32――なんかやだ
「感謝する」
街に付いた所でガンボ――冒険者パーティーのリーダー――に深く頭を下げられる。
「いや。仕事としてやっただけだから、気にしないでくれ」
結局あの後、遺跡の外までではなく街まで護衛する羽目になった。
まあ険しい山道を二体もの遺体を運んで進むと言うのは大変なので、じゃあここでという訳にも行かなかったので仕方ない。
「それでも命を救われ、仲間の遺体を運ぶのを手伝ってくれた事に変わりはない。この借りは必ず返すよ」
彼は馬車内のアイレンさんに一声かけ、遺体の入った袋を担いでパーティーメンバー達と街の中に消えていった。
彼らの契約は馬車――山の麓に管理者と共に待機させていた――を街まで届ける事までだったので、ここでお別れだ。
大事な仲間を失ったショックは大きいだろう。
彼らが早く立ち直ってくれる事を祈るばかりだ。
「ここです」
街の中央付近にある大きな建物――それは帝国の管理する建物だった。
アイレンさんは帝国に勤める研究者であり、迷宮にいたのは国の研究の為だったそうだ。
もちろん国が行っている研究なので、その内容までは教えて貰っていない。
中に入ると馬車は
「用意をしますので、少々お待ちください」
そう言うと、アイレンさんはそのままどこかに行ってしまった。
俺達がわざわざここまで付いて来たのは、報酬の手続きの為だ。
これが商人なら、街の入り口でポンと金の入った革袋を渡されて終わりなのだが、国費で報酬が支払われる以上、お役所仕事の煩雑な手順が必要だった。
暫くしてアイレンさんが戻って来る。
片眼鏡をした、50台ぐらいのふくよかな女性を伴って。
「経理のアダムソです」
彼女はブスッとした表情で挨拶してきた。
どうやら歓迎されていない様だ。
「どうも。冒険者のカオスです」
「さ、サラです」
「お二人にアイレンさんが救われ、その護衛を引き受けたのは伺っています。その依頼の清算のために、此方へご記入いただいて宜しいですか?それと、冒険者証と身分証の提示をお願いいたします」
「あ、はい」
俺とサラは身分証と冒険者証を提示する。
「
俺達の冒険者証を見て、アダムソさんが眉根を顰める。
何か問題でもあったのだろうか。
「私は
「え!?そんな事一言も言ってませんけど」
そんな法螺を拭いた覚えはない。
俺の言葉を聞き、彼女はアイレンさんを睨む。
「リッチを倒した手並みから、てっきり
「本当にリッチと遭遇されたのですか ?」
退治した俺達のランクが低かった事で、リッチとの遭遇を疑われる。
まあ普通に考えて、
「さっきも言いいましたけど、リッチと遭遇したせいで
「分かりました」
そうアイレンさんが応えると、彼女は手にしていた書類を机に置いて魔法のペンを走らせた。
どうやら記載されていた冒険者ランクを修正した様だ。
「此方に代表の方のサインをお願いします」
「あ、はい」
「報酬の方は後日冒険者ギルドを通じて支払われますので、そちらでお受け取り下さい」
名前を記入すると、淡々と説明される。
「では、私はこれで」
アダムソさんは用が済むと、さっさと出て行ってしまう。
始終機嫌が悪そうだったが、何か嫌な事でもあったのだろうか?
「すいません。彼女、機嫌が少々わるくて」
「いや、気にしてはいませんよ」
まあ人間そういう時もある。
親しい間柄でもないのだし、一々気にしたりはしない。
「しかしお二人が
「まあ色々ありまして」
俺達の事を尋ねようとしたアイレンさんだが、途中でやめる。
冒険者に対する詮索は、基本失礼にあたるからな。
まあ単に上げに行く――その為のテストを受ける――のを忘れてただけで深い意味はないのだが、一々説明するのも面倒くさいので適当に苦笑いして流しておいた。
「マックスさんは、暫くはこの辺りに滞在されるんですか?」
「んー、どうでしょう。まだ出ていくつもりはありませんが、用事が出来ればと言った所でしょうか」
ふわっとした返事で返しておぃ。
この辺りにどれぐらい留まる事になるかは、迷宮内で幻獣を見つけられるかどうかで変わって来る。
場合によっては、2-3日中に他所に移る可能性もあった。
「実は迷宮の調査何ですが、近いうちにもう一度行う予定でいるんです。もしよければ、同行して頂けないかと……」
「俺を雇いたいと?」
「ええ、単刀直入に言えばそうなります」
正直、この誘い自体は魅力的だったりする。
なにせ、今回の報酬は破格な物だった。
流石政府の機関だけはあると言わざるを得ない。
恐らく次もかなりの高額が見込めるだろう。
だが俺の場合、闇の使徒からの襲撃の心配があった。
いつ襲われるか分からない身で、誰かの護衛に従事すると言うのは問題があるからな。
だから幻獣発見後であったとしても、受ける事は出来ない。
まあ今回は緊急という事で受けはしたが……
「すいません。俺達も目的があって活動しているので……」
「そうですか、残念です。まあ用事があるなら、仕方がないですよね」
「じゃあ俺達はこれで」
長居しても仕方がないので、俺達は建物を出る。
「しかし、ランクかぁ……」
「ランクがどうかしたんですか?」
俺の呟きにサラが反応する。
「完全に忘れてたと思ったのさ。せっかくだし……申請しとくか」
問題は審査の際にブーストを使うかどうかである。
自分で言うのもなんだが、ブースト使用時の俺は異常な強さだ。
王都と同じ審査方法なら
でも短時間限定だからなぁ……
常時その力を期待されるのもあれなので、止めておいた方が無難な気がする。
俺はチラリとサラの方を見た。
「どうかしましたか?」
「ああ、いやなんでもない」
だが無しだと……ぶっちゃけ、サラの方が強かったりする。
一緒にテストを受けたら、確実に俺より彼女のランクの方が上になるだろう。
それはなんかモヤモヤする。
別に何かが変わる訳ではないが、なんかヤダ。
やっぱり昇格試験は受けない事にしよう。
うん、それがいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます