14――少女の願い

カフェの席に着き、注文を入れる。

程なくしてコーヒー(俺用)とホットミルクが運ばれて来た。


サラはじっと机と睨めっこを続けていたが、ミルクが冷める前に飲んだらと勧めた瞬間――


大声で叫んだ。


「エルフの皆を救いたいんです!」


――と。


どうやらこの子には、TPOという物がない様だ。


「さっきも言ってたけど。救うっていうのは……エルフに何かあったって事かい?」


「はい。皆……皆……呪われてしまって……」


相変わらず竜頭蛇尾だ。

最初より少しはましになっているので、強化された俺の聴力なら辛うじて最後まで聞き取れはするが。


しかし呪いか……


厄介そうな話だな。

出来れば関わりたくないという気持ちが強いが、まあ取り敢えず話を聞くとしよう。


「ある日、私達の里に黒尽くめの魔術師達が現れて……そいつらが……みんなに……」


「呪いをかけたって事?」


サラは俺の問いかけに、黙って頷く。

その体はカタカタと震えていた。

きっと彼女も恐ろしい目に遇ったのだろう。


正直、話を根掘り葉掘り聞きだして思い出させるのは可哀そうだとは思う。

だが協力を仰がれている以上、なあなあで済ませるわけには行かなかった。

事情はちゃんと聞かないと。


取り敢えず、一つ一つ聞いていくとしよう。


「呪いって言うのは、どういう呪いなんだい?」


「動物に伝染する呪いで……かかるとどんどん弱って……何年かで死んじゃうって……長老様が……」


死に至る呪いか、とんでもない奴らも居たもんだ――ん?


「いや、ちょっと待って!?今動物に伝染するって言った!?」


思わず席を立つ。

その動物というのには、当然人間も含まれているだろう。

そして彼女の里で呪いが蔓延している以上、当然サラも呪いにかかっている可能性は高い。


俺、ひょっとして呪いをうつされてるんじゃ?


「私は……大丈夫です……」


「そ、そうなのか?」


それを聞いてほっと胸を撫でおろす。

俺は椅子に腰を下ろして、コーヒーを一口啜った。

ビビらせないでくれよ、全く。


「私は……幻獣様から貰った宝玉があったから………」


「呪いにはかからなかったって事か」


サラは俺の言葉に、首を横に振る。


「ん?どういう事?」


「宝玉は呪いを封じ込める力があって……その力のおかげで……呪いが鎮まってるん……です」


「成程……」


それって本当にうつらないんだろうな?

ふとそんな事を考えてしまう。


はぁ……俺って最低だな。

子供が目の前で震えているというのに、そんな事ばかり気にする自分の卑しさが嫌になってくる。


「長老様は……自分達の事は忘れて……他の里で生きろって……私に……」


「それって……」


「皆……他の人達に移すくらいなら……そのまま死ぬって……」


俺ならそんな状態になったら、パニックになって逃げだしてしまうだろうな。

多分。

エルフってのは心の強い種族の様だ。


「でも……そんなの嫌で……だから……わたし……わ……たし……」


サラの声が涙声に変わる。

肩を揺すり、嗚咽を漏らしながらも必死に涙を堪えていた。

幼い少女のそんな姿を見せられて、俺は胸が苦しくなってしまう。


「ふむ……」


彼女の目的はまあ大体わかった。

要は俺の保護を受けて、呪いを解く方法を探したいって事だろう。

正直俺には何のメリットもない上に、危険な匂いがプンプンする案件だ。


リスクのある冒険者なんかやってはいるが、態々危険に飛び込む程酔狂な思考はしていない。

だから自身の安全第一で行動するなら、断るのが正解だろう。

だが、目の前で涙を堪える少女の必死の願いを切り捨てるのは、人としてどうなのだろうか?


せっかく転生して。

2度目の人生を貰って。


だのに日本人だった頃の事無かれで生きて行く……


――それって、超かっこ悪いよな。


「分かった。協力するよ。頑張って、呪いを解く方法を探そう」


俺は覚悟を決める。

勿論どこまでしてやれるかは分からないが、出来る限り協力をするつもりだ。


「あ……ありがっ……とぅ……ごっ……ございまずぅ……」


俺は泣きじゃくるサラの頭を優しく撫でた。

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