第68話 焼き芋
俺と里長様の二人による付きっきりの指導によってコツをつかんできたのか、今まで二回に一回ほどの成功率だった直径五センチの丸太の切り落としについては、ほぼ100%成功するようになっていた。安定した魔力強化をしつつ、しっかりと剣のほうも触れている。
ついノリで用意してしまった直径10センチのほうは、切り落とすのにはまだもう少し時間がかかりそうだ。とはいえ、一度の斬撃で四分の一ぐらいまでは刃が通っているので、いずれはこちらもできるようになるだろう。
素材の切り分けについては、ジョルジュの指導を合間に俺と里長様でやることにした。
俺は高威力の魔法だが、里長様はほぼ剣技のみだ。武器もジョルジュの使っている普通の鋼の剣なのだが。
「人や魔獣、硬い岩石……どれだけ丈夫に見えても、すべてものには必ず弱点があります。その弱点を視て、正確につけば、力はほぼ必要はありません」
里長様の言葉。ということは、丸太に限らず、装備などの破壊については、おそらく体術・剣術レベルや『心眼の極意』などの特殊能力の補正が、わりと大きいウェイトを占めているのかもしれない。
腕力や体力は体を鍛えるだけでもステータス値を上昇させることができるものの、今のところジョルジュはそれほど体格がいいわけではない。
もしジョルジュが剣士としてこの先やっていきたいと言うのであれば、基本は技の冴えで勝負し、足りない部分を強化魔法で補っていくスタイルのほうがよさそうだ。
「先生、見てください! これ、今までよりめちゃくちゃ上手に落とせましたよ!」
……ともあれ、それはまだ先の話しか。最近は本人も楽しそうに剣を振っているし、ひとまずはそれを見守る方向でいこう。
作業のほうは順調に進み、土地の拡張分の伐採は終わった。後は地面に深く根を張っている切り株を掘り返すだけだが、これはまた明日以降ということで。
「なあ、先生。ここらへんに積んでる木材の破片とかどうすんの? そのまま燃やして全部炭にしてほしいって、親父が言ってんだけどさ」
切り落とした黒壇樹は木炭としても優秀なので、すべてそうするつもりだ。
そのうち半分は里で使い、残りの半分はフォックスの街などで売る。売却して得たお金は、教室で使うことになる教科書やその他の設備に充てるつもりだ。
魔法書も欲しいが、そっちは別で当てがあるので、今のところは保留で。
「ああ、いいよ。でも、その前にちょっとやりたいことがあるから、こっちに集めてくれるか?」
他に燃え移ることがないよう、整地して綺麗になった場所に、黒壇樹の端材を集める。黒壇樹は普通の火では燃えないので、魔法による強力な火炎でじっくりと燃やしていくのだが。
「先生、お待たせ。言われた通り、先生の家にあった食糧用のイモ、全部もってきたけど」
「グオ」
赤い走竜にまたがったミルミとアリサが、イモの入った大きな麻袋を抱えて戻ってきた。
ちなみに今二人が乗っている赤い走竜、もちろん王都へ観光に赴いた際に俺たちを運んでくれたバイモンなのだが、結局、一緒にお持ち帰りすることになってしまった。
能力は高いのだが、気性がとても荒く、気分によっては積み荷や人を振り落としてしまうことが多々あったそうなので、管理していた側も少し困っていたという。なので、比較的安価で買い取らせてもらって、今は俺の家でライルと仲良く……いや、この前ライルに向かって炎のブレスを吐いていたから仲良くはないのか……まあ、ともかく賑やかに暮らしている。
俺にも子供たちにも懐いているし、今のところ問題行動はない。
「ジョルジュ、これからちょっと高度な強化魔法を見せるから。ほら、もっと近くに」
「はい。……でも、先生、これから何をやるつもりなんですか?」
「うん? せっかく燃やすんだから、ついでに焼き芋でもやろうと思って」
「焼き芋?」
「ああ。落ち葉とかを集めて、その中にイモを放り込んで焼いて蒸すんだ。俺のいた田舎ではよくやってた。バターとかと一緒につけて食べると美味しいんだ」
普通はアルミホイルなどで包むのだが、この世界にはそれがないので、強化魔法を使う。
水属性、土属性の魔力を付与し、耐熱効果を上げた布でイモをくるんで、焚火の中に放り込む。効果のほどはぶっつけ本番だが、うまくいけばきちんと焼き芋になってくれるはずだ。
「今は単純な性能強化のみだけど、こうして属性付与をすれば、出来ることの幅がまた広くなる。第二属性、第三属性……そうだな、できれば四つぐらいは別の属性が使えるようになってほしいかな」
「よ、四つ……できますかね」
「できるよ。ジョルジュは才能があるからな。俺が保証する」
「そ、そうですかね……まあ、先生がそう言ってくれるなら頑張りますけど」
少なくとも俺はそう信じている。人だろうがエルフだろうが魔獣だろうが、どんな子供にも、無限の可能性があるのだ。
「お、そろそろイモがいい感じになったみたいだな。今日は頑張ったお礼に、ジョルジュには一番デカいやつをバターたっぷりでプレゼントしよう」
「え~、先生ジョルジュだけひいきし過ぎじゃない?」
「俺たち、俺たちのも~!」
他の子供たちのブーイングが聞こえるなか、俺はジョルジュと一緒に一番大きく、甘そうなイモを二人で分けてかぶりついた。
中までしっかり火の通ったイモのねっとりとした甘さと、バターの程よい塩気が調和して、イモの持っている甘みがさらに引き立てられて、口の中に広がっていく。
品種的にはサツマイモに似ていたので栽培していたのだが……うん、これはうまい。皮の色は灰色で外見はまるで石のようだが、割った瞬間に、美味しそうな黄金色の中身と甘い匂いが姿を現すのだ。
「どうだ、ジョルジュ。美味いだろ?」
「はい……めちゃくちゃ」
普段は真面目でしっかりしているジョルジュも、この時ばかりは、年相応の可愛らしい笑顔だった。
ちなみに用意したイモは里の皆によってあっという間に食べつくされてしまった。今度は少し多めに育ててみるか。
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