第74話 ささやき仲間
自己紹介がきっちり終わってから後で確認しようと思っていたのだが、以下が、今しがたわかったルルードのステータスである。
・ルルード(ハイエルフ) age:10
得意属性:光
腕力:0
体力:1
魔力:50
精神力:7
知力:26
器用さ:10
運:2
(特殊能力) 精霊の加護LV1 精霊の囁きLV1
魔力が高いのはやはり種族的のものあるだろうが、やはりジンの言う通り『囁き』を持っている。
ということは、さっきは二人は無言でやり取りしていたことになる。イメージとしては、こうビビッと、電波的な何かで通じ合う感じだろうか。
しかし、ジンが嘘を言っているとは思えないが、大人しそうな外見とは裏腹にかなり口が悪いようだ。
さっき自己紹介をしたとき、彼は極端に恥ずかしかっていたようだが……俺は実際はなんと言われていたのだろう。
気にならないと言えば嘘になるが、いくらジンがいて通訳できるとしても、ルルードの口が悪かろうが、心の中まで見ようとは思わない。
どうやらルルードの両親やエルネルさんも『囁き』のことは知らなかったようで、かなり驚いていたようだ。ハイエルフでも、この能力を持って産まれるのは珍しいようだ。
ということは、これまで学校に行かなかったのは、声が出せないと言うこと以外にも、囁きの能力も原因の大きな一つになっていたはずだ。
元々のハンデに+して、常にクラスメイトの心の声が流れ込んでくるのは、相当なストレスだったろう。
「なあ、ルルード」
「……!」
一度頭でも撫でて安心させようとしたものの、まだ俺のこと警戒しているのか、ルルードは俺の出した手を払ってしまった。
「おいお前……!」
「ジン、いいから。後、ルルードが何を思っているのかも通訳しなくていい」
「いいの? コイツ、先生のことも結構な言い草だぜ」
「最初はみんなそんなもんさ。ジンも俺と初めて会った時は警戒していたろ?」
「いや、アレは先生の格好が怪しすぎたからで……まあ、そうだけどさ」
初対面の人間を端から信用しろ、だなんて土台無理な話だ。しかもルルードはハイエルフだから、人間(多分)の俺やハーフエルフの子供たちとの種族的な壁みたいなものは間違いなく存在するわけで。
それを出来るだけ解消するには、コミュニケーションをとっていくしかない。
「ご両親、それにエルネルさん。少し、ルルードと二人きりでお話させてくれませんか?」
「え、ええ、それはもちろん構いませんが……あ、こら、どこ行くの!」
俺と一対一で話すのが嫌になったのか、両親にしがみついていたルルードがその場から逃げ出した。
しかし、ここはエルフの国ではなく、俺たちの住む里。大きな樹木の根によってあちこち凸凹があるので、運動不足ぎみのルルードはすぐさま足を取られて――
「…………!」
「――ったく、地元じゃないヤツがあぶねえのに走るから」
しかし、そこを受け止めたのは、ルルードが逃げた瞬間に追いかけたジンだった。
里長様の家の前で話していたのだが、ここは特に地面が凸凹なので、ここに居候をしているマルスたちフォックスの三人組でも、来た当初は足を取られていたのだ。そして、俺もたまにやる。
「……!」
「あ~もう、うっせうっせ。先生、確保したよ」
「ありがとう、ジン」
何も言わずにルルードを引き渡してもらって、ジンは他の四人がいる現在の野外教室へ。忘れ物の教科書を置いたまま行ってしまったが、まあ、これは後で持って行ってやることにしよう。
「……」
「大丈夫だって、別に悪いようにはしないからさ」
筆談であれば出来るということなので、俺はルルードを抱えてそのままある場所へ。
抵抗すると思ったが、さすがに観念したのか、ルルードは俺の腕の中で大人しくなって……いや、これはカチコチになっているというべきだろうか。かなり緊張している。
「君が俺のことを気に喰わないのはわかるよ。人間なんかに教えなんて乞いたくないっていう気持ちもね」
「!? ……」
「図星? まあ、顔にそう書いてるからね。ジンみたいに心を読まなくてもわかるよ、さすがに」
以前会ったハイエルフのユーリカが俺に対してそんな感じだったから、この年代の子供なら似たような考えにはなってしまうだろう。
ジンなどにも話したことだが、心の内では何を思っても自由だ。この後一生俺やジンのことを嫌ってもいいし、言葉や行動に表して迷惑をかけなければ信条を変える必要もない。
「今回の話、ルルードが俺なんかから教えを受けたくないっていうんだったら、もちろん拒否してもらって構わない。それがルルードの意思なら、俺からご両親やエルネルさんに伝えるよ」
「……」
ルルードからの反応はないが、体の緊張は少しずつほぐれて来ているようだ。なら、ちゃんと聞いてくれているはず。
「でももし、これからの俺の話で、ちょっとでも『ここで勉強してもいいかも』って思ってくれたなら、その時は……ってあれ? なんか俺のほうがいつの間にかルルードのことを欲しがっているみたいに……まあ、いいか。俺、結構君みたいなやつも好きだし」
そう言ってルルードに優しく笑いかけたのだが、ぷい、とそっぽを向かれてしまった。
なるほど、これは手強いかもしれない。
だが、それと同時にこの子のことをとても気に入った自分がいるのも事実だ。今の五人はみんな素直で嬉しいが、こういう生意気な子が一人いてもいい。
さて、どういう風にこの子の警戒を解くべきか。
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