第63話 魔法学校内部へ


 そして翌々日。


 エイナさんの案内のもと、俺と子供たちはお客さんとして魔法学校内部へ入ることになった。里長様は体調が少し優れないということで宿でお休みなので、計6人。


「よう坊主」


「もう悪さするなよ」


「う……わ、わかってるよっ! あーもう、バシバシ叩くのやめろって!」


 門を通る際、警備をしていた騎士の人にジンが声をかけられていた。この人たちが状況を見ていてくれたおかけで、ジンが完全に悪者扱いされずに済んだのだ。


「あの人たちは正規の騎士ではなく傭兵なので、わりと話せる人たちですよ。仲良くなって損はないと思います」


「なるほど、それでジンが嫌がってないわけか」


 ジンと一緒に頭を下げて集団に戻ると、エイナさんがこっそり耳打ちしてくれた。


 敵ばかりと思っていたが、どうやらエイナさん同様話せる人もいるようだ。そういう人たちとは仲良くしておきたい。


 厳重そうな守りの門をくぐり、校舎の中へ入ると、これまでの街並みとはまた違った風景が俺たちを出迎えた。


「中央玄関兼図書館ってところですかね。国で出版されている書物は大体ここの棚に入ってます。魔法書のほうはまた別の場所で保管されていますが、学問書については読んでもらって問題ないですし、学生であれば貸し出すことも可能です。娯楽小説なんかもありますよ」


 まず目に映ったのは、ものすごく高い天井の図書館だった。中央は吹き抜けになっていて、本棚は建物の壁に埋め込まれているかのようにびっしりと整理されている。


 階層ごとに学問書や図鑑、その他の書物などに分かれていて、今も制服をきた生徒たちが目的の本を探したり、またはフロアにある椅子やソファに腰かけて、勉強に読書にと勤しんでいた。


「受付のほうに話は通してますので、どうぞ」


 本の貸し出しと入館者の手続きは兼任なようで、エイナさんと一言二言交わした後、生徒たちのいる校舎へと続く扉を開けてくれた。


「……受付のかた、かなり顔色が悪かったですね」


 わかりますか? という顔でエイナさんが肩を落とした。


「……私の同期なのですが、最近職員の削減で受付の仕事と司書の仕事を兼任しなければならなくなったんですよ。全部一人でやらされているので、ちょっと気の毒で」


 国立だし、施設をぱっと見た感じは華やかなイメージもあったが……中で働くひとたちは色々と大変そうだ。


 コストカット、人員削減、過重労働――なんだか妙に親近感を覚える話題である。


 まあ、俺の過去はどうでもいいとして、とにかくまずはやるべきことを果たそう。


「ジン、多分、心の声は入ってくると思うけど、こらえろよ。大丈夫、ぐっと待ってればかならずやり返す機会はくるから」


「……ん」


「もちろん、他のみんなもな」


 ぐっと顔を引き締めて、子供たちは頷いた。


 ミルミとの模擬戦闘のあと、結局ジンはすぐに他の三人にも能力のことを打ち明けた。


 反応のほうは、アリサがかなりびっくりしていたものの、マルスやジョルジュは、ミルミと同じで同情してくれたようで、ジンも安心していた。


 そして、俺がとくによかったと思ったのは、『逆にどれくらい離れれば心の声が聞こえなくなるのか』、『悪口のほうが伝わりやすいのかどうか』など、子供たちで勝手に遊びも兼ねた能力の検証を始めたこと。


 発案者は意外にもマルスだった。


 子供たちの仲についてはわりと放任主義だった俺だが、仲の良さに多少の差はあれど、ちゃんと五人ともしっかりとした絆で結ばれているようで何よりだ。


 この子たちは、何があっても必ずいい大人になってくれる――子供たちが遊ぶ光景を見て、俺はそう確信した。


「ここが件の学生たちの教室になります。……ガスリー先生、一昨日の子供たちをお連れしました」


「――カミカンデか、入れ」


「……では」


 ドアを開ける音と同時、ちっ、というエイナさんの舌打ちが混じるのを俺は聞き逃さなかった。


 エイナさんの話によれば、初級クラスの主任をしている先生で立場的にはエイナさんと同等のはず……まあ、キャリアの違いなどはあるだろうから、先輩後輩という関係なのだろうが。


 その反応だけで、これから先の展開がなんとなく予想できてしまう俺だった。

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