第75話 新校舎
「ようし、着いたぞ。ここだ」
ルルードを小脇に抱えたまま、軽い足取りで目的地へと到着する。
里長様の家から、五分ほど歩いた場所に建てられた立派な建物――もうすぐ完成予定の、この里の学校だ。
「やあ、リーン。ちょっと部屋の中に入りたいんだけど、大丈夫か?」
「旦那? うん、そこならもう全部終わってるから別に構わないけど……今は子供たちとの授業中のはずだろ? ってか、そっちの子供は? 純血の子なんて、珍しいじゃないか」
「まあね。一足先にこの子に見せてあげようと思ってさ」
「ふうん。カオル先生なら別にいいけど、でも、あんまり汚さないように頼むよ。里でのお披露目はまだもうちょっと先の予定なんだからさ」
・リーン(ハーフエルフ) age:16
職業:大工見習い
得意属性:土
腕力:101
体力;98
魔力:7
精神力:10
器用さ:50
知力:21
運:20
(特殊能力) 精霊の加護LV0
内装を担当してくれている大工見習の少女であるリーンに一言断って、俺はルルードとともに教室の中へ。
ここに着いた時点ですでに地面に降ろしてあげているが、ルルードは俺から逃げ出すことなく、後ろをきちんとついてきてくれていた。
「すう……うん、やっぱりこの匂い、いいな」
加工したての木材と、ちょうど乾きたてぐらいのワニスの匂い。
俺の家を建てた時もそうだが、俺はこの何とも言えない独特の空気が嫌いではない。心機一転、何事も頑張っていかなければという気に自然と持って行ってくれるからだ。
教室にはすでに子供たちが使う予定の机や椅子、それから俺が使うための教卓に、さらに黒板も備え付けられていた。
黒板のほうはさすがに里での製造が難しいので、フォックスのギルドにお願いして買い付けてもらった。お金はかかったが、これは俺の希望でもあった。前の世界での『教室』をなるべく再現したかったのだ。もちろん、チョークもある。
「ルルード、そっちに座ってくれるか?」
「……」
ルルードを教卓から近い正面の前の机に座らせて、俺は檀上へ。
「さて、と……今から改めて俺のことを自己紹介したいと思うんだけど、その前にちょっとやらなきゃいけないことがあるか」
いったん手に持ったチョークを置いて、俺は闇の魔力を発生さえて、それを自らの体へと向けた。
「――
瞬間、俺の頭上に何重もの黒い輪っかが発生すると、それと同時に、体が異常に重くなるのを感じた。
・渋木薫 (※弱化によるステータス変化)
腕力:????→0
体力:????→0
魔力:????→0
精神力:????→0
器用さ:????→0
知力と運以外のステータスを一時的に下げる闇魔法だが、俺の元ステータスが不明なので少し強めにかけた。
「ちょっと弱化しすぎたか……でも、これならルルードにもちゃんと届くだろ? 俺の心の声」
検証の結果、精霊の囁きはステータス差が顕著になればなるほど精度が下がることがわかっている。なので、ルルードが俺の本心をきっちりと読めるようになるまで、弱化したわけだ。
まるで性質の悪い風邪になったように体が重くだるいが、どうせ一時的なものだし、これで少しは信用してくれれば安いものだ。
「ルルード、ここがウチの里の学校になるけど、どうだ? もちろん、正直に言ってくれて構わないぞ」
「……」
渡した紙とペンで、ルルードに感想を書いてもらう。
『ものすごくしょぼい』
正直な答えでよろしい。まあ、ルルードが本来通うはずの学校はエルフの国だけあって歴史も長いだろうし、規模も文字通り桁違いだから、そういう答えになるだろう。
「そう。今、ルルードが指摘してくれた通り、ここはまだ学校というには全然程遠い。子供たちは五人しかいないし、これから入ってくる子も三人しかいないからな」
先生も今のところは俺一人だけで、国立魔法学校のような蔵書や資料もたくさんある図書館や、研究施設など、色々なものが不足している。
「今の子供たちが大人になっても、できれば俺は、この里で『先生』を続けていきたいと思ってる。そのためには、ルルードみたいに、新しい子たちが来てくれないといけないんだ。とすると、数ある学校からウチを選んでくれるようにしなきゃいけないんだけど……ルルードはどうしたいいと思う?」
『そんなのわからない』
「そのためには、この学校のことを知ってもらって、なおかつ評判が良くないといけないんだ。そしてそれは、ここから卒業した子供たちが立派な大人になることでしか証明できないんだよ」
わかりやすいもの挙げるなら、元の世界でいう『進学実績・就職実績』になるだろうか。この世界で言い換えるなら、例えば、今の五人の全員、もしくは誰か一人でも、国家のエリートばかりが集まる騎士団や魔法師団だったり、世界でも名の知れた人物になったりなどがそれにあたる。
そういう実績を少しずつ積み重ねることで、初めて人が集まってくるのだ。
そしてそれは、俺一人が頑張っても出来ることではない。
「だから、もしよかったらルルードにも俺の夢に協力してほしいんだ。今はものすごくしょぼいし規模も小さいけど、いずれは他のところにも負けないぐらいのいい学校にしていけたらいいなと思ってる」
ルルードのようなハイエルフの子が入ることによって、そこからの繋がりが生まれる。そしてルルードがここで立派に元気に育ってくれれば、ルルードのご両親から、その知り合いへと評判が広がっていくだろう。
ルルード本人のことも気に入っているが、そういう打算もあってルルードのことを欲しいと俺は思った。
「もちろん今すぐに答えを出せとは言わないよ。でももし、ルルードが俺の夢に協力してくれるっていうお人よしだったら――その時は、俺も君のために頑張るから」
『いやだ』
「はは、そっか。でも、気が変わったらいつでも来てくれ。来年、君が来てくれることを期待してる。……以上が俺の自己紹介も兼ねたお話ってことで」
俺の心の声がどのように伝わったのか、それはルルードにしかわからない。欲望に塗れたオジサンか、はたまた無謀なことを言う世間知らずか、もしくはその両方。
どう思ったかの答えは、来年、エルフの国が暖かくなったころにわかる。
ルルードがどういう答えを出してくれるか、今から期待して待っておこう。
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