22――不老長寿

村の広場でおこなわれた歓迎は、盛大な物だった。


色とりどりのフルーツに、取れたてのイノシシを使ったジビエ料理。

それにエルフ秘伝の酒も振る舞われ。

美しい女エルフ達の舞は、楽曲と合わせてとても幻想的で、ついつい見惚れてしまう程だ。


下戸なので酒こそ飲めなかったが、彼らの歓迎は俺にとってとても素晴らしい物となった。

大満足だ。


「やっぱ一番多いのは混合だな」


宴が終わり、村長宅の一室を借りた俺はさっそく合成を始める。

村中から集められた宝玉の数は軽く数百を超え、混合だけでも人数分は余裕で賄える程だ。


しかし……エルフは使いもしない宝玉を何故こんなにも貯めこんでいたのだろうか?

ふとそんな疑問が頭を過る。


「まあ考えても仕方が無いか」


少々不思議ではあるが、余計な詮索は止めておく。

命の恩人というポジションではあるが、だからと言ってあまりずけずけと他人の領域に足を踏み込む様な真似はしない。


何故なら、俺は元日本人だから。


「カオスさん。これで全てです」


カイルさんが革袋を片手に、俺に用意された客室に入って来た。

手渡されたそれの中を覗き込むと、そこには白と黒の宝玉がそれずれ5つずつ入っている。


特殊石マスタリーが10個も。凄いですね」


思わず「おお」と感嘆してしまう。

特殊石マスタリーの宝玉はかなり貴重な物だ。

この規模の集落が、それを合わせて10個も持っている事に驚きが隠せない。


「この里の歴史は長いですから。50年に1つのペースで霊樹から取れたものです」


「霊樹?」


「この森の奥にある。我等にとって御神木の様な物です。その樹から定期的に宝玉が生まれて来るんです」


「へぇ、そうなんですか」


国で流通している宝玉の産出は、主に採掘による物だ。

宝玉は鉱物の様に地中に埋もれており、それを掘り出した物が商店に並ぶ。


だが神から与えられた宝玉は、土中以外からも産出される。

魔物の体内だったり、いきなり空から降って来たりだとか、その発生は多岐に渡る物だった。

だから果実の様に、木に宝玉がなったとしてもそれ程驚く事ではない。


「此処にある宝玉は、サラに渡したもの以外は全て霊樹で取れた物なんです」


「成程」


サラが初めから吸収していた宝玉は、遥か昔に幻獣から授けられた物だ。

効果がピンポイントな事を考えると、ひょっとしてその幻獣はエルフ達に起こる未来を予知していたのだろうか?

不思議な力を持つ幻獣なら、十分あり得そうな話ではある。


まあだったら、もっと大量に寄越せって話ではあるが……


「でもいいんですか?大事な物なんでしょう?」


彼らが大量の宝玉を抱え込んでいた理由は、今の話でだいたい察する事が出来た。

御神木から取れたものだから、村の宝として大事に取っておいたのだろう。

それを合成して別物に変えて大丈夫なのだろうか?


「ええ。ですがきっと、霊樹も村を守るためなら許してくれるでしょう。それに私は思うのです。ひょっとしたら今日この日、カオスさんに強化して頂く為にこの宝玉は存在していたのではないかと」


「そ……そうですか」


いや、どう考えてもそんな訳はないだろう。

まあ一々余計な茶々を入れるつもりはないので、さらっと流すけど。

運命論的な物を信じる辺り、エルフというのは案外ロマンチストな様だ。


「マスタリーの方、ちょっと確認しますね」


魔法で白黒の宝玉を鑑定する。

俺レベルの魔法だと詳しい効果までは判明しないが、大抵の場合は名前でだいたいの効果が分かる様になっている物だ。

ダークマターみたいな謎効果は早々転がってはいないので、これで十分である。


「これは!?」


白色。

パッシブを鑑定して、思わず大声を出してしまう。

4つは剣技や体術の強化――技の冴えが劇的に上がる――等の一般的な物だったが、一つだけえぐいのが混ざっていた。


「不老長寿……」


国に伝わる御伽噺おとぎばなしの中に、1000年王国という物がある。

そこで英雄と呼ばれた王が所有していた物が、これと同じ不老長寿の宝玉だった。

物語の中では、その英雄王は宝玉の効果で1000年生きたとされている。


戦闘向きではないし、能力も上がらない。

ただ寿命が延びるだけの宝玉ではあるが、それは命ある者にとって何物にも代えがたい効果となっている。


国に献上したなら、これ一つで一生遊んで暮らせるどころか、高位貴族の地位ですら容易い。

それ程の宝玉だ。


「良ければ、その宝玉はカオスさんが使ってください」


「え!?」


「自然と共にある我等にとって、寿命の延長などは無用の長物ですので。カオスさんの役に立つと言うのなら、喜んで差し上げます」


「……まあ、そうおっしゃられるなら……」


村を救ったとはいえ、完全に過ぎたお礼に感じる。

しかしいらないと言うのなら、受け取るのもやぶさかではない。


喜んでもというんだから、しょうがないよな。

うん、しょうがない。


俺は笑顔で懐に宝玉を収めた。

自分で使うか財産にするか、それは後で考えるとしよう。


ま、仮に売り払うにしてもよその国でだけどな。

万一親父の手に渡ったら、際限なく子作りして、卒業させられる奴で溢れ返ってしまうのは目に見えている。


「じゃ、取り敢えず始めます」


取り合えず、俺は白と黒の特殊石をよけ。

種類分けしておいた基本石を手に取って合成を始める。

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