第57話 ゆっくり観光……のはずが


 一時エイナさんと別れた俺たちは、ハミエさんの案内のもと、王都の街並みを見て回ることになった。



・王都メフィス

 この世界にある四つの大国のうちの一つであるルブルの首都。そのうち、五都と呼ばれる世界有数の五つのうちの一つにも数えられている。

 魔法技術を産業に転用し発展させてきた歴史から『魔法都市』とも呼ばれている。


※補足 四大国(ルブル、インブラ、アバドン、ゼカ)、五都(ルブルの首都メフィス、インブラの首都キング、アバドンの首都ビムナ、ゼカの首都ゼムナ、古代都市スタンカ)。四国五都と呼ばれている。



 なるほど。確かに情報通り、メフィスはフォックスやその他、旅の途中で立ち寄った街とは発展の具合がまったく違っている。


 まず首都の二つある大通りを真っすぐに走っている大きな車輪付きの乗り物。


 外見だけ見ると路面電車のようにも見えるが……下に引かれた線路以外は何もなく、動力らしきものは見当たらない。


「――あれは魔走駆動という技術を利用した滑車です。私も詳しい理論はわからないのですが、線路に使われている魔法鉱石と車輪に使われている魔法鉱石の反発する力などを利用して、各主要施設への人員や貨物の運搬に利用しているようです」


 列車であれば、この世界にも蒸気を利用したものが大陸間を走っているらしいが、メフィスは、それらの全てを魔法によって賄っているようらしい。


 周囲の店や施設を見ても、時間やその場所の暗さによって明滅するランプだったり、魔石の力によって水の流れを生み出している噴水など、ファンタジー世界らしい科学っぽいものが発展しているように見える。


 そして、その担い手を輩出しているのが、都市の中心部にある一際高い建物。国立魔法学校ということなのだろう。


「うおおお……」


「すごい……」


 俺もそうだが、子供たちにとってはほとんど未知の体験だろう。ジンも、アリサも、マルスも、ジョルジュも、ミルミも、みんな瞳を好奇心でキラキラに輝かせている。


「もしよろしければ、客車に乗りましょうか? 路線で、主要な施設は回れますので」


「みんな、どうする?」


「「「「「のる」」」」」


 訊くまでもなく、という感じだった。


 ということで、里長様とともに魔走駆動とやらを体感することに。


「カオル先生は、メフィスに何回か来たことが?」


「いえ、初めてですよ。話にはもちろん聞いていましたが」


「そうなのですね。大抵初めてメフィスに来るものは例外なく子供たちのような目をするものですが、あなたにはそれがなかったので訊いてしまいました」


「あ~……まあ、普段から感動の薄いやつだとは言われていましたからね。態度に出にくいだけで、驚いてはいますよ」


「そうですか、それは失礼なことを。申し訳ない」


 すべてが魔法仕掛けなので珍しいは珍しいが、元居た世界に較べればひと昔以上前の技術なのでそう驚きはなかっただけなのだが――里長様は鋭い人だ。


 演技するにしても嘘はすぐに見破られそうだし……まあ、大袈裟に演技をするよりは自然体のほうがマシだろう。


 子供たちのあとに客車に乗って、俺たちはメフィスを一周するコースへ。街の中でも人の集まる場所や、観光名所、その他国の施設などを順々に回っていく。もちろん、コースの中には魔法学校や国のお役人が通う城なども含まれる。


「次が魔法学校前ですね。今日はまだ中には入れませんが、外観だけでも見ていかれますか?」


「ですね。お願いします」


 ウチに建てるのは子供たち五人のための施設だが、将来、いつになるかわからないが子供たちがもっと多くなれば、それなりに拡張していく必要はある。外からの侵入をどのように防いでいるのかの確認などもあるし、外観だけでも十分参考になるはずだ。


 ハミエさんの案内で魔法学校前の停留所らしきところで下車すると、まず目に入ったのは、大きな一本の橋。


 遠くからだと街並みに隠れて見えなかったが、魔法学校の周囲には大きな堀があり、この橋を通らないと中には入れない仕組みになっているようだ。


「外壁の守りも魔法で?」


「ええ。肉眼では見えませんが、校舎を覆うようにして罠が設置されています。生徒たちや教員、もしくは学校で飼育している連絡用の使い魔などに配布されるタグがないとこれを突破できないようになっています。もちろんこれも校門限定ですが」


 他から出ようとしても、罠が発動するということか。大きな一本橋の先にはもちろん門番らしき騎士が立っていて、強引に突破しようものならあっという間に斬り捨てられる、と。


「魔法学校は国の各地から素質の認められたものが入学してきます。数は初級~上級の生徒と教職員を合わせておよそ千人。魔法学校の規模としては最大クラスです」


 つまりエリート揃いというわけだ。授業終わりなのか、先程の客車などにも魔法学校の制服を着た子供たちはいたが、皆制服以外のところも身なりが整っていた。


 子供たちにも綺麗な服は着せてはいるものの、お金をかけているわけではないので、どうしても見劣りはしてしまう。


 せめて子供たちの制服ぐらいは作ったほうがいいだろうか。しかし、こればっかりは俺がやろうと思って出来る世界ではない。誰か得意な人がいればいいのだが――。


「――っ!! お前、いきなり何をするんだっ!」


「うるせえっ!! そっちが先にやってきたクセに、アリサに謝れよっ!」


 ハミエさんの説明を里長様と一緒に聞いていると、ふと、激高するジンの声が耳に入ってきた。


 橋の少し先に目をやると、そこには、いつのまにか俺たちから離れていた子供たち五人と、三、四人ほどの同じ背格好をした魔法学校の生徒がにらみ合っていた。


「もめ事か……先生、少し失礼して」


「いえ、俺たちも行きます」


 原因はともかく、まずはあの場をなんとかおさめなければ。

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