13――パーティー

この世界には亜人という物が存在している。


亜人とは人と混血可能な人間の近似種であり、人にはない能力を持つ者達の総称だ。

有名所を上げるのならば、エルフやドワーフがポピュラーだろう。

それ以外にも獣人や、翼人と言った亜人がこの世界には存在している。


――――――――


「あ、あの!」


クエストの清算を済ませ、ギルドを出た所で声を急に掛けられる。

声の主は、魔導士風のローブを身に纏った少女だ。

背は低く、フードを目深に被っている為顔はよく見えない。


「何か用かい?」


「あの!そのですね!実は……その……何と言いますか……ごにょごにょ……」


最初だけは元気良かったが、次第に声が尻すぼみに小さくなっていき、後半は何を言っているのか聞き取れなかった。


無視して帰ろうかとも思ったが、相手は子供だ。

辛抱強く待って上げると、少女は大きく深呼吸してから――


「私とパーティーを組んでいただけませんか!!!」


うわうっさ。

耳を傾けていた所に突然の少女の大声で、キーンと耳鳴りが響く。

宝玉の効果で聴力が強化されている為か、耳の奥がじんじんと痛んで仕方がない。


「あ、ご……ごめんなさぃ……私……その……」


「ああ、良いよ。気にしなくて」


俺のしかめっ面を見て、少女がぺこぺこと頭を下げる。

余りにも必死に頭を下げるので、何だか此方が悪い事をしている様な気分になってしまう。


「それで?パーティーだっけ?」


「はい!ぜひお願いしま……す……」


最初は元気よく、最後は尻すぼみ。

こういうのを竜頭蛇尾と言うのだろうか?

まあ違うか。


「クエストの為に、一時的に組むって事?」


「いえ、出来れば固定のパーティーとして……ごにょごにょ……」


やはり後半は聞き取れない。

まあ流れからして、長い付き合いをお願いしますとかそういう内容だろう。

しかし――


「そういうのはいきなり言われてもなぁ……」


パーティーを組む事には、メリットとデメリットがある。

メリットはやはり、一人ではできない事が出来る様になる事だろうか。


幾ら強くても、一人で出来る事には限界がある物だ。

それを補う仲間との連携は、世界を大きく広げてくれる事だろう。


ではデメリットは何かというと、それは人付き合いの煩わしさだった。


仕事中は常に一緒に行動し、しかもお互いの命を預け合う訳だからな。

普通の軽い付き合い等ではなく、密の濃い付き合いがパーティーメンバーには求められる。


気の合う友人ならともかく、明らかに年の離れている少女とそう言う関係を築いていける程、俺は社交的ではなかった。


「お願いします!私!私どうしても……冒険者として……ごにょごにょ……」


彼女は俺の袖を掴み、喰らい付く様に必死に頭を下げて来る。

相変わらず何を言っているのか後半は聞こえないが……


俺はそんな必死な少女の姿を見て訝しむ。


彼女のこの反応は幾らんでも大げさ過ぎるのだ。

冒険者が俺しかいないのなら兎も角、探せば他にいくらでもいる職業だ。

俺が駄目なら他を当たればいいだけの筈。


「何か事情でもあるのか?」


「私は……その……エルフ……なんです」


そう言うと彼女はフードをずらす。

そこには小ぶりながらも、先の尖った耳が見えた。

どうやら彼女は本当にエルフの様だ。


「珍しいな」


人間の街でエルフを見かけるのは珍しい事だった。


だが人間とエルフは別に敵対している訳ではない。

姿をあまり見ないのは此処が人間の国であり、閉鎖的な気質のエルフが外の世界にめったに出る事がないからだ。

だから此処にエルフである少女がいたからと言って、珍しくはあっても、それ程驚く事では無かった。


「……」


「……」


言葉の続きを待っていたが、少女は俯くだけだ。

どうも続きはなさそうだと俺は判断する。


「えーっと……君がエルフである事と、俺と組む事に何の繋がりががあるんだい?」


正直「だから何?」としか言いようがなかった。

エルフだと何故俺とパーティーを組む事になるのか、意味不明過ぎる。


「長老様が……外で活動するなら……幻獣様の……眷属である方の保護を……受けろって」


ぼそぼそと小声だったが、今度は何とか最後まで聞き取る事が出来た。

宝玉様様だ。


「幻獣の眷属?」


しかしやはり言っている事はよく分からない。

生まれてこの方幻獣なんて――っと、そこで思い出す。

ギルドマスターの言葉を。


幻想種・・・

スライムの森――実際は違う――であったドラゴンの事を、ガイガー・カウンターはそう呼んでいた。


幻獣と幻想。

何となく似通った響きだ。

まさかとは思うが、一応聞いてみた。


「幻獣って、ひょっとしてドラゴンの事かい?」


俺の言葉に少女はコクンと頷く。

どうやら合っていた様だ。

と言う事は――


「俺が眷属って事?」


確かにあのドラゴンからは、どういう訳だかドラゴンスロットという力を貰っている。

だが別に従属した覚えはないのだが。


「はい。だから保護を……パーティーを組んで……貰いたいんです」


保護して貰いたいのか、パーティーを組みたいのか一体どっちだ?

ひょっとして両方?

どちらにせよ、面倒くさそうな事はしたくないのだが。


俺の態度から、断られると判断したのだろう。

彼女は声を張り上げる。


「私……村を……エルフの村を救いたいんです!」


――村を救いたいと。


彼女は真っすぐに俺の目を見つめて来る。

フードの影から見えるその瞳は、真剣そのものだった。

どうやら、何か事情がありそうだ。


「分かった。取り敢えず話を聞くよ。結論はそれからだ。まあとにかく場所を変えよう」


ギルドの入り口付近でやり取りしている為、通りがかる人が此方をまじまじと見つめて来る。

傍から見れば、俺が小さな子供を虐めている様にしか見えないだろう。

変な噂が立たない内に、さっさと場所を移す事にする。


「そう言えばまだ名前を聞いてなかったね」


「私は……サラといます」


「俺はカオスだ。取り敢えずカフェにでも行こうか」


これがエルフの少女、サラとの出会いだった。

この出会いが、彼女の目的が、俺の人生設計を大きく変える事を俺はまだ知らない。

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