34――召喚の玉
サラが丁寧に調べた所、トラップは祭壇に隠されていた魔法陣による物だと判明した。
どうやら生命体の接近を感知すると、光る玉のエネルギーを使って発動する仕組みになっていた様だ。
「これで大丈夫だと思います」
サラが魔法で魔法陣を無効化してくれる。
俺は恐る恐る祭壇に近づくが、彼女の宣言通り、もうトラップが発動する事はなかった。
頼りになる相棒だ。
「結局、これは何なんだ?」
子供の握りこぶし程度の光るその玉。
触ると仄かに温かいそれを手に取り、俺は繁々と眺めた。
「多分、召喚用のマジックアイテムじゃないかと」
「召喚用?」
「私が無力化した魔法陣は、その玉の力を発動させる構成になっていました。それ以外の効果は無さそうだったので、出て来たアンデッドはその玉が召喚したんだと思います」
「成程」
一見ただの光る玉だが、これには魔物を召喚する力が込められているという訳だ。
しかし、さっき召喚されたのがアンデッドというのが気にかかる。
死霊系を召喚するアイテムってのは、映画とかだと大抵呪われた物だったりするからな。
「呪われたりとかは……してないよな?」
サラに確認する。
何でもかんでも知っている訳では無いだろうが、それでも魔法の知識に関しては彼女の方が上だからな。
「魔法で確認してみます」
サラが素早く魔法を唱え、そして俺の手にしている玉に指先で触れる。
その瞬間、彼女が眉根を顰めた。
「……っ!?」
「どうかしたのか?」
「すいません。魔法が掻き消されてしまいました」
サラの魔力は桁違いだ。
ハイエルフというのは魔法の天賦に恵まれた血筋であり、更に俺の作った宝玉によってその魔力は4倍にまで跳ね上がっている。
その彼女の魔法が弾かれたのだ。
この玉に込められた力は、相当な物と思って間違いない。
「ただ……嫌な感じは無かったので、呪われてはいないと思います」
「ふむ」
俺は少し考えこむ。
触っている感じ、何か嫌な気分に襲われると言った不快感はない。
サラの言う通り、呪いなんかは籠められいてい様に俺も感じる。
「ま、大丈夫か」
呪われていないという絶対の保証はないが、せっかくのお宝を放置するのは勿体ない。
俺は持ち帰る事を選び、腰のポーチに玉を詰め込んだ。
欲深く軽率な判断の様に思うかもしれないが、一応感覚以外の根拠もある。
この玉は、サラの魔法を弾くほどの力を秘めているアイテムだ。
もし呪いの効果があるんなら、相当強力なはず。
にも拘らず、俺は平気でこれを持てている。
それこそが、呪いなどかかっていない何よりの証拠といえるだろう……多分。
「取り敢えず、いっぺん戻るか」
まだ数時間しか探索していなかったが、この玉について少し思い当たる事があったので、俺は一旦街に帰る事にした。
「はい」
少し前に、アイレンという帝国の研究者の女性と知り合っている。
彼女はこの迷宮で、ある物を探していると言っていた。
それが何かまでは聞けていないが、ひょっとしたら今手に入れた玉がそうなんじゃないかと考えたのだ。
もし当たりなら、きっと彼女はさぞ高値で買い取ってくれるに違いない。
サラの手を取り、俺はスキルで街へと帰還する。
瞬間移動をあまり人には見られたくないので、転移先は人目の無い宿の自室だ。
「んじゃ。アイレンさんの所に行くか」
彼女は再び迷宮探索を行うとは言っていたが、あれからまだ一週間しか経っていない。
恐らくまだ出発してはしていないだろう。
「ん?誰だ」
外に出ようとした所で、ちょうど扉がノックされる。
そのあまりのタイミングの良さに俺は少し身構えるが、サラが何か気付いたのか「あ……」と小さく呟いて扉を開けてしまった。
そこにいたのは――
「お待たせしました」
エマとドマ。
エルフの双子だった。
どうやらやっと帝国に来る事が出来た様だ。
2人は俺の護衛としてカイルさんに付けられたのだが、身分証が無かったので、国境を超える事が出来なかったのだ。
そのため、色々な手続きに足止めを喰らっていたという訳だ。
「手間をかけさせてしまって悪かった」
実は転移を使えば、ズルして二人をこの国に連れて来る事も出来た。
だがそれだと、何かトラブルがあった時に困る事になってしまう――密入国がバレるとかなり面倒な事になるので。
だから彼らには、手間でも正式な手続きで入って来て貰ったのだ。
「いえ、お気になさらずに」
「まあ立ち話もなんだし、食堂へ行こうか」
アイレンへの訪問は後回しでいいだろう。
別に急ぐ理由も無いし。
二人の荷物を部屋に置き、俺達は宿備え付けの食堂へと向かう。
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