33――祭壇

「サラ……この扉、どう思う?」


あれから1週間。


マッピングしながら迷宮の探索を続けていた俺達の前に、大きな扉が姿を現した。

大分風化してしまってはいるが、扉には凝った意匠の施された跡がある。

この先、あからさまに大事な物がありますよと言った風体だ。


「この先に、幻獣様がいらっしゃるんでしょうか?」


「それは微妙かと思ってる」


街で情報取集した際、幻獣に遭遇した場所の話は聞けなかった。

いつの間にか変な所にいて、そこで出会ったと言われてる。

こんな立派な扉の先にいたのなら、それが伝わってないのはおかしい。


「とは言え、なんかありそうだし一応先を見てみるか」


幻獣を探すだけなら、引き返して他の道に行くべきだろう。

だが俺達は冒険者だ。

宝物?への扉があるというのなら進むべきである……


お金欲しいし。


「悪いけど、魔法でサーチしてくれないか?」


「はい」


サラが魔法を唱える。

エルフ特有の精霊魔法なのと、超早口なのでどういった詠唱なのかは分からないが、一瞬で呪文を唱え終えたサラの手にした杖が光った。


「魔法的トラップはないみたいです」


サラのサーチ魔法は、物理的に仕掛けられたトラップまでは感知できない。

だが魔法関係だけでも十分だ。

大抵厄介なのは、マジックトラップと相場が決まっているからな。


「ただ、封印が施されているみたいで」


「封印か……」


封印されていると言う事は、間違いなく何かがある証だ。

鬼が出るか蛇が出るか――


出来れば財宝でお願いします。


「解除を頼むよ」


「はい」


再びサラが魔法を詠唱する。

その姿を見て思う、俺さっきから何もしてねぇ、と。


実際ダンジョンでの戦闘もほぼ100%、サラが魔法一発で終わらせている――あの後何度かリッチにも遭遇したが、そいつらも全て彼女がワンパンしている。

そしてサーチに解呪。


……なんか、自分が子供に寄生する駄目な大人になった様な気分になってきた。


ひょっとしたら、サラには人を堕落させる何かがあるのかもしれん。

って、そんな訳わけないか。


自分の無能を棚上げして幼い少女のせいにするとか、サイテーの発想だ。

俺は頭から邪念を追い出すべく、力強く両頬を叩いた。


「ど、どうかしたんですか」


「気合を入れただけだ。気にしないでくれ」


サラが驚くが、適当に流して封印解除の終わった扉に手をかける。

ぐっと力を籠めて扉を押すと、岩の軋む音と共にゆっくりと開いていく。

結構重いので、サラの腕力では開けられないはずだ。


うん、俺仕事した。


扉の先は円状の部屋となっていた。

周囲には壁画が――正確にはその跡が残っている。

残念ながら経年劣化が激しく、何が描かれているのかまでは正確に把握する事は出来ない。


「祭壇か?けどあれは何だ?」


部屋の中央部分はせりあがっており、その上には祭壇の様な物が設置されていた。

こちらの方は風化した様子はなく、その祭壇には仄かに光を放つ玉が置かれてある。

自然、俺の視線はその玉に吸い寄せられた。


「扉の外からじゃ分かりませんでしたけど、あの光る玉から凄い魔力を感じます」


「てことは、マジックアイテムか?」


発見された当初は、冒険者達も活発にこの迷宮の調査をしていたらしい。

だがめぼしい物がまるで発見されなかった事から、この迷宮でお宝は期待できないと言われていた。

だからこそ今現在、ここは冒険者もほとんど立ち寄らない場所となっているのだ。


だが、明かにお宝であろうブツが俺の目の前に現れた。

サラが凄い魔力だというぐらいだ。

きっととんでもない力が秘められているに違いない。


ラッキー。

そう思いながらスキップ――は我慢して歩いて近寄ると、光の球が急に強く輝きだした。


これはまあ……

どう考えても……

マジックトラップだ。


別にサラを責めるつもりはない。

扉の外から玉の魔力を感じられなかったと言うのなら、それはサラのサーチを妨害する様な何かがあった証拠だ。

それを考慮せず突っ込んだ俺が、馬鹿だったとしか言いようがない。


「ブースト!」


俺は咄嗟にブーストを発動させ、大きく後ろに飛ぶ。

と同時に大爆発。

俺のさっきまで経っていた場所だ。


あっぶねー。

一瞬でも遅れれば確実に大怪我だ。


「マックスさん!」


「大丈夫だ」


俺は素早くサラの元まで下がり、彼女にはさらに後方にいる様に手で示す。

発動したマジックトラップは召喚だ。

玉から発せられた光の中から、翼をもった悪魔の様な物が姿を現している。


俺の居た場所を爆発させたのはこいつだろう。


「デーモン。それもアンデッドのか」


よく見ると、現れた悪魔の姿はところどころ腐食していた。

悪魔型のアンデッドなど聞いた事が無く、当然お目にかかるも初めてだ。


こいつは手強そうだ。

そう思い腰の剣に手をかける。


だがそれを引き抜くよりも早く――


「ホーリーライトニング!」


眩い電光が俺の横を駆け抜けていく。

それは前方ののデーモンを飲み込み、瞬く間に消滅させてしまった。


「……ありがとう。サラ」


「魔物退治は任せて下さい!」


ヤバいな。

迂闊な行動でトラップを発動させた上に、サラがそれをあっさり討伐して解決。

本当にこれじゃ、俺がただの足手纏いみたいじゃないか?

何とかいい所を見せて、挽回せんとな。


誰に向かって挽回するのかって?


俺の誇りにだよ!

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