10――ドラゴンスロット

目覚めると、そこは湖畔の岸辺だった。

俺は地面に大の字で寝転がっている様な状態だ。

視線を横にずらすと、蟹がちょろちょろとうろついているのが見えた。


「…………」


体がだるい。

頭がぼーっとする。

何故俺はこんな所で寝ころんでいるのだろうか?


「…………あっ!」


暫くぼーっとしていると、ドラゴンの事を思い出し跳ね起きた。

疲労と軽い貧血の様な物で体が少しふら付くが、そんな事は気にしていられない。

俺は慌てて周囲を見渡す。


「……いない?」


巨大なドラゴンの姿は影も形も見当たらなかった。

どうやら、見逃して貰えたようだ。


ダークマターで生み出した物質を喰って、腹が満たされたと言う事だろうか?

だとしたら僥倖だとしか言いようがない。

ダークマターを合成したのは大正解だった様だ。


ふと、気絶する直前左手が輝いていた事を思い出し、俺は左手の甲の部分を確認する。


「これは……」


左手の甲には見た事のない、紅い紋様の様な物が刻まれていた。

円に六芒星、それに見た事のない文字の様な物が描かれた魔法陣を模った紋様だ。


「竜の祝福……ドラゴンスロット?」


紋様を目にした瞬間、頭の中にその情報が流れ込んできた。

人は生まれてくる際、女神の祝福マスタリースロットが与えられる。


これはそれと同系統の力……


但しマスタリースロットに比べその効果は半分ほどしか発揮できず、そのままなら只の劣化版でしかなかった。

だがドラゴンスロットには、マスタリースロットにはない力が秘められている。


それは瞬間最大出力ブーストと呼ばれる能力だ。

ドラゴンスロットに取り込んだ宝玉の力を極限まで引き出し、瞬間的に通常時を遥かに超える力を発揮させる効果を、このスロットは有していた。


「あのドラゴンがくれたのか?」


尋ねようにも、もうドラゴンはこの場に居ない。

だが力の名前や、状況的に考えて間違いないだろう。


ひょっとしたら湖に岩でも投げ込めばまた顔を出すかもしれないが、止めておく。

折角生き延びたのだ。

余計な刺激を与え殺されでもしたら溜まった物では無い。

兎に角、この場を離れるとしよう。


俺は警戒しつつ。

視線を水面から外さない様にゆっくりと後ずさり、湖から距離を離すよう動いた。

勢い良く動くとまた姿を現しそうで怖かったからだ。


ある程度距離が離れた所で振り返り、俺は急いでその場を離れた。


「はぁ……はぁ……しかし何だったんだあいつは?」


さっさと森を抜けて街に戻りたかったが、スキル連打の疲労が強く残っていたので早々に息が上がってしまい、俺は木に凭れ掛かった。


暫くその場にへたり込んで休んでいると、ガサガサっと遠くの茂みが動いた音――混合の宝玉の効果で聴力も1,8倍になっているため、少し離れた場所の小さな物音も聞き取れる――に気付く。


一瞬ドラゴンかと思ってビクッとしてしまったが、音は茂みを軽く揺らす程度の小さな物だ。

あんな巨体で動けば、そんな微かな音では済まないだろう。

そう思いほっと胸を撫でおろす。


そのまま休んでいようかとも思ったが、少し気になったので立ち上がり、俺は音を立てない様にゆっくりと物音のした方へと向かう。


「スライムか……」


茂みの中にスライムの姿を見つける。

しかも大量の。

数えると、10匹以上はいる様だった。


「何でこんな所で固まってるんだ?まあいい。取り敢えず狩っとくか」


さっさと森を抜けたい所だが……

まああれだけの巨体だ、近くに来れば音で分かるだろう。


そう思い、折角なのでクエストをこなしていく事にした。

俺はダークマターを小型の棘上にして生み出し、それをスライム達に浴びせかける。


「うぇ……気持ち悪」


スライムをダークマターで瞬殺した俺は、その体をダガーで切り裂き指を突っ込んで肝を取り出していく。

その際の感触がぐにゅぐにゅして物凄く気持ち悪かった。


「全部で12個。これで完了だな。しかし影も形も見えなかったのに、急に集団で出たな」


鳥の鳴き声が聞こえる。

さっきまでは他の生物の息吹を一切感じなかったのだが、ここにきて一気に湧き出てきた感じだ。

ひょっとしてあのドラゴンの影響だったのだろうか?


「まあいいや。もう用はないしさっさと帰るとしよう」


長居は無用。

さっさと戻ってクエストの清算と、あの竜の事をギルドに知らせるとする。

知らずに誰かが襲われでもしたら一大事だからな。


俺は重い体を引きずって森を抜け、街へと帰るのだった。

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