35――軍事利用

「そんな物が……」


光の玉をテーブルにのせ。

その入手の経緯をエマ達兄妹に聞かせてやると、二人は興味深そうに玉を覗き込んだ。


「何かよくわからないし、明日アイレンの所に行って確認しようと思ってるんだ」


「アイレンとは何者でしょうか?」


「帝国の研究者さ。迷宮内で知り合ってね。彼女は何か探してる風だったんで、ひょっとしたらこれがそうじゃないかと思ってさ」


「もしその方が欲しいと言われたら、眷属様はどうされるのです?」


「金額次第では彼女に譲るつもりだよ」


高額なら当然売っぱらう。

魔物を召喚する玉に、俺自身はあまり興味がなかった。

持っていても宝の持ち腐れである。


まあもし買い叩かれそうなら、ギルドの買い取り査定の方に出すけど。


「このような事を申し上げるのはあれなのですが」


俺の答えにエマが眉根を顰めて口を開いた。

何か問題でもあるのだろうか?


「強力なアンデッドを召喚する様な物を国に渡せば、軍事的に利用されてしまうのではないでしょうか?」


「……」


言われるまで考えもしなかった。

出て来た悪魔型のアンデッドはサラが瞬殺してしまっているが、恐らくその強さはリッチ以上だ。


リッチに――宝玉で強化されている俺達から見れば雑魚だが――金剛石ダイアモンド級で構成されたパーティーが全滅させられそうになっていた事を考えると、それ以上のアンデッドを召喚できるこの玉が兵器として利用される確率は、確かに高いのかもしれない。


まあこれ一個で大戦力になるかと言えばアレだが――どの程度の数が召喚できるかは試していないので分からないが、それ程大量に呼び出される事は無いだろう。

研究して量産される様な事にでもなれば、帝国の軍事力が跳ね上がりかねない。


「……止めといた方が良いか」


俺の生まれ故郷であるシタイネン王国は帝国のすぐ隣だ。

帝国が下手に力を付ければ、パワーバランスが崩れて侵略される可能性だってある。


王家から追放された身とはいえ、故郷が侵略されるのはやはり気持ちのいい物では無い。

帝国に売り渡すのは止めておこう。


まあ、そもそもこれがアイレンの探してたものと一致するかは限らないが……


「それが宜しいかと」


「うーん、じゃあどうした物か……」


そうなると、当然ギルドで買い上げて貰う事も出来ない。

ギルドから帝国に流れるのは目に見えているからな。


じゃあシタイネンに帰って売る?


それもなんか嫌だな。

国で利用されるか、もしくはどこか近隣の国に流れて……って事になりそうだし。


そう考えると、換金じたい諦めた方が良さそうだ。

強力なアイテムは何処で放出したって、結局争いの元にしかならないからな。


「売るのは諦めて、俺が持っておくしか無いかぁ……」


せっかく大金ゲットだと思っていたのだが、ぬか喜びもいい所だ。

むしろ持ち運ばなければならない分、余計な荷物が増えただけとも言える。

流石に超が付くレベルの強力なアイテムを宿に置いていくのは、泥棒が入った時に怖すぎるからな。


こんな事なら、欲を出して扉なんて開けるんじゃなかったぜ。


「全く、余計な物拾っちまったなぁ」


「あの……もし御迷惑でなければ、エルフの村でお預かり致しましょうか?」


「え!いいのか?」


「勿論です。我らエルフは、救世主であられる眷属様の為に存在する様な物。必ずやそのマジックアイテムを守り抜く事をお約束いたしましょう」


救世主とか大げさもいい所だ。

だが特に使い道も無い強力なアイテムを預かっててくれると言うなら、それは有難い申し出だった。

俺の宝玉で強化されている今の彼らなら、これを狙った賊に襲われても心配ないだろうし。


まあ情報を流す様な真似はしないので、そもそもそんなのが襲って来る事自体無いとは思うが。


「じゃあ、後でエルフの村に行くとするか」


ここからだと相当な距離があるが、転移を使えば一瞬だ。

そのためトンボ返りも余裕だった。


「本当ですか!」


エルフの村へ行くと聞いて、サラが物凄く嬉しそうな顔をする。

それは子供らしい無邪気な笑顔だった。


つい頼もしくて忘れがちになってしまうが、サラはまだ子供だ。

生まれ育った村から遠く離れて暮らすのは、きっと寂しい事だろう。


そう考えると、これからはちょくちょく理由を付けてエルフの村に連れて行ってやった方がいいのかもしれないな。

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