第69話  後輩たち


 必要な素材はあらかた揃ったので、後の建築は里の人たちにほぼお任せとなった。


 完成までは少し時間を要するとのことだが、里の集落ではもっとも大きな施設となるので、皆心なしか張り切っているように見える。


 拡張した土地のほうには、学校や訓練場のほか、集落で消費する分の作物を栽培する畑や、子供たちが自由に遊ぶための遊具なども建設する。


 小学校によくあったタイヤやバスケットゴール、鉄棒にブランコなど思い出すが、これは俺の意見ではなく、集落の人たちから出た意見だったりする。


「――それもこれもすべてはカオル先生が来てくれたおかげですよ」


 里長様の言葉だが、そう言っていれるのは嬉しい。周囲の環境もあってなかなか集落の開拓が思うように進まずにいたところに、旅人(という設定)でこの里に流れ着いた俺が一気に問題を解決させたことをきっかけに、フロンティアスピリットのようなものに火が付いたらしい。


 ここに来た当初は奇妙な若者扱いされていた俺だったが、里長様が気を遣って里の大人たちとの交流を増やしてくれたおかげで、今は里の人たちのほとんどが『先生』と呼んでくれるようになった。


 ……とても嬉しい。


 なので、もっと頑張ろうと思う。


 訓練場となる予定の更地に目を向けると、すでに子供たちが各々の魔法を好き放題ぶっ放していた。一応、迷惑のかからないように防護壁は張っているが、万が一のことも考えて、柵なども張ったほうがいいかもしれない。


「――ん?」


 と、色々考えていたところで、防護壁のすぐそば辺りに、二人……いや、三人の小さな子供たちが訓練場のほうを食い入るように見つめているのが目に入った。


「どうした? そんなところにいたら危ないぞ」


「「「!」」」


 俺に声をかけられると、三人はだーっと俺から逃げ出して、木材や石材の陰に隠れて遠巻きに俺の様子を見ている。


「……大丈夫だよ、怒ったりしないから。えっと、ビルフォード、レージャ、それにエマ」


「! 先生、ぼくたちの名前……」


「当たり前だろ。それに、君たちだって、いずれは俺が勉強を教えるんだから」


 幼いし、今は五人の手が離せないので教えていないが、一年、二年と経過して、教えるだけの余裕ができれば、この子供たちにも勉強を教えていくつもりだ。


 三人の内、一人だけの男の子がビルフォード。そしてレージャとエマの女の子二人だ。女の子二人はハーフエルフだが、ビルフォードはこの里には珍しい普通の人間。三人とも今は7歳だ。


「ビル、先生のとこいってみようよ」


「レージャ……で、でもちょっと怖いっていうか……」


「だいじょぶじゃん? ほら、エマもいっしょにいったげるから。あ、レージャはこなくていいよ」


「なんで? 私もいくし!」


「ちょっと二人とも喧嘩しないでよ……」


 引っ込み思案なビルフォードの背中を、レージャとエマ、女の子二人が一緒におしている感じだが……すでにビルフォードをめぐって取り合いが発生しているような。


 子どもたちの仲に首を突っ込むことはしない主義なので、今後も暖かく見守るだけなのだが……ビルフォード君、キミはこれから色々と苦労しそうだな。


「カオル先生、ちょっといいかな? ちょっとお話というか、お願いがあるんだけど」


 というところで、里長様が俺のことを呼ぶ。何か手に書類の束を持っているが……何かの相談だろうか?


 三人には安全なところで見学するように伝えて、すぐさま里長様のもとへ。ここではまだ出来ない話のようで、そのまま屋敷のほうへ移動することに。


「――ところで、話とは?」


「ええ、実は弟から話がありまして」


 里長様の弟、ということはエルネルさんか。


 ライルの一件以来、特にこれといった交流はなかったはずだが、ユーリカの件で何かあったとかだろうか。


「ああ、そんなに警戒しないでください。姪っ子も今のところは反省しているようですから」


 今のところは、か。


 俺としては一生大人しくしておいて欲しいのだが。何となく、彼女の性格的に今後も何かありそうな気がする。


「ところで、詳しいお話のことを訊いても?」


「ええ。……実は来年の春から、一人、先生のほうに子供を預けたいという依頼がありましてね」


「……なるほど」


 確かに、あまりオープンな場所では無理な話だな。

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