士を思わせる物があった。
何というか、圧迫感が凄い。
「この剣は業魔の剣です。カオスさんにしか持てず。また、手放すと戻って来る性質があるようですので置いてい来る事が出来ませんでした。どうかその旨を、お取次ぎください」
「……分かった。少し待て」
兵士の1人が扉をノックし、返事を待って中に入った。
好奇心からちょっと覗いてみようかとも思ったが、体を少し動かした瞬間、残った兵士が腰にかけてあった剣に手をやったので辞めておいた。
まあよくよく考えたら、これから会うのに覗く意味はないよな。
我ながら意味不明な行動だ。
俺も少し緊張しているのかもしれない。
「入れ。但し、変な気は起こすな」
兵士は直ぐに戻って来た。
もちろん変な気を起こす気はない。
いくら転移で逃げられるからって、帝国で指名手配されるなどまっぴらごめんだからな。
「失礼します」
アイレンさんが中に入り、それに俺も続いた。
広い会議室の机は中央奥のもの以外全て壁際に寄せられ、中央にぽっかりと空いたスペースが広がっている。
そして奥の机には、一人の女性が座っていた。
黒髪黒目の整った顔立ちの美女。
現皇帝は女性と聞くので、彼女がそうなのだろう。
そのサイドには綺麗なメイドさんが一人と、帯剣した護衛――但し鎧ではなく制服を着ている――が4人立っていた。
護衛は全員、親の仇でも見る様な目つきで俺達を睨み付けてくる。
いや、正確には剣を手にしている俺か。
「カオス様をお連れしました。陛下」
部屋の中に入ると、護衛の1人に手で制される。
これ以上近づくなという事だろう。
まあ剣を持ってるんだから当たり前だが――アイレンさんがその場で跪き、俺を紹介する。
「初めまして陛下。私は――」
「あなた、転生者ね」
「え?」
取り敢えず俺の口からも挨拶を、そう考えて跪いた所で思わぬ言葉が投げかけられた。
その言葉に思わず顔を上げ、声の主――皇帝陛下を凝視する。
「その反応。どうやら間違いない様ね」
そう言うと、皇帝は楽し気に微笑んだ。
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