第67話 伐採と特訓
魔法学校への見学と王都への観光を終えた俺と子供たちは、里に帰って早速自分たちの教室づくりを始めることになった。
魔法学校の見学はそこまでできなかったし、子供たちに嫌な思いもさせたが、そのおかげで子供たちの仲も深まった気がするし、勉強にもより一層励むようになったので結果オーライだ。
子供たちの教室は、里の領地を拡張し、そこに建設することに決まった。子供たちの教室とそれから魔法を訓練するための広場を作るため、それなりに整地は大変だが、そこは俺が頑張る。
……と思ったが、予想外に伐採する量が多く、たまに里長様やその他の若い人たちにも付き合ってもらった。これからも使っていく施設になるので、里総出でやってくれるらしい。本当にありがたいことだ。
「さて、あとは必要な長さと太さに材料を切り分けていくんだけど……ジョルジュ」
「はい」
「今回の仕事はお前がメインだ。一緒に頑張ろうな」
「ですね。僕だって頑張ってるってとこ、みんなに見せないといけませんから」
大まかに切り分けるのは俺の仕事だが、細かい長さや太さの調整については、ジョルジュにやってもらうように決めている。
そこらの金属よりもよほど頑丈だと言われている里の樹木を切れるのは、子供たちの中では、無属性魔法を得意とするジョルジュのみである。
・ジョルジュ(ヒューマン) age:12 (※前回確認分より更新)
職業:渋木薫の生徒 剣士見習い
得意属性:無
腕力:10→56(+46)
体力:10→68(+58)
魔力:5→31(+26)
精神力:15→34(+19)
器用さ:15→70(+55)
知力:7→40(+33)
運:3→3(+0)
※(特殊技能)体術センスLV0→LV3 剣術LV1(※新規)
里長様からじっくり鍛えられたおかげで、実は子供たちの中で一番腕っぷしが強くなっている。武器については色々試していたようだが、やはり剣を選んだようだ。
たまに授業中の合間に素振りなどをしていたが、随分と様になっている。
剣術の師匠は、もちろん、昔、エルフの国でも有名な剣の使い手としてならしていたという里長様。やるからには全ての技術を彼に伝授すると言っていたので、いずれは凄い剣士にしてくれるだろう。
なので、俺のほうもジョルジュの魔法の先生として頑張らなければ。
「先生、準備できました」
「うん。じゃあ、まずはこの細い丸太を半分にカットするところからだ。はじめに、まず今持っている剣で切り落とせるかどうかやってみてくれ」
「はい。それじゃあ…………はっ――!」
掛け声とともにジョルジュが鋼の剣を振り下ろす。いつも見ている綺麗なフォームからの斬撃だが。
――ガンッ!
という音とともに、剣がいとも簡単に弾かれてしまった。
木材のほうは……表皮にわずかに傷がついただけで、中にはまったく通っていない。
「いっっっ、た~……なんだこれ、めちゃくちゃ硬い……」
ジョルジュも手がかなり痺れたようで、痛がっている。まあ、最初はこんなものだろう。
魔法で伐採する方法はいくつかあるが、どの属性の場合でも俺は本気を出している。高密度の光線や、風の刃、ウォーターカッターなど、種類はいくつかあるが、どれもかなりの魔力を込めている。
里長様ならこのぐらいのサイズなら剣技のみで容易く真っ二つなのだが、それは長年の修行によって編み出したものなので、ジョルジュがそれを身に着けるにはまだまだ時間がかかる。
ということで、魔法の出番である。
「ジョルジュ、これから剣の切れ味の強化をしてみよう。まず、自分の魔力を体にまとわせて、そこからそれを剣のほうに移していくイメージだ」
「はい」
すう、とジョルジュが精神を集中させる。
・ジョルジュ(※強化による変動)
腕力:56→84(+28)
ステータスの変化が起こる。
で、今回はこの上昇数値分を剣のほうにまず移動させる。
・鋼の剣
耐久度;30
切れ味:17
・丸太(黒壇樹、直径5センチ)
耐久度:50
武器や素材のステータスはこんな感じだ。
神の書によると、たとえば丸太を切り落とす場合は、武器の切れ味や技のレベル、特殊技能による補正、強化魔法の有無等を総合的に計算し、その数値が最終的に対象のもつ耐久力を超えた場合に、切り落とせるかどうかの判定がされているようだ。
なんだかゲームでも見ているような気分になってくるが……とにかく今回は武器の切れ味を上げればいいということだ。
現状強化によって切れ味は17+28=45まで上げられるので、後はステータスや剣術LVなどを加味した数値で越えられるかどうか。
「先生……どうですか?」
「……まだ少し体側に魔力が残ってる。頭の先からつま先まで、全部の魔力を絞り出すつもりで、剣側に押し出すんだ。慌てなくていい」
「はい。……んっ――!」
武具の強化については、マルスの土魔法のゴーレムと同様で、やはり慣れていないと、魔力操作にかなりの集中力を要する。
43、44、45……強化がしっかり完了できたところで、
「よし、今!」
「たあっ……!」
ジョルジュの魔力による強化によって輝きが増した鋼の剣が表皮に触れた瞬間。
――スコンッ!
「お」
「やっ……!」
薪を割る時のような高い音が響いたと同時、丸太が綺麗に真っ二つにされて、地面へど落ちる。どうやら判定のほうは上手くいったようだ。
「切断面も真っすぐで綺麗……うん、完璧だな。偉いぞ」
剣の師匠である里長様も納得している。このサイズであれば、カットは問題なさそうだ。
「やった……ありがとうございます!」
遠くで様子を眺めていた四人からも『おー』と歓声が上がり、ジョルジュも照れ臭そうにしている。
ジョルジュに関しては言えば、いつもの勉強と魔法のほか、里長様との修行と人一倍努力を重ねていたので、こうして成長を実感させることができたのは俺としても嬉しい。
「よーし、それじゃあ張り切って次は直径10センチ、いってみようか!」
「え――」
俺のにこやかな顔とともにドスン、と置かれた第二の試練であるそれまでとは倍の直系十センチ丸太が、ジョルジュの顔が硬直させる。
「直径が倍だけど、さっきのと較べると耐久度は三倍以上になるからな。今回の作業で、基本的な強化は全部覚えてもらうつもりだからそのつもりで」
「せ、先生の悪魔ぁ……」
ジョルジュが恨めしそうな視線を俺に向けるが、ビシバシ鍛えてやってくださいと里長様直々にお願いされているので、心苦しいが俺も心を鬼にしなければ。
いやあ、才能ある子供たちをしごくのは本当につらいなあ。
先生なんか楽しんでない? という四人のひそひそ話は、とりあえず聞かなかったことにする。
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