3――宝玉
宝玉。
それは神秘の力が込められた祝福の力。
これをマスタリースロットに吸収――体内に取り込む――する事で、人は強力な力を得る事が出来た。
宝玉の種類は2系統あり。
ステータス系の上昇するタイプを
特定のスキルを宿らせる物を
前者は産出量が多く比較的安価なため、一般市民の日常生活に浸透しており。
後者は絶対数が少なく、希少な事から高額な値が付く事が多い。
――――――――
「品揃えが悪いな」
ショーケースに並ぶ宝玉を見て呟く。
此処は王都北部にある宝玉店だ。
王宮を追い出され俺は、真っすぐにこの場所へとやって来ていた。
俺のチート能力は、宝玉を強化するという物だ。
当然強化するには根本となる宝玉が必要となる。
それを手に入れる為、態々大きな店へと足を運んだのだが……
高級住宅街に門を構えている割に、やって来た店の品揃えはお粗末としか言い様がない酷い物だった。
他の店を周ろうかとも思ったが、流石に此処だけ品薄とは考え辛いので、恐らくどこも似たり寄ったりなのだろうと諦める。
「不景気になると高価な貴金属や宝玉が買い占められるっていうが、本当だったんだな」
シタイネン王国の景気は今、下向いている――だからこそ王子達の放逐があった。
景気が悪くなると貨幣の価値が下がってしまうため、金持ち連中は現金ではなく貴金属などの高価な物を資産としてため込もうとするそうだ。
その貴金属の中には、当然高価な宝玉も当然含まれる。
「まあある物で我慢するしかないな」
能力を上げる基本石で最も人気があるのは、速さの宝玉だ。
これは物理的な身体速度だけではなく、魔法の詠唱や頭の回転なども早くなる為、ありとあらゆる職種で有用とされている。
そのため大人気で、値段も他の種類より飛びぬけて高かった。
これに関してはまあ、価格の関係上最初から求めていないので別に売り切れていても問題ない。
俺が王宮を出立する際に用立てられた金額は、金貨2枚に小金貨4枚――日本円で240万円相当。
王都に住む一般家庭の生活費が一月小金貨2枚――20万円ぐらい――程と言われているので、約一年分ほどの生活費を渡された事になる。
それは決して少なくはない額だったが、とは言え、無駄遣いすればあっという間に吹き飛んでしまう程度の金額でしかない。
正直この程度の軍資金で、1個金貨1枚――100万ぐらい――はするであろう速さの宝玉に手を出すのは無謀である。
次に人気なのが力の宝玉だ。
筋力が上昇する効果を持ち、此方も多くの職業で活用できる優秀な効果を持っている。
お役所仕事や魔法を扱う職業には不要であるため速さの宝玉程万能ではないが、それでも力仕事系の多いこの世界においては、重宝される効果であるため大人気だった。
値段は速さの宝玉の5分の1程度。
小金貨2枚前後となっている。
これが一番のお目当てだったのだが、残念ながら売り切れている。
お陰でいきなり予定が狂ってしまった。
「となると体力の宝玉か……どうしよう」
一番二番人気の宝玉は売り切れてしまっていたが、三番人気の体力の宝玉はそこそこの数がショーケースに並んであった。
体力の宝玉はスタミナを上げる効果を持つ。
何をするにしても、スタミナという物は必要なものである。
だが有れば有るほど有効と言う訳でもないのと、その効果が前の2つに比べてどうしても地味であるため、人気と価格はかなり控えめだった。
お値段は大銀貨5枚――約5万円位だ。
「冒険者としてやっていくのに必須だから、メイン用に10個でもいいんだが」
俺は冒険者になるつもりでいた。
冒険者を選んだ理由は、まず第一にロマンがあるからだ。
その稼ぎはランクによって大きく変わるが、トップ層ならちょっとした貴族並みの稼ぎになる。
恐らく他でそれだけの稼ぎが見込めるのは、大商人くらいの物だろう。
序で、その仕事形態だ。
上から与えられた物をこなすのではなく、自分の意思で仕事を選べる自由度は凄く魅力的だった。
どこかに働きに出ると――開業でもしない限り――上の人間にこき使われ、ヘこへこしなければならないのが常だ。
そんな転生前の様な人生には……ぶっちゃけ戻りたくない。
以上の理由から、俺は冒険者になる事を決めている。
勿論、冒険者としてやっていける勝算があっての上での考えだ。
木っ端とはいえ王子だった俺は、王族として最低限の教育はちゃんと受けている。
その中には、初級の魔法や剣術等も含まれていた。
これにチート強化した宝玉の力が合わされば、冒険者として問題なくやっていける筈だ。
多分。
「でもこれ、あんまりイメージが良くないんだよなぁ」
俺は体力の宝玉の事をあまり良く思っていない。
理由は
父はマスタースロット6つ持ちだったが、その内5つを体力で埋めていた
何故父が5つも体力の宝玉を使っていたのか?
それは国王という激務に耐えるにはスタミナが必要とされる為――等という事は全く無い。
単にエロ目的だ。
333男の俺がいる時点で察して貰えるだろう。
「まあ5つにしとくか」
正直、大嫌いな父親と同じ物は余り使いたくはなかったが、冒険者として有用な物である事には違いない。
この際好き嫌いは置いておいて、サブで扱う事にする。
チート能力の宝玉合成にはメインとサブ枠があった。
ベースは10個。
サブは5個。
合計15個まで合成する事が出来る様になっている。
「サブは体力で良いとして、ベースは……まあ混合が無難か」
混合の宝玉。
これは全ての能力を引き上げてくれる宝玉だ。
但し効果は万能ではなく、凡庸的な物だった。
全ての能力が上がる代わりに、その上がり幅はかなり小さくなっている。
これの最大の魅力は安い事だろうか。
価格は銀貨5枚――5000円位――と、かなりリーズナブルである。
「効果もそこまで悪くはないしな」
上がり幅がかなり低いとはいえ、全部の能力が上がるので効果自体はそこまで酷い物でも無い。
その証拠に、金のない市民は取り敢えずこれを付けていたりする。
効果が本当にゴミなら、取り敢えずとはいえ一々付けたりはしないだろう。
じゃあ何でそんなに安いのかというと、産出量が馬鹿みたいに多いためだ。
何せ取れる総量の半分は混合と言われている程、その産出量は多い。
そのため混合は供給が需要を大きく上回り、低価格になっていた。
「他は……まあ別にいらないか」
魔力や集中力といった有用な宝玉もあるが、強化合成は2種類までしか組み合わせられない。
資金に余裕があるなら用途別に宝玉を合成しても良かったが、現状そこまでの余裕はないので今回はスルーしておく。
「後は変異合成用に幸運の宝玉だな」
尤も不人気で価格の安い宝玉。
それが幸運の宝玉だ。
効果が不透明で全く実感できないこの宝玉は、商人などが
そのため、ゴミの様な値段になっていた。
そのお値段、小銅貨10枚――100円相当。
菓子パンと同じ価格である。
「すいませーん!体力5個と混合10個。それに幸運をあるだけお願いします!」
手を上げて店員を呼び寄せ。
注文を通す。
「畏まりました」
その口調は丁寧だが、店員の表情は訝し気だ。
それもその筈。
通常、スロットは最大でも10個と言われている。
平均だと3-4個ぐらいだ。
体力と混合だけでその数は超えているうえに、
高額な物を買い漁るのならまだ分かるが、ゴミを買い占める俺は、店員にはさぞや不可解な人物に映っている事だろう。
「お買い上げ有難うございます」
俺は店員から宝玉を受け取り店を後にする。
さっさと宿を取って、そこで合成するとしよう。
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