4――変異合成

――――tips――――


宝玉にはレベルがある。

正確には宝玉自体にレベルがあるのではなく、共鳴による効果の上昇がそれにあたる。

同種の宝玉を複数個体内に取り込むと共鳴が起こり、最大5つまでその効果は上昇していくのだ。


通常宝玉による強化は10%と言われており。

これがレベルに2なると15%。

3なら20%と上がって行く。

最大レベルである5では、一つ当たり30%まで上昇する事になる。


しかもそれは、共鳴する宝玉全てに当てはまるのだ。


そのため、5つ同じ宝玉を取り込んだ場合、30%(レベル5)×5でその能力は150%増――つまり2,5倍まで能力が強化される事になる。

この事から、宝玉は可能な限り同種を取り込むのが基本となっていた。


―――――――――――


「おっも」


安宿にチェックイン。

ギシギシと軋む階段を上り、用意された部屋の扉を開ける。

中は薄汚い部屋で、粗末なベッドと机だけが備え付けられていた。


取り敢えず俺はベッドに、幸運の宝玉がパンパンに詰まった布袋を置く。

すると大量に入った宝玉の重さとベッドのボロさから、ギシギシと不快な音が室内に響いた。

チラリと壁を見ると、小さな羽虫が何匹も這い回っている。


「はぁ……」


ボロすぎ。

ちゃんと手入れをしているのだろうか?

そう思わずにはいられない程に、部屋は小汚い。


やはり一泊小銀貨2枚――約2000円――という価格に飛びついたのは、失敗だった様だ。


「まあ今晩は此処で我慢すしかないか」


選択ミスによる陰鬱な気分を振り払い、早速合成を始める事にする。

先ずは変異合成から。


これは10個の宝玉を合わせ、新たな宝玉を生み出す合成だ。

成功確率は3割程度。

失敗すれば消滅し、成功すればランダムで宝玉が生成され事になる。

出来る宝玉は大抵ステータス系であり、特殊系の宝玉が出来る可能性はかなり低い。


因みに、これらの知識は転生する際女神様からレクチャーを受けていた。

スキップせず――説明を端折る事も出来た――聞いておいてよかったと、心から思う。


「おっとっと」


袋を開くと、中身がパンパンだったため幸運の宝玉が派手に散らばってしまう。

俺は咄嗟にベッドから零れ落ちそうになった物を手で押し留めた。


ボロイこの宿の床には、所々隙間が開いているからな。

宝玉は小さい――1センチ程度の小石サイズ――ので、ベッドから落ちれば隙間に入り込んで無くしてしまいかねない。


「大した額じゃないけど、失くすともったいないからな」


俺は丁寧に幸運の宝玉をかき集め、その内十個を左手で掴み取った。


「取り敢えず……やってみるか」


左手を軽く握って、俺は合成スキルを発動させてみた。

握った手が熱を帯びる。

やがて指の隙間から虹色の輝きが漏れだし、手中にある宝玉の感触がどんどんと小さくなっていった。


「うっ……」


一際強い光が放たれ、俺は眩しさから目を細めた。

だがそれは一瞬の事だ。

直ぐに指から漏れる光が消え、掌には宝玉一つ分の感触だけが残る。


「成功……か?」


握っていた手を開くと、黒い宝玉が姿を現した。


宝玉には3色ある

ステータスの上がる基本石スタンダートは効果のいかんに関わらず、赤色だ。

そして特殊石マスタリーには、白と黒の二色が存在していた。


白は常時発動のパッシブ系を示し。

黒は任意発動のアクティブスキルを現す色である。


「おおおおおおおお!いきなり大当たりかよ!」


思わず興奮して声を上げる。

余程効果がゴミでない限り、この宝玉は軽く数年分の生活費に匹敵するはずだ。

俺は早速、低位の魔法を使って効果を鑑定してみた。


「ダークマター?」


なんぞ?

明かに闇属性っぽい名前ではあるが、名称からではそれがどういった効果のスキルかは判別がつかない。

効果を知るにはもっと高位の鑑定魔法が必要になるが、残念ながら俺は覚えてはいなかった。


「ま、後で使って試してみるか」


マスタリースロットに吸収した宝玉は、神殿で特殊な儀式を受ければ取り外す事が出来る。

但しかなり高額なお布施が必要とされる為、金持ちでもないと気軽に付け外しする事は難しい。


勿論俺は金持ちではない訳だが、有難い事に合成スキルには宝玉を付け外す能力も備わっていた。

お陰で金を気にせず、気軽に宝玉の効果を試す事が出来る。


「これが超大当たりで、白金化100枚――1枚1千万円程――とかになってくれれば遊んで暮らせるんだがなぁ」


まあ仮にこの宝玉にそれだけの価値があったとしても、今すぐに換金する事は難しい訳だが。


今の俺が店に持って行けば、まず間違いなく犯罪を疑われてしまうからだ。

王族だった頃なら兎も角、今の俺は一般市民でしかない。

しがない市民がいきなりお宝を店に持ち込めば、下手すりゃ嫌疑だけで牢獄行きになりかねないだろう。


何せここは日本ではなく、王族すら数が多ければ放逐する様な世界な訳だからな。


「はぁ……直ぐに換金できないのはもどかしいな」


能力を明かせば自分が生み出した物と証明はできるが、勿論そんな事をするつもりは更々ない。

だからこの宝玉に莫大な価値があったとしても、暫く寝かしておく他なかった。


それこそ冒険者として大成し、ある程度お宝を持っていてもおかしくない身分になるまでは。


「ま、取り敢えず続けるか」


俺は黒い宝玉をベッドの机の上に置き、再び変化合成の作業に戻る。

購入した幸運の宝玉は500個ちょっとなので、挑戦権は50回だ。


気分はソシャゲガチャ。

良いのが出ますように。


「こい!」


結果は――力1、体力1、混合9、幸運6。

これに基本石である聴覚に嗅覚の宝玉――聴覚・嗅覚は名が示す能力を強化する――が1個づつ。

ダークマターを加えると、全部で20回の成功という事になる。


半分近く混合なのはあれだが、確率が3割を上回っている上にマスタリーも手に入っているので、間違いなく大勝利と言っていいだろう。


欲を言うなら、速さも1個ぐらい欲しかった所ではある。


まあスロットが1つしかない俺にとって単品ではあまり意味がないのだが、ゆくゆくは10個集めてメインの宝玉にするのもありだと考えているので、早めに手に入る分には全然ウェルカムだ。


「んじゃ、次は強化合成をするとしよう」

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