第64話 謝罪と仕返し 1
「失礼します」
エイナさんに続いて中に入ると今回の当事者の四人と、それから担当の教官の男が待ち受けていた。
「ふん、貴様たちがそうか」
俺たちを見て、エイナさんと同じデザインの魔法衣を着た中年の男が鼻を鳴らす。
魔法教師、というわりにはかなり体格がいい。下手すれば、表にいた門番の騎士よりも大きいかもしれない。
あと、態度のほうもデカそうだ。
どことなく前職場にいた体育教師を思い出した。
「この度は私の生徒が申し訳ありませんでした。私はカオルと申しまして、ハーフエルフの里で子供たちに勉強を教えています」
「ロメル=ガスリー。初級学級の主任教員で、このクラスの担任をしている」
・ロメル=ガスリー age:40
職業:魔法学校教員
得意属性:無 第二属性:炎
腕力:243
体力:315
魔力:359
精神力:175
器用さ:87
知力:61
運;12
(特殊能力) 高速詠唱LV4 体術センスLV5
体格通りのステータスと属性というところか。人間的には仲良くなれそうにないが、データ的には参考にしたいところ。
「まずは一昨日の件で生徒に謝らせてください。……ジン」
「うん」
俺の後ろに控えさせていたジンを俺の隣に来させ、一緒に頭を下げた。
「……この度は、僕の勘違いで怪我を負わせてしまいました。すいませんでした」
ジンが言うと同時、他の子たちも同様に頭をさげて謝罪の意を表した。止められなかった自分たちも悪いから、一緒に謝りたいと子供たちが言ってきたのだ。
「素直に自らの非を認めたんだね。正直に言ってくれて、僕は嬉しいよ」
生徒四人のうちの一人が口元をにやりとさせてそう言った。一昨日『自分たちは悪くない』と主張していたリーダー格の少年。
その言葉を聞いたジンが唇を噛んで顔をゆがめている。ジンの『精霊の囁き』は、加護者の身を守るという能力の性質上、善意よりも悪意のほうをより敏感にキャッチするよう出来ている。
おそらく、今の言葉の裏にも相当な悪口が混じっていたか。
「フェイ君。偉そうなことを言っていますが、あなたたちもですよ。ジン君が怒ったのは、元はと言えば、アナタたちがアリサさんを突き飛ばしたのが原因なんですよ」
前日にエイナさんと打ち合わせをしたときは、互いに謝罪させてそれで今回は手打ちにしましょうということになっていた。
それについてはロメル氏にもエイナさんから伝えてもらっているはずだが――。
「え? 何を言っているんですかエイナ先生? 僕たちが謝るなんて……なぜ何も悪くない僕たちがそんなことをしなければならないんでしょう?」
「は――?」
しかし、フェイ君から返ってきたのは予想外の言葉だった。
「悪くないって……一昨日に聞き取りをしたときは突き飛ばしたことを認めましたよね?」
「確かに僕たちはアリサさんを突き飛ばしました。目撃者もいましたし、それは事実です。ではなぜ僕たちがそんなことをしたか? それは、彼女が原因だからです」
「っ……ん、だとぉ……!」
「よせ、ジン」
「だって……」
「今は俺とエイナさんに任せるんだ。……みんな、ジンを頼む」
今にもつかみかかりそうなジンを四人で抑えてもらって、後ろに下がらせる。
しかし、ここにきて証言を、
『先に突き飛ばしました』
↓
『先に突き飛ばしたは認めるが、それは彼女に原因がある』とするとは。どこかの安いドラマの裁判シーンでも見ているような気分だ。
まだジンたちと同い年だというのに……元が賢いのもあるだろうが、よくもまあ次々言い訳が出てくるものだ。
「フェイ君、といったかな。それはいったいどういうことだろう?」
「カオル先生、でしたね? 僕たちが彼女たちの隣を横切った時のことです。僕たちはそのまま彼ら五人のすぐ隣を通り抜けるつもりでしたが、その時に、アリサさんが僕たちの仲間一人を睨みつけてきたのです。彼女のようなハーフエルフを見るのは僕も仲間も初めてのことですから、何かされるのではと思ってしまった」
「それで、とっさに突き飛ばしてしまった、と」
「そういうことです。正当防衛、とでも言えばいいでしょうか」
なるほど。そこまでして自分たちの非をなるべく認めたくないということか。
「アリサ、彼らはこう言っているけど」
「そんなこと……ただ近くに来たのには気づきましたけど、そんな顔をしたかどうかなんて……」
「したんですよ、だから僕の仲間が怖がってしまった。そうだよな?」
「へっ、ああ。今にも首筋を噛みちぎられそうだったよ」
アリサを突き飛ばした子が、リーダー格の少年からの質問に頷いた。
アリサに限ってそんなことはないはずだが……こうなるとまたやったやってないで不毛な議論になってしまう。
……本来なら。
「……ということだ。優秀なフェイがこの程度のことで嘘など言うとは思えんから、私は担任としてこの子たちを信用する。ということで、私が生徒たちに代わって謝罪することはない。私たちが謝罪に足るべき証拠があるわけでもなし」
「……では、私たちのほうが全面的に悪いと、この場で正式におっしゃるのですね?」
「ああ。まあ、今回は君たちの謝罪を受け入れるから、以後、余計な勘違いをされぬよう、せいぜい気を付けることだ。田舎者らしく、な」
ふん、と俺や子供たちのことを一瞥してから、ロメル氏が生徒たちを引き連れて教室から去ろうする。
なるほど、エイナ先生が舌打ちしたくなる気持ちがわかる。
「――ちょっと待ってください」
「あ?」
「まだこちらの話は終わっていないんですよ」
だが、このまま引き下がる俺ではない。
ジンが殴ったのはともかく、アリサまで悪者扱いされたまま終わらせてはいけないだろう。
「フェイ君、さっき君はアリサが君たちのことを睨んだ、と言っていたね? その言葉に間違いはないと誓えるかな?」
「ええ。というか、何度も言わせないでくださいよ。そんなに僕たちを悪者にしたいんですか? 証拠もないくせに、変な言いがかりを――」
「――証拠があれば、今までの嘘を認めて謝罪するんだね?」
「っ……」
フェイ君の視線が一瞬、ロメル氏の方へ向く。
なるほど、やはりそういうことか。
「おいお前、そろそろいい加減にしろよ。この期に及んで私の生徒に根拠のない言いがかりをつけるのなら、いくらカミカンデの客であろうと――」
「ありますよ、根拠なら」
「なに――?」
ありえない、と思っているだろう。これまでの聞き取りでは、証人は門番の騎士二人しかおらず、その人たちも生徒たちがアリサを突き飛ばしたこと以外はわからないと言っていたのだから。
だが、実は証人はまだいたのだ。
しかも、子供たちのそばで、その様子をばっちりと記憶に納めている子が。
「――ライル、寝てるとこすまんが、ちょっと起きてくれ」
「……ナ」
「! ライルビット――カオル先生、まさか」
俺の鞄からぬっと顔を出したライルを見て、エイナさんは気づいたようだ。
ジンの能力の件は解決したので、相手側も謝罪してくれればこの証拠を出すつもりはなかったが、アリサの名誉のため、徹底的に追及することにしよう。
「では、ご希望の通り、証拠をお見せしましょうか。私の従魔であるライルが見ていたあの日の一部始終を」
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