21――エルフの里

エルフの里があるクレインの森は、シタイネン王国の北部に位置している。

王都から都市間を繋ぐ乗り合い馬車を使ってケイレンの街へ向かい――2週間ほどの距離。

そこから徒歩で更に2日ほど歩いた場所に、その森はあった。


「ふわあぁぁぁ……」


故郷の森に帰って来た事に感極まってか、サラが両手を広げ謎な声を発する。

俺はそンあ彼女を見て、思わず顔がほころんだ。


子供ってのは可愛いもんだ……


あ、別に俺はロリコンじゃないので悪しからず。


「サラ、里まで案内してくれるか」


「はい!任せてください!」


そう言うと、サラは元気に駆けだした。

早く帰りたい気持ちは分かるが、森の中で走り回るのは止めて貰いたい。

追いかけるのに一苦労だ。


駆けるサラを必死に追う事約一時間、急にサラが動きを止める。


「どうした」


「ここから先がエルフの里です」


そうサラに言われたが、俺にはそこが何もない森の中にしか見えなかった。

周囲を見渡すが、やはりそれらしき物は見当たらない。


「本当にここが?」


「間違って人間や他の動物が入って来ない様、結界の魔法が張ってあるんです。呪いの事がありますから」


「成程」


自分達が死んでしまうかもしれないって状態なのに、他人を心配するとか……


本当に大したもんだ。

エルフって種族は。


「じゃあ私、先に行って皆に宝玉を渡してきますね!」


「ああ、頼む」


サラが進むと、急にその姿が掻き消えた。

結界を通って中に入ったのだろう。


サラだけ先に行ったのは、宝玉を先にエルフ達に配ってもらうためだ。

いきなり何の対策も無し村に入ったら、間違いなく俺に呪いがうつってしまうからな。


待つ事10分。


サラが1人の男性を連れて結界から出て来た。

落ち着いた雰囲気の金髪イケメンエルフで、体には草色のローブを身に纏っている。

ひょっとして彼女の父親だろうか?


「ありがとうございます。眷属様」


その男性は俺を見ると、いきなり土下座しだした。

一応命の恩人って事にはなるが、初対面でいきなり土下座して礼を言われたら流石に面食らう。


「我々を救って頂いた事。一族を代表しましてお礼申し上げます」


「ああいや、そんなに気にしなくていいですよ」


まあ実際は気にして貰わなくては困る訳だが。

報酬の方をたんまり頂きたいから。

とは言え、表面上は穏やかかつ爽やかな感じで進める。


サラが見ている前でがっつくわけにも行かないしな。


「困った時はお互い様ですから。兎に角、頭を上げてください」


「本当に何とお礼を申し上げていいのやら」


頭を上げ、エルフの男性が立ち上がる。


「皆も眷属様にお礼がしたいと申し上げております。歓迎致しますので、是非里の方へお寄りください」


「まあ、そうおっしゃられるんでしたら」


いやいややそんな、是非是非、のどうでもいいやり取りは時間の無駄なので省略してスパッと誘いを受ける。

そもそも、この状況下で断って里に入らないとかいう選択肢はないからな。


「では此方へ」


俺は案内されて里の中へと入る。

只の森にしか見えなかった場所だが、結界を抜けた瞬間視界が広がり、そこかしこに木製の建物が目に入って来た。


「「ようこそ!眷属様」」


「あー、えっと……どうも」


2-30人ぐらいだろうか?


整列していたエルフ達が一斉に俺に向かって腰を折る。

俺はそれに軽く会釈で返しておいた。

俺が腰を深く折るのは、流石におかしいからな。


しかし此処にいるのは全員男性なのだが、エルフというのは女性の比率が少ない種族なのだろうか?

いや、そんな訳が無いか。

冷静に考えれば襲撃、もしくは呪いの影響で命を落としたと考えるべきだろう。


「今、妻達が歓迎の席を設けていますので。少しお待ちして貰って宜しいですか?」


ああ、うん。

どうやら考え過ぎだった様だ。


「そんなの全然かまいませんよ」


「お疲れになられているでしょうから、どうかそれまで私の家でお寛ぎください」


俺は歓迎の用意が整うまでの間、男性の家でここまでの経緯や話を聞かせて貰う。

どうやら男性は村長で、サラとは別に親子ではない様だ。


「彼女はこの里で唯一のハイエルフなんです」


サラが女性陣の手伝いに行くため席を外すと、里長――カイルは彼女の生い立ちを俺に話し出した。

話しによるとサラはハイエルフらしく、緊急時に宝玉が渡されたのはその為だった様だ。

彼女の魔力がとんでもないレベルだったのも、その辺りが大きいのだろう。


「しかしまさかサラが眷属様を見つけ出し、里を救ってくれるとは……正直、夢にも思いませんでした。流石はエロフ様の血を引くだけはある」


どうやらエロフというのは、サラの母親の名の様だ。

当然その女性もハイエルフであり、少し前まではこの里の長を務めていたらしいが、病で5年前に亡くなっているそうだ。


「すっごい気になってんですけど」


「なんでしょう?」


「ハイエルフっていうのは、凄く希少で特別な種族ですよね?でもカイルさんはサラの事を随分普通に扱っていると思って」


ヤバい時に、迷わず彼女に特殊な宝玉を渡しているのだ。

彼らがハイエルフを特別視している事は間違いない。

だがカイルの態度を見る限り、サラの事は普通の子供として扱っている様に見えた。


それはきっと他のエルフ達も同じだろう。

だからこそ、サラは歓迎の準備を手伝いに行ったのだ。

お姫様扱いされているのなら、カイルがきっとサラを止めていた筈。


「ハイエルフが、我々にとって特別な存在なのは確かです。ですが、それをすれば彼女は孤独になってしまう。エルフやハイエルフという区切りなど関係なく、里の仲間として、私達はサラに幸せになって欲しいと考えていますので」


カイルはそう言うと、柔らかな笑顔で笑う。

それは心からサラの幸せを願う表情に見えた。


優しい人達だ。


彼らは呪いにかかった際、他者に移さない様にするため、自分達の滅びを足掻く事無く受け入れていた。

自然と共に生きる事を選んだエルフという種族は、誇り高く優しい種族なのだと痛感させられる。


「実は、俺には宝玉を生み出す力があるんです」


「ええ、サラから伺っています。幻獣様から頂いたとか」


「ああいや、そっちではなくって……実はそれとは別に、既存の宝玉の力を纏めてその力を強化する能力が別にあるんです」


俺は素直に自分の能力を打ち明けた。

多分この人達なら、周りに吹聴する様な事は絶対に無いだろう。


「その様な能力までお持ちとは……流石は眷属様です」


生まれた時から持っている力なので眷属云々は関係ないのだが、まあ一々説明するのも面倒くさいし、そこはまあそういう事にしておいていいだろう。


「それで良ければ、皆さんの持つ宝玉を強化しようかと」


俺の持つ黄金の宝玉は闇の使徒によって狙われている。

俺を直接狙う分にはいいのだが――いや、実際は全然良くはないのだが。

やはり一番困るのは、人質を取られた場合だ。


森で襲撃を仕掛けてきた奴らは全員自害してしまっているが、何らかの手段で情報が流れていないとも限らない。

もしそうだった場合、サラの存在が闇の使徒に当然伝わっている可能性がある。


そしてそうなれば、奴らがサラを人質にとるため、再び此処を襲う可能性は十分考えられた。


「そのような事、よろしいのですか?」


「ええ。闇の使徒が再びここを襲わないとも限りませんので。只、俺の能力の事は他言無用でお願いしたいんですが」


「それは勿論です。眷属様の情報をペラペラしゃべる様な軽率な真似。我らは決していたしません」


取り敢えず、この里にある宝玉を強化するとしよう。

数が足りない様なら買ってくればいい。

サラの持ってた宝石の一つでも売り飛ばせば、人数分の混合の宝玉くらい余裕で買える筈だ。

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