第71話 制服づくり


 制服については、子供たちを迎え入れた時点で作ろうと思っていた。


 ただ服を仕立ててもらうだけならフォックスにもちゃんとした店があるが、性能面に関して、可能だと回答してくれたのがルククだけだったのだ。


 そういえば、器用さだけは謎にステータスが高かったような。


「あ、先生の分もローブは仕立てておきましたので、裾や袖が大きすぎる場合は言ってください。問題なければ、魔糸をつかって完成させますので」


 制服に関しては、どれだけ動き回っても破れにくいようにすることと、それから訓練中の怪我などをできるだけ防止するために、魔力のこもった糸をつかって、布に防御術式を縫い付けるのだ。


 予めルククには渡しているが、魔糸の素材は、もちろん俺の魔力。子供たちの属性がバラバラなので、それに合わせて必要分の糸を作るのは結構大変だった。


 まあ、その分品質に関しては胸を張っていいとおもう。それに『素材さえ用意してくれればお金はいらないですよ』とルククが格安で制服の製作を受けてくれたのも大きい。


 本人によると趣味の延長線上らしいので、俺たち以外からの依頼は受け付けないようだが……魔女の研究を引きつぐより、こっちのほうで仕事をした方がいいんじゃないだろうか。


 それぐらい、今来ているローブもかなり質がいい。なんというか、今着用しているものとは肌触りからして違うのだ。


「女子の制服デザインはもう少し議論が必要そうですので、先の男の子たちのほうを決めちゃいましょう。一応三つほどデザインは考えたのですが――」


「あいつらなんて適当でいいから、じゃあ、この三番目のやつで」


 ものすごいぞんざいに扱われたが、まあ、俺や男子組たちに関する服装への関心なんて、


 ・俺とジョルジュ→機能性重視。デザインは適当でも可


 ・ジンとマルス→そもそも着れればいい。どうせ汚れるし


 である。なので、全部お任せでいいだろう。ルククのセンスがいいのか、どれを選んでもわりと似合いそうだ。


 制服のほうは、男子も女子も、ブレザーのような服装を基本とし、上に羽織るフードローブの色は男子と俺が明るい緑、女子は濃い赤色となった。装飾については自由だが、依頼していた丈夫さを損ねない程度にとどめてもらう。なので、派手にするとしても、襟や袖、後はスカートの裾ぐらいまでだ。


「そういえば、ローブのほうもちゃんと考えないといけないね。基本は制服と合わせるわけだから……」


「スカートももうちょっと可愛い模様が欲しいよね。フリフリは……私はあんまり好きじゃないかも」


「え~? そうですかね? アリサちゃんもミルミちゃんも美人さんだから、私はもうちょっと冒険してもいいと思いますけど」


 ……の割には、まだまだ終わらない気配しかしないのだが。


 とりあえず、夕飯の準備でもしておくか。


 ※


「はい、時間切れ。二人とも、今日はもう家に帰るぞ」


「え~」


「え~、じゃないぞミルミ。俺がついてるとはいえ、あんまり遅くなると夜行性の魔獣がウロチョロしだすからな。あんまり里長様を心配させるな」


 夕飯を食べた後もああでもないこうでもないと議論が繰り広げられたわけだが、結局、女子の制服について最終的な結論はでなかった。


 制服については、今後もデザイン変更の余地はあるものの、それは次年度以降の話であって、アリサやミルミは、今回決定したものを着用するので、もう少し納得したうえで結論を出したいようだ。


「まあ、今日決まらなくても、まだまだ時間はたっぷりありますから。私ももう少しデザイン案を練り直してみますし」


「それはもちろんだけど……でも、それだとまたここに来なきゃいけないわね。先生、次ここに来れる予定はいつ?」


「う~ん……フォックスのギルドからお願いされてる仕事がいくつかあるから、数日……いや、もうしばらくは無理かな」


 バイモンのおかげで移動時間は短くなったが、それでもまとまった時間がないとルククのもとには行けない。


 転移魔法を使うことも考えたが、転移魔法は里や大きな街など、人が多く住んでいるところにしか適用されないというルールがあるらしく(※神の書情報)、例えば遠足で訪れた剣の岩やハシの泉だったり、螺子と茨の塔などの場所を指定できないのだ。


 制服はあくまで近いうちに、とルククにも言っていたので、ちゃんとした期限は設定していない。


 なので、また次来る時に決定すればと俺は思っていたのだが。


「……二人とも、出来れば明日もここに来たいって顔してるな」


「もちろん」


「わ、わたしも……その……すいません」


 服をこんな風に選ぶなんて里ではほとんどないから、子供たちも真剣である。


 だが、明日は授業の後は、フォックスで仕事で、帰りは夜遅くの予定だ。かといって二人で行かせるの論外だし……さて、どうしたものか。


「あっ! ……ねえ、先生、もしかしたら私、すごい名案を思い付いたかもしれないんだけど」


「名案か、とりあえず聞こう」


「うん。ルククさんも一緒に里に連れ帰っちゃって、そのままみんなと一緒に住めばいいのよ」


 ……それは、名案なのだろうか。

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