17――情報

「ギャラルホルンの事、少しだけ分かったよ」


「本当ですか!ぁ……」


昼頃、約束していたカフェでサラと俺は落ち合う。

そこで情報を得た事を報告すると、彼女は興奮してテーブルに手をついて勢いよく立ち上がった。


が……直ぐに俯いて静かに席に着く。

周りの視線が集まって、恥ずかしくなってしまったのだろう。


「ああ。まあほんの少しだけどな」


だが何もないよりは遥かにましだ。

情報を提供してくれたリュウ兄さんには感謝しかない。


「黒尽くめ達は邪神を崇拝するカルト集団で、自分達を闇の使徒って名乗ってるらしい。んで、ギャラルホルンってのは終末の鐘って意味だそうだ」


世界の終わりを告げる鐘。

それがギャラルホルンという訳だ。


普通に考えれば只の頭のおかしい宗教団体だった。

だが彼らはエルフの里を襲い、エルフ達に死の呪いをばら撒いている。

そして兄の話では破壊活動はそれだけに留まらず、各地で同じ様な事例がいくつか起きているそうだ。


「なあサラ。エルフの里に特殊な宝玉。金色の宝玉は無かったか?」


兄の話では、彼らの目的は黄金に輝く特殊な宝玉で間違いないらしい。

宝玉でありながら何故か体内に取り込む事が出来ず、その効果も分からない謎の宝玉。

それを闇の使徒は集めている様だ。


「あ、はい……村の宝物で……私は見た事がないですけど……」


「となると、エルフの里が襲われたのもそれ狙いで間違いないだろうな……」


しかし、闇の使徒はそんな物を集めて一体どうする気なのだろうか?

まあ何らかの使い道があって、それを知っているから集めていると考えるのが妥当だとは思うが……

流石に珍しい物だから、単に宗教的に集めているだけって事は無いだろう。


「まあ今分かってるのはそれ位かな。残念だけど、呪いの解き方とかは判明してないんだ」


「そう……ですか」


兄の情報では、襲われた場所は全て皆殺しにされているらしい。

痕跡から呪いが使われた事は判明しているが、それがどういった呪いかまでは分からないと言っていた。


その話を聞く限り、使われている呪いは即効性の様に思える。

だがエルフ達はまだ存命していた。

エルフだけ別の呪いをかけられたとは考え辛いので、彼らがまだ死んでいないのには何らかの理由があるのだろうとは思う。


その理由を調べ、呪いを解く手がかりを得る為エルフの里へ……


という訳にはい行かない。

間違いなく、呪いがうつってしまうからだ。


そもそも俺は呪いに関しては素人だからな。

行った所で何も分かりはしないだろうし。


コーヒーを一口すすり、どうしたもんかと、これからの事を考える。


一番手っ取り早いのは、使徒共を踏ん捕まえる事だった。

呪いの解き方は、かけた奴らに聞くのが一番だ。


――だが正直、それはかなり難しい。


兄からの情報は国軍内部の物で――兄は短期間だが臨時的に軍に所属していた――彼らには軍も動いているそうだが、その詳細はようとして知れていないらしい。

ですらで見つけられない相手だ。

それを個人で見つけ出すなど、至難の業だろう。


では黄金の宝玉の在り処を探り、奴らが奪いに来た所を押さえるのはどうだろうかというと……まあそちらも無理だ。


兄が言うには黄金の宝玉のある場所自体はいくつか割れているらしいのだが、その全てに貴族が絡んでいるらしく、情報はトップシークレットとなっている。

そんな情報、今や一般人でしかない俺の元には間違っても転がり込んでは来ないだろう。


仮に自力で見つけたとしても、貴族の屋敷に乗り込むわけにも行かない。

よくて見張りだが、万一バレでもしたら大事になってしまう。

その為、襲って来た相手を捕らえると言うのも現実的では無かった。


「素直に神殿を頼るのが一番なんだが……」


そもそも返り討ちに遭う可能性も考慮すると、神殿に相談するのが一番無難だ。

神殿なら、何らかの解呪方法を持ち合わせている可能性がある。


俺がちらりとサラを見ると、彼女は黙って首を横に振る。


「うつるから。人を連れて来るのは……駄目だって……」


まあ確かに……


下手な者が呪いを見にやって来ると、治すどころかその相手に移してしまう事になりかねない。

エルフは他者に移す事を良しとせず、森で滅びを待つ種族様な種族だ。

確証もなく連れて行っても、きっと会ってはくれないだろう。


うん、打つ手なし。


取り敢えず――


「明日スライムの森に行ってみるか」


幻獣から貰った宝玉でサラの呪いは抑え込まれている。

もし同じ様な宝玉を幻獣が持っているのなら、それで何人かのエルフの命を救える可能性は出て来る筈だ。


まあ根治には程遠いが、現状出来る事が殆どない以上、それ以外俺に出来そうな事は今の所無いからな。

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