11――幻想種
「その話が本当なら、それは幻想種だろうな」
街に帰って来た俺は、その足で冒険者ギルドへと向かう。
そこで湖にいたドラゴンの報告をした所、ギルドマスターであるガイガー・カウンターの執務室へと通された。
カウンター横の扉を抜けた試験場。
その奥にあったギルド長が出て来た扉の先が、彼の執務室だ。
中には大きな机があり、周囲には本のぎっしり詰まった本棚が並んでいる。
厳つい見た目ではあるが、腐ってもギルドマスターだ。
どうやら本を読むぐらいの教養は備えているらしい。
「幻想種?ですか?」
「ああ、ドラゴンは2種類存在している。魔物と呼ばれる種と、幻想種と呼ばれる精霊に近しい種族だ」
精霊……ドラゴンの体が淡く光っていたのを思い出す。
それにあの羽根の様な耳。
確かに言われてみれば、精霊っぽく思えなくもない。
「魔物の方は強力な力で暴れるだけだが。幻想種の方は高い知能を持ち、不思議な力を持ち合わせていると言われている」
不思議な力。
それはきっとこの左手に宿ったドラゴンスロットの事だろう。
これについてはガイガーには話していない。
無いとは思うが、研究目的などで切り落とされないとも限らなからだ。
言わなくていい情報は黙っておくに限る。
「王都の近くの森に、そんな生き物がいたなんて……」
「スライムの森では無いだろうな。恐らく」
「へ?」
俺が出向いたのは間違いなくスライムの森だ。
道を間違って他の森へと向かった可能性は流石にない。
「スライムの森には、湖なんてないからな」
「え?でもドラゴンは確かに……」
「恐らく幻想種の特殊な力だろう。今までも数例の発見例があるが、全て本来とは異なる場所が報告されているからな」
「本来と異なる場所……ですか?」
言っている意味がよく分からなかった俺は、ギルドマスターの口にした言葉を疑問系で訪ねた。
「山の中の海だったり。砂漠の中の薔薇園だったりと、本来そこにはない場所に迷い込んで遭遇してるって事だ。後でその付近を調べても何の痕跡も見つかっていない事から、恐らくは幻想種の力で空間が捻じ曲げられているのではと考えられている」
「つまり俺が見た……いや、迷い込んだあの湖畔は別のどこかだったって事ですか?」
「ああ。幻想種とは言え、ドラゴンなんかがあんな場所に居たらとっくに大騒ぎになってるだろうからな」
言われて納得する。
王都から程近くにある森だ。
しかもスライム刈りで有名な場所で、相当な数の冒険者達が訪れている。
そんな所にあんな巨大生物がいたなら、とっくに報告されている事だろう。
あれが別の空間だったと言うなら、スライムやその他の生物がいなかったのも納得できる。
「それで?そのドラゴンとは何か喋ったりしたのか?」
「え?いや、別に?」
俺は咄嗟に嘘を吐く。
下手に話すと、ドラゴンスロットに追及が及びかねないからだ。
「ふーん、嘘くせぇな」
ガイガーは厳つい顔で口の端を歪めた。
何故か楽しそうだ。
「ま、別にいいさ。やばい隠し事をしてるのなら、そもそもここにドラゴンの報告自体しなかっただろうしな。野暮な追及は止めておいてやるよ」
「はぁ……どうも」
確信に近い疑惑を持っていそうな言い回しだが、どうやら見逃してくれる様だ。
長居しても仕方がないので、俺は曖昧に返事を返して執務室を後にした。
取り敢えずスロットも増えた事だし、宝玉店へ向かうとしよう。
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