第65話 謝罪と仕返し 2
子供たちの話を聞くのとは、別に、俺は他の目撃者がいないかどうか探していた。
こちら側とあちら側の言い分が微妙に食い違ったままなので、なんとか詳細を知っている人はいないかと考えたとき、
『ライルが人間の言葉を喋れたら、証言してくれるかもしれないのにね』
『だよな。俺たちのそばにいたし、もしかしたらばっちり見てたかも』
子供たちがそんなことを話しているのを耳にして、ピンと来たのだ。
従魔は、空を飛んで手早く手紙を届ける伝書鳥や、荷物や人員を大量に運搬する走竜など、人間たちには難しい仕事を担当してくれている。中には、小さな虫やゴキブリなどを使って、国の内部機密情報などを盗んでくるなど、それを専門にしている魔法使いもいるほどだ。
ということは、もしライルが当時の状況を見ていて、その映像をどうにかして写し出すことが出来るとすれば。
そう言う時こそ、神の書の出番である。
※※
「な……なんでお前のような田舎者がその技術を使える……従魔を介した千里眼の術に、その記憶の投影……それは専門の魔法師しか扱えない、私にもできない高等技術だぞ」
ロメル氏が驚愕の表情を浮かべているのが答えだが、結果的にその魔法は存在し、そして映像の投影は成功した。
俺の従魔(一応)であるライルの意識を千里眼の術を使ってジャックし、そこから当時の記憶を探し出した上で、その映像をさらに投影させるという技術の合わせ技。
当時の記憶なので、映像が鮮明かどうかは従魔の記憶力次第だが、幸いライルビットは魔獣の中でも賢い部類に入るため、鮮明な映像を手に入れることができた。
「エイナ先生、ちなみにですが、これは証拠しては認められますか?」
「え……あ、ああ、はい。もちろんです。記憶の投影という性質上、でっち上げはほぼ不可能ですから」
ライルの視点から見た記録では、ばっちりアリサが突き飛ばされた場面がしっかり映っていたのだが、アリサは突き飛ばされる直前、彼らのほうを向いてすらいなかった。アリサが彼らを見たのは、その後。
というわけで彼らの証言はこれにより嘘ということになる。
角度がどう、という言い訳もできない。
さらに言えば、アリサを突き飛ばす寸前の生徒たちは怖がってなど、おらず、逆にひそひそと話しながら笑みさえ浮かべていた。
これはあくまで個人的な印象でしかないが、まるでアリサの容貌を見てちょっかいをかけようという気満々だったように見受けられる。
「……これが証拠ですが、これでもまだフェイ君たちが悪くないとおっしゃいますか?」
「せ、先生……」
もう言い逃れできる状況ではない。フェイ君もあきらめたようにロメル氏を見る。
「っ……まさかたかが生徒同士の小競り合いにこんなものを持ち出してくるとは」
「――たかが、ですか?」
その言葉は聞き捨てならなかった。
少し頭に血が昇ったが、ここは冷静に、冷静――。
「こっちは何の罪もないアリサを一方的に悪者にされるところだったんだぞ。それをお前たちはたかが、というのか?」
「っ……」
「言ってみろ! どうなんだ!」
「うぐっ……!」
――と思ったが、つい言葉が強くなってしまった。
だが、どうしても熱くなってしまう。こんな嘘で、ウチの生徒たちを貶めようとしたのは、どうにも許すことができない。
「お前たちが俺たちに対してどういう感情を抱いているかなんて知らんし、どうでもいい。田舎者でも結構。だがな、だからと言って、全てが全て、お前たちの思い通りになると思うなよ」
言い終わった後、教室内にしばらく沈黙が流れる。生徒たちとロメル氏は俺の迫力に完全に委縮してしまったようだ。
「ガスリー主任、フェイ君とともに謝罪を。ジン君の件はともかく、アリサちゃんに関してはどう考えてもあなた方が悪い」
「カミカンデ……くぬっ」
さすがにこれ以上見苦しく抵抗はできないだろう。ロメル氏はあきらめたように生徒たちを並ばせ、一斉に頭を下げた。
「度重なる無礼、大変申し訳なかった……生徒を信用したいがために証言を鵜呑みにした自分を恥じる。今後は生徒たちへの指導も十分気を付けるので、今回はこれで許していただきたい……フェイ、お前たちもだ」
「……すいませんでした」
反省の色はそこまで見えないが、今はこれで良しとするしかないだろう。
「ということだが、アリサ、どうする? 許してあげるか?」
俺の問いに、アリサはこくんと頷いた。
俺が声を荒らげたせいで、少し泣いてしまっている。彼女には悪いことをしてしまった。もう大丈夫だから、と俺は彼女の頭を優しく撫でた。
「ということですので、私たちはこれで。エイナ先生、今日のところはもう帰ります」
「それは構いませんが、案内のほうは……」
「今度は私一人で伺いますので、続きはその時にでも。皆もそれでいいな?」
子供たちが頷いた。まあ、アリサが泣いてしまっているので、落ち着いたところで休ませてあげたいというが一番だが。
「というか、先生が泣かしたんだから、アリサにちゃんと謝っておきなさいよ」
「ミルミ……わかってるって」
とりあえず甘いものでもご馳走してあげるか。里やフォックスの街ではお目にかかれない店が沢山あるので、お金が気になるが、たらふく食べさせてあげよう。
「では、皆さんお騒がせしました。私たちはこれで」
「…………、」
俺たちが教室から出て行こうとした瞬間、誰かの口から『覚えておけよ』という呟きが聞こえてきた。
フェイ君か、その他の生徒か……誰が言ったかはわからないが、それはこちらのセリフだ。
そちらこそ覚えておけ。今度会う時には、この五人が君たちの度肝を抜いてやることを約束してやる。
「さあて……みんな、俺たちの学校に帰ろうか」
「「「「「うん!」」」」」
今日自分がやったことが果たして正しかったかはわからないが……まあ、子供たちがみんな笑顔なので、結果オーライということにしておこう。
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