第59話 橋の上にて


 ※


 話は少しさかのぼって、ジンとアリサから事情を聴くために部屋に招いた時。


「ちょうど俺たちが先生からちょっと離れて橋の下を見てたときだよ。向こうから来たアイツらがアリサのことを弾き飛ばしたんだ。ぶつかったんじゃなくて、ちょうど体が重なった瞬間に、手で明らかに押してたんだ」


「アリサ、それは間違いないんだな?」


「あ、はい。ぶつかった瞬間に、思いっきり……」


 いくらアリサとはいえ、多少体がぶつかったぐらいでは尻餅をつくほどひ弱ではない。


 あのリーダー格の少年は自分たちに非はないと言っていたが、多少の悪意はあったということだ。


「もちろん、その時点で先生に言えばよかったって俺も反省はしてるよ。でも、どうしてもアイツらの言葉で頭に血が昇っちゃって」


「……なんて言ったんだ?」


「――追放者の子どもとか、半端ものとか……あとは、け――」


「なるほど、わかった。ごめんな、嫌なこと思い出させて」


 この世界では、妖精族でもあるエルフは、表向き(あくまで)にはほとんど他種族と交流していないから、双方ともに偏見の目があるのだろう。


 後から俺も知ったのだが、ハーフエルフとエルフは外見的に見れば、わりと判別はしやすい。まず髪や瞳の色だが、エルフの場合はほぼ綺麗な金髪が銀髪、瞳が青か緑に対して、ハーフエルフの場合は赤や青、茶など色が様々なのと、後は耳の長さが明らかにエルフの方が長い。


 里長様は他に気を遣ってぱっと見わからないような変装をしていたが……ジンたちにもそうすべきだったろうか。いや、それだとジンやアリサが他の子たちに引け目を感じるようになってしまうかも……わりと難しい問題だ。


 まあ、今はその点はいいとして。


「アリサも聞いたのか?」


「わ、私は……ちょっと手首が痛かったので、それを隠すのに必死で」


「それどころじゃなかった感じか」


「はい、すいません……」


「アリサは一方的にやられただけなんだから、謝ることないって。大丈夫大丈夫」


 しゅんとするアリサの頭を慰めるように撫でてやる。


 ということで、聞いたのはジンだけか。


「全員に言われた感じか?」


「それは……次々言われたから、全員に言われたかどうかは……ごめん、ちょっと自信ない」


 実はこの直前、連絡を受けたエイナさんから生徒側から聞いた話をメモでもらったのだが、それを要約すると、


『突き飛ばしたのは認めるが、何も言っていない』


 とのこと。


 どうやら門番の一人が突き飛ばしたところを見たらしく、最初はしらをきっていたそうだが、その証言で突き飛ばしたことは渋々認めたらしい。


 ……経緯を考えると、何も言っていないというのも嘘なのではないかと思ったが、エイナさんもわりときっちりとした尋問をしてくれたらしく、まだ魔法学校に入りたての初級生がしらを切りとおせるほどではないようだ。


 だが、ジンが嘘を言っているとも思えないし――。


・ジン(ハーフエルフ) ※前回確認時より更新

職業:渋木薫の生徒

得意属性:風 第二属性:闇

腕力:8→24(+16)

体力;9→29(+20)

魔力:19→78(+59)

精神力:25→47(+22)

器用さ:16→30(+14)

知力;10→31(+21)

運:10→10(+0)

(特殊能力) 精霊の加護LV1→LV3 精霊の囁きLV0(※新規)


 ステータスは順調なのはわかるとして、新しい能力が目覚めている。


・精霊の囁き

行動などから対象の思考を感じることができる特殊能力。読心能力。LVが成長すると、より細かく考えを読むことが可能。平均ステータスが格下の相手であればあるほど、正確性が増す。


 なるほど、これは意見が食い違うはずだ。


 魔法学校の生徒たちの証言はエイナさんが尋問してくれた通り、確かに嘘ではない。


 彼らは口ではなにも罵ってはいない。ただ、だけ。問題なのは、アリサを突き飛ばしたという行為だ。


 もちろんマルスたちからの話もまだ残っているので断定はしないが、おそらくジンは『精霊の囁き』によって相手の思考を読み取ってしまい、それを『言った』と勘違いして殴りかかってしまった、と。


 そうなると、今回の件は100%ジンが悪くなる。これまで子供たちの成長を見ていて、どんな能力に目覚めるかは全く予測できない。ジンも能力の発現を自覚できていないから、その点は同情できるのだが。


「……先生、ごめん。せっかくの観光だったのに、俺のせいで面倒なことに」


「大丈夫さ。そう言うのも含めて大人の責任だからな。ちゃんと反省してるんだったら、もう次同じことをしないよう努力すればいい」


 そのためにはまず、新たに発現してしまった特殊能力のことを知らなければならない。おそらく今、ジンは『心の声』と『実際に口から発された声』が一緒くたに聞こえやすい状態のはずだから、まずは区別できるようになることが第一。魔法学校の生徒たちに謝るのは、その後だ。


 ということで、ミルミ同様、真夜中の個人授業の開始である。

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